第10話 力こそが正義!
近衛隊長は決断した。
「お連れしてさしあげろ!」
兵達は、顔を見合わせたが、
「早くするのだ!」
という重ねて発せられた命令に従い、悪役令嬢を拘束した。
老齢にも関わらず平兵士でしかない貧弱な老人と、権力をもち肉体的にも強者である近衛隊長。
どちらに従うのが賢いか、バカでも判る。
「おそれながら閣下。何の権限をもってその命令を下されるのですか」
「近衛隊長としての権限である! お連れしろ!」
「閣下の権限は、国王陛下より与えられているもの。
そして国王陛下の権限は、法によって規定されているもの。
であれば、陛下のご判断なくば、閣下は権限を奮う権限はなしですぞ」
「連れて行け!」
近衛隊長は無視することにした。
そして、この死に損ないを、こいつが大好きな正当な手順を踏んで、きちんと解雇してやる。と思う。
それとも、使い込みの罪でも被せて、罪人にでもしてやろうか。
権力があれば何でも出来るのだから。
「待つのだ兵ども! 何の権限にも裏打ちされておれぬ命令に従う必要なし!
間違った命令には抗い従わぬのが、正しき臣としての道であるぞ!」
まだ老人は何か言っている。
近衛隊長はうんざりした。
仕方ない判らせてやるか。
というか、最初からいつものようにやればよかったのだ。
貴人達の前だが、事態が事態なだけに許されるであろう。
近衛隊長は老人の方へつかつかと歩む。
ふたりの身長差は圧倒的。
対峙するだけで老人は潰されそうだ。
「黙れ老いぼれ!
その歳でまだ下級兵士の無能め!
そもそも我が命令に異を唱えるのは、陛下への反逆と同じだ」
老人は近衛隊長をおそれげもなく見つめ返し。
「黙りませぬ。法を曲げた命令に従うのは、臣として間違っております。
それに国法を積極的に破っている閣下の行動こそが反逆とみなされるかと愚考しますが」
近衛隊長は、嗤った。
「立派だな。それに確かに愚考だ」
そう言うと、拳をふりあげて老人を殴った。
露骨な暴力に会場から悲鳴があがった。
老人の体は吹き飛び、真紅の絨毯の上に転がった。
見下ろす近衛隊長は、鼻を鳴らしあざ笑った。
弱い相手を見下し、殴りつけ、跪かせるのは快感だな。
見守るやんごとなき人々も、わずかに顔をしかめるものも含めて、隊長の行為を肯定した。
たったひとりだけ、目をそむけ、こぶしをきつく握りしめ怒りを堪えている少女がいたが、彼女とて胸を痛める以外何一つ出来なかった。
この世界の法は、力ある者、やんごとなき者達のためにあるのだから。
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