第9話 ヒロインと悪役令嬢。心はひとつ!
くそ。死に損ないが!
近衛隊長は舌打ちしたが、王太子も公爵令嬢も望んでいる命令ならば、無理矢理通しても罰せられる事はあるまいと思い直す。
「王太子殿下のご命令である!
そして、公爵令嬢もご見学をお望みである!
公爵令嬢を地下牢6番へ案内するように」
あくまで案内なのだ。
連行するわけではない。
王太子もその発言に乗った。
「公爵令嬢にはご見学をしていただくだけだ。
だが、高貴な方が見学するのだから、
危険がないか事前に確認をしたほうがよいだろう。
オリバー!」
側近のひとりがひざまずいた。
「はっ。牢内に危険がないか徹底的に調べてまいります」
事態は動き出すかに見えたのだが。
「おそれながら殿下。閣下。
地下牢への見学は許されてはおりますが事前の許可が必要ですぞ。
地下牢に収容されているのは重罪犯、いつ脱走を試みるか判らぬ危険な者達。
許可なく外部の者を入れるなど許されておりません。
見学日の一週間前に申請し、その時の牢屋の使用状況を考慮した上で、許可の可否が判断されるのですぞ。この場で命令してすぐ叶うということはありませんぞ」
「ぐっ……」
思わず漏れたうめき声は、ヒロインのものだったか、悪役令嬢のものだったか、近衛隊長のものだったか……それとも全員のか。
老兵の言うことは、全くもって正しい。
残念なくらいに正しい。面倒くさい正しさである。
ヒロインも悪役令嬢も焦る。
ヒロインとしては、地下牢6番への移送は何か怪しい予感がするが、この老人が振り回す理屈だと、そもそもどこへだろうと投獄自体ができない。
力ある公爵家はなるべく電光石火で倒す必要がある以上、ここで謹慎ですますわけにはいかない。
悪役令嬢としては、地下の仕掛けが無駄になるどころか、最悪、事前の調査などされたら仕掛けがばれる恐れまである。自分が連行される前にじっくり調べられるのが最悪だ。
となれば、さっさと放り込まれるに限る。
公爵令嬢は、
「ほほほ。わたくしにそのような危険があるわけなどありましょうか?
重罪犯など知り合いにもいなくてよ? 脱獄の幇助などしたくてもできませんわ。
か弱いわたくしが脱走犯の逃亡を扶けるなどという酔狂をするとでも仰るので?」
兎に角早く地下牢へ!
ヒロインと悪役令嬢は同床異夢なのに心はひとつだった。
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