第7話 モブ老人口出しする。


「無礼者! 殿下の御前であるぞ!」


 王太子の背後に控えるイケメン4人組がコーラスする。

 だが、老兵はひるむ色を見せない。


「目の前で国法まさに破られんとする時、諫止するのは臣としての勤め。

 陛下が不在であるとしても、陛下の代理として殿下が出来るのは、

 その御令嬢に、陛下が帰って正式な審理が始まるまでの謹慎を申しつける事のみですぞ」


 王子は絶句した。

 確かに越権行為なのだ。


 王太子という地位は重いが、王ではない。

 代理を任されているとしても、何でも出来るわけではない。

 逮捕権、裁判権、それは王の権限なのだ。


「下がれ! 陛下の内だ――」


 王太子は手で側近の言葉を遮る。


 内諾。


 それはあくまで内諾にすぎない。あうんの呼吸と言うヤツだ。

 裏付けの文章があると言っても、あくまで万が一の保障だ。

 出来れば出さないで済ませるべきもの。


 いや……と王子は思い至る。

 父王は人並みに息子を愛する男ではあるが、それ以前に為政者である。

 王子が情勢不利となったら切り捨てる決断くらいは出来る王だ。

 その時、王子が文章を偽造したと言い出しかねない。


 そもそも、こんなことに内諾の文章を与えたこと自体が怪しいと言えば怪しい。

 もしかして、内諾の文章を示さねばならないほど情勢不利となれば、自分を切り捨てる口実を作るためだったのでは……。


「それとも。

 恐れ多いことながら、陛下の身に何かあったという報せありや」


 王太子は言葉を発せられない。


 ここで父王の身に不慮の事態あり、と言えば、それは王の死を望んだととられかねない。


 王太子の沈黙に、ヒロインと悪役令嬢は共に焦る。


 ヒロインにとって、ここで悪役令嬢を潰すことはマスト。

 そして、悪役令嬢にとって、地下牢へ連れて行かれることはマストなのだ。

 だが、王太子の権威でこの老人を黙らせる事は出来ない。


 ならば――


「ほほほ。忠義かつ勇敢なる兵士殿、心配なさることはありませんわ。

 地下牢といっても、それは謹慎と同じ事。殿下の越権には当たりませんわ」


 自分から認めればと悪役令嬢は思ったのだが、


「やんごとなき方はご存じないのでありましょうが、

 地下にある番号付の牢は、重罪犯のみが収容される牢で御座います。

 その使用には、国王陛下の承諾が必要とされております。

 謹慎とはいえないですぞ」


 それくらい知ってるわよ!


 と悪役令嬢は内心毒づくが、余りに真っ当な反論で反論しようがない。

 一瞬『わたくし、地下牢に興味があったんですの♪』と言おうかとも思ったが、

 この頭の固そうな老人には、通じそうもない。


 ヒロインはヒロインで、悪役令嬢の言葉に眉をしかめた。


 こいつ6番に入りたがっている? どうして?

 確かに6番にいれるつもりだったし、悪役令嬢も転生者だからそれを知ってるのは不思議じゃないけど。


 まさか、断罪されるのに備えて、6番には何か仕掛けを!?


 思わず王太子を見上げると、彼も6番と口に出して不自然さから何事かを悟ったようで。


「……確かに地下牢は行き過ぎであった。

 貴族用の牢に収容すると――」


「おそれながら殿下。

 そもそも殿下には、高位貴族の令嬢を投獄する権限はありませぬぞ。

 先程も申し上げさせていただきましたが、国王陛下がお戻りになるまで謹慎させる権限のみで御座いますぞ」


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