第6話 悪役令嬢は一発逆転しますわ!

 くぅぅぅ。追い込まれましたわ!


 でも、勝負はこれからですわ。


 だって、わたくしはアペンドディスクの悪役令嬢ですもの!


 彼らがわたくしを放り込もうとするのは、重罪犯用の地下牢6号って知ってますのよ。前世では、何度も何度も悪役令嬢を送り込んでやったんですもの。


『ハートどきどき、イケメンがいっぱい、どれを断頭台に送るか迷っちゃう♪』ではヒドインを送り込んでやりましたわ。


 こんなこともあろうかと。

 自分が悪役令嬢だって判った時から色々用意しておきましたの。


 用意の大部分は、ヒドインの狡猾さのせいで無駄になりましたけど……地下牢の仕掛けはバレていないみたいですわね。


 ゴロツキどもを雇って、実家のタウンハウスから地下牢6号まで秘密の通路を作っておきましたのよ。ベッドの真下にある石材を決められた順序で外すと、ぱかっと出口が開きますの。


 一度通路を通ってこっそり入ってみたのでぬかりはありませんわ。

 あそこに入れられさえすれば、いつでも脱出できるってことですわ。


 脱出不能な牢獄から、怪盗のごとく消える悪役令嬢!

 かっこいいですわ!

 しかも、金の力にモノを言わせて作ったトンネルでなんて悪役令嬢に似合ってますでしょう!


 実家に戻れさえすれば、わたくしを溺愛しているパパ公爵が助けてくれますわ。

 万一を考えてトンネル掘っておいたらどうかしら? って提案したら ノリノリで賛成してくれましたわ。

 パパ大好き♪

 賄賂に人身売買に密輸麻薬とどこからどうみても悪人だけど、前世のDVクソオヤジなんかと比べものにならないくらい大好き!


 ゲーム世界では、摘発されるなんて思ってもいなくて何の準備もしてなくてやられましたけど。この世界では違うんですのよ。悪の準備は万全ですわ!


 半年ほど前、わたくしが王座も欲しいっておねだりしたら、パパってばすっかりやる気。

 卒業式の夜。王宮と卒業パーティ会場に襲撃をかけて皆殺し、王家簒奪。

 パパにはそれだけの力があるんですのよ。

 断罪で追い詰められたのを大逆転なんて、悪役令嬢にふさわしいですわ!


 わたくしが脱出さえ出来れば、後は簡単。

 王都の各所には、武装した犯罪者達や我が実家の手勢が潜んでいますのよ。


 勝ち誇っているヒドインも、わたくしのモノにならないないなら憎らしいだけのイケメンどもも皆殺しですわ! わたくしの計画に抜かりなしですわ!


 さぁ早く言いなさいな。

 わたくしを重罪犯用地下牢の6番に放り込むっていいなさい!


 わたくしの華麗な逆襲のはじまりですわ!


 圧倒的な逆転勝利の予感にゾクゾクしてきましたわ!




    ※    ※    ※



「ワルキュラを重罪犯用地下牢の6番に連れて行け!」


 王太子は運命の台詞を口にした!


 ヒロインと悪役令嬢の口元に、にぃっと卑しい笑みが浮かぶっ!


 ヒロインが勝つか!?


 悪役令嬢が勝つか!?


 王都は両勢力の繰り広げる内戦の舞台になってしまうのか!?


 詰むや詰まざるや!



 だが、その時。



「恐れながら王太子殿下に申し上げまする!

 それは越権行為ですぞ!

 殿下にはそのような裁きを下す権限はありませぬ!

 陛下が不在であるとしても、陛下の代理として殿下が出来るのは、

 その御令嬢に、陛下が帰るまで謹慎を申しつける事のみですぞ!」


 誰もが注目していなかった人物から、強い意志をこめた叫びがあがったのだ。


 並み居るやんごとなき人々は、声の主を見た。


 決然と声をあげたのは、平の警備兵。

 明らかに引退間際の老齢の男であった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る