70話 始祖を救済します -5-
あれから一悶着あったが、なんとか推したちを
あとのことはダリアン王子を筆頭に、推しの兄たち4人が引き受けてくれた。
ユリカも本人たっての希望で、聖ワドルディの住む小屋に残ることになった。
そんなわけで私は今、推したち3人と馬車に乗っている。
先程までのことがあってか、少々気まずい雰囲気だ。
私がこの空気をどうしようか迷っていた矢先、シュジュアが口を開いた。
「……リーゼリット嬢が、あのまま起きなければどうしようかと本気で悩んでいた」
「えっ?」
「俺は君に救ってもらったのに、何も果たせないまま終わるのかと
「……」
「君に恋してからの俺は、見苦しいところばかり見せているな。でも、本気だからだというところをわかってほしい。君が初恋なんだ」
「シュジュア様……」
それまで、シュジュアの話を静かに聞いていたターナルが話し出す。
「初恋というのなら、私も同じです。リーゼリット殿をお慕いしはじめてから、この気持ちに翻弄されてばかりです」
「……」
「今日もあなたを護るどころか、逆にかなり無理をさせてしまいました。心配が積み重なったせいか、聖ワドルディ様と口論までしてしまいました。不甲斐ないばかりです」
「ターナル様……」
今度はシュジュアとターナルの話に耳を傾けていた、ラドゥス王子が話し出した。
「初恋ならば、僕も同じだぞ。まったく、豪胆な令嬢を好きになってしまったばかりに」
「……」
「床で倒れているのを見たときには、心底肝が冷えたぞ。締め出されたあとも気が気でなかった。だというのに、そなたは聖ワドルディの寝床で寝ていたことしか知らない」
「ラドゥス様……」
推したちの複雑な心境を聞かせてもらいながら、私は心の中で猛省していた。
ただでさえ先日は逃げ帰ってしまって、事前に感情を伝えなかったことに申し訳なさがある。
私にしかできなかったこととはいえ、必要最低限の相談で作戦を実行してしまったことで、余計に心配をかけてしまったようだ。
「皆様、申し訳ありませんでした。本当にご心配をおかけしました」
今の私は謝ることしかできない。
自分の弱さのせいで、推したちをさらに不安にさせてしまったのだ。
「リーゼリット嬢、俺は謝ってほしいわけではない。ただ、君にもわかってほしかったんだ。この
「それは……私がシュジュア様への思いを
「それは違う。俺が、俺たちが有耶無耶にさせたんだ。誰も選ばれないことで、君が愛してくれているのをいいことに、3人ともが愛される環境を作ってしまった」
私は3人から告白されながらも、肝心の私の気持ちは曖昧にしてきた。
推したちの愛の言葉に浮かれておきながら、その言葉に返答してこなかったのだ。
「今までは私たち3人ともを愛している、それだけで十分でした。ですが、今からは違います」
「それはどういった意味でしょうか、ターナル様?」
「今後はあなたを取り巻く環境が変わるでしょう。それに思わぬ伏兵が現れました。リーゼリット殿の返答を待ってはいられない事態になってきたのです」
私の返答を待ってはいられない事態とはどういうことだろうか。
私の頭に疑問符が浮かんでいるのを察したのか、ラドゥス王子が補足してくれる。
「そなたが聖ワドルディを救ったことで、今までと待遇が変わることはわかるだろう?」
「はい」
「そのうえ、聖ワドルディまでそなたに恋愛感情を持った。うかうかしていると、いつの間にやら伴侶にでもなっていそうなくらいに」
「……はい?」
(今、ラドゥス様はなんとおっしゃいました? 聖ワドルディ様が、私に恋愛感情を?)
「つまりだ。リーゼリット、これからは僕たちを含めそなたの争奪戦がはじまるだろう」
「そんな
「大袈裟ではないことは、すぐにでもわかるだろう。これからは、間抜けなそなたでもわかるくらい僕の気持ちを伝えよう」
つまり、これからは本気で口説かれるということだろうか。
既に先程までのお話で、十分愛されていることは伝わっているというのに。
「あの、お気持ちは十分に伝わってきましたので……。私に考える時間をくださいな」
「君に考える余地を与えないほど、俺のことしか考えられないようにしていこう」
「私もあなたに、この
「シュジュア様、ターナル様。えっと、考える時間を……」
どうやら、推したちの本気度を見ると考える時間すら与えてくれないらしい。
私は
「そういうことだ、リーゼリット。これからは覚悟しておけ」
私が推したちの恋情に応じてこなかった付けが、今になって回ってきたようだった。
*****
あれからも推したち3人の口説き文句にあたふたしながら、学園にまで馬車で戻ってきた。
そのあとは待機していたノーマン侯爵家の馬車で、自邸に帰着した。
邸宅にまで帰ってきたと思ったら、お父様がオーラを
今回の諸々の件がバレてしまったらしい。
これは相当怒られるかと思いきや、泣きながら嘆かれてしまった。
愛する娘が無事に邸宅まで戻ってきてくれたことが、本当に嬉しいようだ。
私もお父様に心配をかけたことを心から謝り、変わらず愛してくれることを感謝をする。
「愛する娘をどこにも嫁がせるものか」とか、「娘は一生ノーマン侯爵家の者だ」とか、なんだか聞き捨てならない言葉もあったが素直に頷いておく。
こうして私は、お父様と仲直りをした。
私が私室に戻ろうとすると、今回の件で近々私は国王と謁見することが決まったことをお父様から伝えられた。
私の処遇に関しても、そこで伝えられるようだ。
「最近のお嬢様は、このジェリーをないがしろにしておりませんか?」
「そんなことはないわ、ジェリー。最近は私独自で動くことが多々あっただけよ」
今度は私室で待っていた侍女のジェリーが、
近頃は一緒に行動できていなかったので、不満が溜まっているらしい。
「これまでもこれからも、ジェリーを信頼しているわ。本当よ?」
私はとびきりの笑顔をジェリーに向けた。
「でしたら、これからも何処へなりとお嬢様とともに連れて行ってくださいませ」
いつもは小言ばかりの侍女の切実なお願いに、私は根負けしてしまった。
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