57話 決闘を応援します -2-

 早速私は、決闘に向けて行動を開始しだした。

 昼休みと放課後に学園の闘技場の一部を借りて、ラドゥス王子の剣の特訓をすることにした。


 今日の昼休みはその手続きに追われて、私たちは放課後に落ち合うことになった。

 闘技場に向かいながら、ラドゥス王子は自信なさげに話す。


「リーゼリット。正直に言って、僕はサトゥール兄上に剣で勝った試しがないんだ。今からおこなう鍛練は本当にやる意味はあるのだろうか?」

「ラドゥス様。こうなった以上は、私は貴方様に勝っていただかないと駄目なんです。格上の方に勝つには相当の訓練が必要だと思われます。ラドゥス様には、その覚悟はおありではないのでしょうか?」


 これは賭けだ。

 私とラドゥス王子は、運命がのしかかっているこの賭けに勝つしかないのだ。

 私の本気の目に、ラドゥス王子はグッと言葉を詰まらせている。


「よろしいですか? サトゥール様に否応なしに納得していただくには、それ相応の覚悟が重要になってきます。そのためには、意地を通すための気迫が大事です」

「わかってはいる。わかってはいるのだが……」

「今のラドゥス様では、サトゥール様は説得にすら応じていただけないでしょう。……私の進言では、貴方様を奮い立たせることは難しいのでしょうか?」

「……………」


 闘技場前でたたずんで、ラドゥス王子と会話をしている最中だった。


「闘技場前で何をしている、ラドゥス? そして、リーゼリットよ?」

「ラドゥス殿下とリーゼリット様ですか? どうして、このようなところに?」


 ダリアン王子とユリカが、こちらに向かって歩いてきていた。

 そういえば、小説バイブルでのダリアン王子は、日々の鍛練を欠かさない人だったので闘技場に来るのもおかしくはない。


(「……ラドゥス様」)

(「ああ……悪いな」)


 私はラドゥス王子をこっそり勇気づけようとする。

 ラドゥス王子はそれに小さい声で応じてくれる。


「先日の論争において、サトゥール兄上と僕との決闘が決まったでしょう? それに向けて、鍛練をおこなわなければならないのですが、いざとなると怖気づいてしまい……このザマです」

「──!? その節はすまなかったな、ラドゥス。末の弟にこのような面倒事を押しつけてしまうとは、長兄失格だ。……その鍛錬、私にも手伝わせてもらえないだろうか?」

「ダリアン兄上? それは、まことですか!?」

「まことだ。私もラドゥスに、その勝負に勝ってもらわねば困るからな」


 思わぬところで、頼れる助っ人が出現してくれた。

 これでラドゥス王子は、鍛練に消極的なままではいられないだろう。


 私はダリアン王子に少し相談をしたくて、話しかけてもらえるよう目線を送る。


「どうした、リーゼリット?」

「ダリアン様、ちょっとお話をよろしいでしょうか?」


 私はダリアン王子の近くに寄り、こそこそと話をする。


(「サトゥール様はお強いです。一ヶ月、普通に鍛練に励んだ程度では難しいでしょう。ダリアン様が今までサトゥール様の剣術をご覧になったうえで、その必勝法をラドゥス様に教えていただけませんでしょうか?」)

(「──!? つまり、強くなるための剣術ではなく、サトゥールに勝つための剣術を伝授しろとのことか?」)

(「はい、そうです。ダリアン様、お願いできませんでしょうか?」)

(「わかった、考慮してみよう。……ユリカの件といい、貴殿はあらゆる事柄に関わっているようだな」)

(「私も私なりの事情があるのです。お察しくださいませ」)


 ダリアン王子にいろいろと首を突っ込んでいることを指摘されてひやひやしたが、別にご立腹されているわけではないようなので一安心する。

 私はこそこそ話を終えて、ラドゥス王子の横に立つ。


「リーゼリット、ダリアン兄上と何の話をしていたんだ?」

「今は秘密ですよ」


 ラドゥス王子は気になるようではあったが、それ以上は聞かなかった。



 こうしてラドゥス王子は、ダリアン王子に放課後に剣術を教えてもらえることになった──。



 *****



「で、何をしているのだ。リーゼリット。そなたは、この決闘に関与していないだろう」

「何を言っているのです。私も首を突っ込んだ以上は、この鍛練にご一緒しますわ。それではユリカさん、お願いします」


 侯爵令嬢が鍛練に参加しているとバレるといろいろ言われそうだが、ダリアン王子に闘技場内の秘密裏の場所を教えてもらえた。

 それに、いまさら貴族令嬢がとか、淑女がどうとか言ってられない。


「わっ、わかりました。本当に魔法をかけますよ、よろしいですね? 『リーゼリット様のお力が強くなりますように──。身体強化!』」

「ありがとう。助かるわ、ユリカさん」


 ユリカの魔法によって非力を克服し、私もラドゥス王子と、ダリアン王子の鍛練に参加した。

 ダリアン王子とラドゥス王子も、はじめは首を振っていたが、私の必死の懇願に根気負けした。


 基礎トレーニングからはじめて、剣術の応用まで一通りおこなう。


「……こう言ってはなんだが、リーゼリットは非力を除けば剣の才能があるな。才能だけでいえば、もしやラドゥスにも勝るかもしれん」


 私はダリアン王子に、一応褒められたらしい。

 その言葉に対して、ラドゥス王子はショックを受けている。


「……僕は最近剣の鍛練を怠っていたのもあるうえ、王子の中で一番弱いのは自覚しています。ですが、リーゼリットにまで負けてしまうとなると黙っていられません。ダリアン兄上、指導は厳しめでお願いします」


 私に負けていられないと、ラドゥス王子がさらに気合いを入れはじめたので、なんだか当て馬にされた気分だ。

 ただ、一番に頑張ってもらわないといけないのはラドゥス王子なので、気合いを削ぐような意見は言わないでおく。


 私も必死に剣の訓練に付いていきつつ、ラドゥス王子の様子を窺う。

 鍛練を怠っていたとラドゥス王子は言っていたが、そうは感じさせない動きで練習に励んでいる。

 王子ということもあって、もともと求められていた力量が多かったのであろう。


 3人の王子の中でも、サトゥール王子は剣に秀でていて、その実力はエリート騎士レベルの存在も打ち負かすと聞く。

 私も小説バイブルでしか情報を知らないのが口惜しいことだが、今から立ち向かう相手はそのようなお方だ。


 それでも、負けられない戦いというものがあるのだ──。


 私はラドゥス王子の鍛練が少しでも捗るために、私自身も剣の特訓に励むこととなった。

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