55話 学園祭に参戦します -4-

 私が制服に着替え終わってからは、推し3人+ユリカからの説教がはじまった。

 今回はユリカまで巻き込んでしまったのは申し訳ないが、説教する側の人数が増えたのは悲しい。


「わたしは貸さなかった方がいいのではって、ちゃんと言いましたよ。それに、予備のドレスがあるにも関わらず、細工されたドレスの方を着たのはリーゼリット様です」

「本当に返す言葉もないです……。ユリカさんから言われた通り、もっと警戒しておくべきでした」


 もっともな意見に、私は心から反省の色を示す。


「僕たちに相談を持ちかけてきてくれたのはユリカだ。不穏な感じがするから、ひそかに調べてくれと」

「そうだったのですか。助かったわ。ありがとう、ユリカさん」

「……リーゼリット様にはいつも助けていただいてばかりだったので、そのお礼です。」


 ラドゥス王子によって、今回の助力はユリカの要望によるものであったことが明かされた。

 私のお礼の言葉に、ユリカは少し照れている。


「それで、あの令嬢たちはいったい誰だったんでしょうか?」

「知らないのも無理はないだろうな。ドレスを持ってくるよう命じられた取り巻きたちは、全員俺たちの先輩の2年生だった」

「2年生の先輩方? いったいどうしてなんですか?」

「ロイズ公爵の令孫と婚約寸前だった2年生の令嬢が、君の誘拐事件でおじゃんになった。その逆恨みによる犯行だな」


 シュジュアの調べによると、首謀者は2年生の令嬢の中でもヒエラルキーの高い存在だったらしく、ロイズ公爵の令孫との仲が裂かれてしまったのがよほどこたえたらしい。


 ロイズ公爵は廃爵のうえ、牢獄行き。

 歴史ある公爵家であるからか、お取り潰しこそなかったものの、一族は追放のうえ離散することになり、お家断絶となった。

 ちなみに、ロイズ公爵の娘であるゲネヴィア第1王太子妃と、第1王太子妃の子であるダリアン王子は数々の事件に関わっていないことが証明され、罪状の追求は免れることができた。


 たしかに理由としては納得がいくが、まさかの逆恨みとは。


「この短時間で、既にそこまでわかったのですね。さすがです、シュジュア様」

「ああ。君のためになることなら、俺の力の届く限り調べてみせよう」

「シュジュアの誘導尋問は恐ろしかったぞ。僕は幼馴染の黒い一面を、もうとなりに立って見たくはないな」

「そういうラドゥスも、威圧感がすごかったぞ。おかげで、短時間で問いかけは済んだが」


 どうやら、私には想像できない尋問方法で、情報をかき集めてきたらしい。

 あまり深掘りしない方がいい気がしてきたので、私は話題を変えることにする。



「それで舞台袖で待機して、曲のクライマックスで皆様が私のドレスがはだけないように支えてくださったのですね」

「ターナルを止めるのが大変だった。ギリギリまで舞台上には上がらない方がいいというのに、突っ走って行ってしまいそうでな」

「申し訳ありません、ラドゥス殿下。すぐに駆けつけたい思いで気がはやってしまったばかりに、せっかくの歌を台無しにしてしまうところでした」


 私が舞台上で慌てている間に、舞台袖でもいろいろあったようだ。

 出番でもないのに、舞台に上がるのはさぞ勇気がいることだろう。


 なんだかこうして、推したち3人とヒロインのユリカに心配をされるのはとても嬉しい。

 感謝をしているのはもちろんだが、ずっと独りだったはずの私に、かけがえのない人たちができたことが何より喜ばしいのだ。


「リーゼリット、何を笑っている! さてはそなた、また反省していないな」

「いいえ、反省していますよラドゥス様。ただ、こんなに私を心配してくれる人たちがいてくれることが、何よりもありがたいのです」


 そう言うと、みんな面食らったような顔をして、慈愛と苦笑が入り交じったような反応を見せている。

 ユリカまでそういった反応を見せるとは思わなかったが、私はヒロインにもだいぶ心が許されるようになったみたいだ。



 *****



 あのあとユリカとは解散し、私は推したち3人と学園祭名物の花火を観ることになった。

 実は建国200年記念祭でも、祝宴の花火が上がっていたようだがあのときはそんな余裕はなかったので全然観ていなかった。


 花火の観えやすい隠れたスポットを既に見つけてくれていて、私はそこに案内される。

 今まで学園内に、こんな小高い丘があるなんて知らなかった。


 推したちとこうして花火が見れるなんて、今日はなんて素敵な日なんだろう。

 美しい花火が上がっていくのを観ながら、私は推したちに感謝を述べる。


「今日はありがとうございました、ラドゥス様、シュジュア様、ターナル様。おかげさまで、今日は陰ですすり泣くこともなく学園祭を楽しむことができましたわ」

「まったくだが、それならばよかった。そなたはいつまでたっても、おっちょこちょいだからな」

「楽しめているのなら、俺もリサーチした甲斐があったものだ。君が陰で泣く姿を見ずに済んで安心した」

「役に立てまして光栄です。あなたがすすり泣く姿をただ見ているなど、つらいことでしかないので」



 それからは静かに花火を眺めていると、ふとラドゥス王子から声をかけられる。


「リーゼリット」

「はい、ラドゥス様」

「─────」


 花火の音で声が全く聞こえない。

 ラドゥス王子にもう一度聞こうとしても、なぜか教えてくれない。

 当惑していると、次はシュジュアから声をかけられる。


「リーゼリット嬢」

「はい、シュジュア様」

「─────」


 また花火の音で声が全く聞こえない。

 シュジュアにももう一度聞いてみても、なぜか教えてくれない。

 混乱していると、今度はターナルから声をかけられる。


「リーゼリット殿」

「はい、ターナル様」

「─────」


 やっぱり花火の音で声が聞こえない。

 ターナルにも駄目元で聞いてみても、なぜか教えてくれない。


 どうやら、わざと聞こえないように告白されてしまったようだ。

 こうなったら、私も仕返しをしてみることにする。


「ラドゥス様、シュジュア様、ターナル様」


 3人とも花火が上がり続けているにも関わらず、声をかけた私の方を見つめている。


「私はこれまでも、そしてこれからも、御三方を───おりますよ」


 うまい具合に、花火が私の声をかき消してくれた。

 3人からは何を言ったのか問いただされたが、私はこのことについては一切喋らないことにした。


 そう、これは私の中で留めておくべきことだ。

 これまではキャラクターとして、これからは人間として、私はこの方たちを愛して・・・しまったのだから。


「また来年もぜひ、ご一緒したいですわ」

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