21話 お茶会に参加します -3-
──お茶会??
(そんなイベントあったかしら?
第1王太子妃、ゲネヴィア。
ロイズ公爵家のご令嬢であり、ダリアン第1王子の母。
とある理由によって心労が募り、あまり社交界には顔を出せないでいる。
ちなみにラドゥス第4王子は、1つ上の兄のサトゥール第3王子と共に、第2王太子妃の子である。
私が思考を巡らせている間にも、カルムは話を続ける。
「ゲネヴィア妃殿下は、心労が重なっていらっしゃるので、私も音楽師として慰労のために出席するのです」
「茶会の開催か、そうだったな。ゲネヴィア妃は、未だ心労を募らせているのか……。あの方だけの責任ではないというのに……」
「ラドゥス殿下だって、忘れられるわけがないでしょう? ゲネヴィア妃殿下は、ご自分の子でなくとも分け隔てなく接してらっしゃいましたし……」
そうだった──。
私は前世の記憶から、
まだ入手していない、ダリアン王子ルート2巻に書いてあったはずだ。
ゲネヴィア第1王太子妃は、サトゥール第3王子と双子の"カドゥール第2王子"をロイズ公爵家が
ロイズ公爵家は、ゲネヴィア第1王太子妃の実家であるが、非常に野心的で国王もその地位ゆえに手を焼いている。
(──というのが
「ゲネヴィア妃は僕にも良くしてくれた、お優しい方だ。リーゼリット、もし茶会に出席するのであればぜひ労わってあげてほしい」
ラドゥス王子に第1王太子妃の労いを促されたが、私にはあまりに重すぎる話であるので、すぐには返答をできないでいた。
「……………」
「リーゼリット、そなたまで深く悩んで心労を患ってはならない。カドゥール兄上の為にも、遺された僕達は前を向いて歩まなければいけないんだ」
ラドゥス王子はそう語ったが、悲痛な面持ちを隠しきれていない。
あまりに重い空気になったからか、カルムがまた歌を歌いはじめる。
先程の重かった空気が、嘘のように晴れていく──。
「……ありがとうございます、カルムさん。お陰で少し、気持ちが楽になりましたわ」
「リーゼリット様のお役に立てたのなら幸いです。私の軽はずみな言動のせいで、重苦しい空気になってしまい申し訳ございません」
「いいえ。カルムさんのおかげで決意できましたわ。ラドゥス様──」
リーゼリットはラドゥス王子の方に向き直る。
「私、その役割を果たしてみせます───」
*****
ゲネヴィア第1王太子妃の労いを決意したリーゼリットだったが、肝心な事を忘れていた。
(そういえばっっ、お茶会の招待状は我が家に届いていたかしら!? ……届いていたわね!? ダリアン様を追うのを止めるなら欠席しておくべきかと、返事を保留にしていたのだったわ!!)
ノーマン侯爵家に帰宅次第、私は必死に招待状を探し始める。
「……お嬢様。探し物はこちらでしょうか?」
「──! さすがよ、ジェリー! 持つべきものは有能な侍女だわ!!」
「そうであれば、持つべきものは有能な主君であってほしいのですが……」
いつものように、侍女から小言を貰いながらも招待状に出席の旨を書き連ねる。
そして、早馬で招待状を届けた後に、ようやく安堵の息を吐く。
──いや。
まだ、安堵の息を吐く時ではない。
ここからが問題なのだ。
(そもそも、ゲネヴィア様を労るってどうすればよいのかしら?
第1王太子妃は心労がたたったせいで、お茶会の途中で倒れてしまう。
命をも危ないというときに、ユリカの言霊の魔法で気力が戻り、ひとまず一命を取り留める。
ダリアン王子が子爵令嬢のユリカに、さらに恋心を抱くようになるきっかけだ。
では、今回起こるとされる騒動は、ユリカに任せっきりでよいのだろうか?
(……いいえ、よくないわ。ユリカの魔法は未だ"大魔法使い"の域に達していないはずだもの。一時的にしか効果を得られないのなら、ぬか喜びになるだけよ)
ユリカの実力が原作通りなら、ゲネヴィア第1王太子妃の他界は避けられない──。
私は、ダリアン第1王子とサトゥール第3王子の権力争いを防ぐには、ゲネヴィア第1王太子妃の存在は必要だと思っている。
いくら
(ならまずは、ゲネヴィア様がどのようなお方か、さらに深く掘り下げて知るべきね!)
しかし、第1王太子妃に関する情報収集は困難を極めた──。
昔の息災であった頃の話は聞けるが、カドゥール第2王子が帰らぬ人となってからはあやふやで曖昧なものばかりだ。
確かな情報は、病に伏せっているということだけ。
これでは、情報収集を始めた頃と何も変わらない。
(本当に残念だけど……仕方がないわ! とにかく最悪の事態は起こさないようにするわよ!!)
そして、迎えたお茶会当日──。
私と同じく、次期王太子妃の婚約者候補が集まる中、一際目を引く存在。
──子爵令嬢ユリカ。
子爵令嬢のユリカは、なぜそのような格好になったのかと感じるくらいに、みすぼらしいドレスを着ていた。
(「なんなのかしら? あのみすぼらしい衣装は?」)
(「あの子だけがお茶会に招待されたのを妬んだ令嬢たちが、一張羅を破いてしまったんですって」)
(「いい気味ね」)
どうやら、
このままでは、ユリカは相当なバッシングを受けかねない。
私は周りの令嬢たちに気づかれないように歩いて、ユリカの横にひっそりと立つ。
「……──!? リーゼリット様!?」
私は人差し指を口に当て「お静かに」と小声で話す。
「会場の外に私の侍女が控えていますわ。侍女の特徴を言うから、私の予備のドレスに着替えなさい。今ならまだ間に合うわ」
ユリカは私のアドバイスにかなり驚いているが、もたもたしているような時間はない。
「さぁ、早く行ってきなさい!!」
しばらくして、会場にユリカがいないことに周囲の令嬢達が気付き始める。
(「きっと、しっぽを巻いて逃げ帰ってしまったのよ」)
(「分不相応であることをようやく知ったのね」)
──だがその時、私の予備のドレスに着替えてきたユリカが入ってくる。
(「なによ! ちゃんとしたドレスも持っているんじゃない!」)
(「さっきのは茶番だったわけね!」)
令嬢達が小声で言いたい放題言っているが、知ったことではない。
ユリカに恥をかかれては、私が困るのだ。
「あの……ありがとうございました。……以前は私のことを嫌っていたはずですが、どうして助けてくれたんですか?」
ユリカはこっそりとこちらに寄り添ってきて、私に小声で話しかけてくる。
「……最近になって、貴女とダリアン様との恋路を応援したくなっただけよ。だから、他の令嬢たちに足を引っ張られないように頑張りなさいな」
ユリカはあまりの衝撃に、驚きを隠せないようである。
「リーゼリット様……」
ユリカが私に向けて、言葉を発しようとした瞬間──。
ゲネヴィア第1王太子妃が、お茶会の会場へ入場される──。
ただ、第1王太子妃の顔は──完全に顔面蒼白だった。
(これじゃ、お茶会開催の前にゲネヴィア様が倒れてしまうのが一目瞭然じゃない!! ……なんで、誰もお茶会を中止しようとしないの!?)
このままでは、悪夢のお茶会が始まってしまう──。
私は急いで周りを見渡し……宮廷音楽師のカルムを発見する。
私は傍にいたユリカの手を握り、そのままカルムの方へ歩き出し、彼の手も別の方の片手で握る。
ユリカもカルムも状況が把握できずに
(こうなった以上、どうしようもない。ぶっつけ本番でやってみせるわ──)
「ごきげんよう、ゲネヴィア様。突然ですが今から私、ノーマン侯爵令嬢リーゼリットが、子爵令嬢ユリカと宮廷音楽師カルムとともに
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