19話 お茶会に参加します -1-
シェイメェイ王国第4王子、ラドゥス。
シュジュア、ターナル、私と同じく、王立学園の1年生。
クールな見た目とは裏腹に、情熱的な一面を持つ。
そして、私の推しキャラクター(不憫枠+非攻略キャラ)の1人──。
私は推しに向けられた
それを知ってか知らずか、ラドゥス王子は畳み掛けてくる。
「ダリアン兄上の邪魔をせずに、勉学に励むようになったことまでは
「もっ、申し訳ありません! まさか、私の行動がダリアン様の醜聞になるなんて思いもしておりませんでした……」
「まぁいい。忠告は聞いたな。しばらく行動は慎んでおいた方がいい」
言いたいことを言い終えたラドゥス王子は、くるりと私に背を向け自分の席に着いた。
緊張の糸が解けた私は、今後について考えを巡らす。
ラドゥス王子に推し活動について、忠告をされてしまった。
確かに、ダリアン王子の後をずっと追いかけ回っていた私がそれをいきなりパタンとやめて、他の男性と一緒にいる場面を見られたら悪い噂が絶えないのかもしれない。
(……あれ? でもそれって、私の評判がさらに悪くなるだけで、ダリアン様の評判まで酷くなることはないのでは?)
ダリアン王子と
──それに私はあくまで、次期王太子の婚約者候補の1人。
なにがなんだかこんがらがってきた私は、新学期最初の授業が始まったことにより、一旦考えることを止めた。
今日はラドゥス王子にキツく言われた手前、しばらく推し活動は控えようか……どうしようかと迷っていた矢先にシュジュアは近づいてきた。
「調子はどうだ? クラス替えをした結果、授業内容も変わってきているはずだ。勉強には付いていけているかな?」
「シュジュア様に今後も勉強を教えてほしいのは山々ですが、その……ラドゥス様に怒られてしまいまして」
「……ああ、ラドゥスは大のブラコンだからな。あまり気にしなくてもいいだろう」
「幼馴染でいらっしゃるとはいえ、ラドゥス様をブラコン扱いしてしまっていいのでしょうか?」
第4王子ラドゥス殿下とシュジュアは、同い年であるのもあって幼馴染だ。
その上で、ラドゥス王子をラドゥスと呼ぶことを許されている。
「別にこれくらいはいいだろう。リーゼリット嬢、ラドゥスの苦言をいちいち聞いていたら身が持たないぞ。俺にでも嫉妬を向けてきたりするからな」
「……嫉妬ですか?」
「ダリアン殿下やサトゥール殿下に話しかけただけでうるさいんだよ、ラドゥスは」
それは知らなかった。
ダリアン第1王子やサトゥール第3王子に話しかけただけで、シュジュアを妬んでくるラドゥス王子。
──ぜひとも観てみたい。
「わかりました。……ではよろしければ、また勉強を教えてもらってもよろしいでしょうか?」
「同じクラスになった手前、お安い御用だよ。また空き時間に聞きに来るといい」
そういうわけで、私──リーゼリットはシュジュアにこれからも勉強を教えてもらえることになった──。
*****
あれからもシュジュアやターナルと交流を続けていたが、幸いラドゥス王子からあの日以降何も言われることはなかった。
クラス替え後も授業に真面目に取り組んでいたことが、功を奏したのかもしれない。
今日も今日とて、私、シュジュア、ターナルとで空き時間にプチ勉強会を開いていた。
「わかりやすい説明をありがとうございます。これで解けましたわ」
「飲み込みが早いな、リーゼリット嬢。君は教えがいがある」
「──! ありがたきお言葉ですわ」
推しに褒められることは少し慣れてきたとはいえ、私は今でも照れてしまう。
「それにしても、リーゼリット殿は絵が上手いですね。ノートに描いてある図解も大変見やすくて、理解がしやすいです」
「そういや、以前描いてもらった設計書まがいの図も非常に美麗ではあった。俺もそれまで、リーゼリット嬢にそんな特技があるなんて知らなかったな」
ターナル、シュジュアがそう言って、私のノートに描いてある図解を見てくる。
「ありがとうございます。ある日なぜか突然、才能が開花したみたいです」
元々、侯爵令嬢
だとしたらこれは、"私"の才能である。
あまり詳しく前世を思い出せないので、なぜそのような才能を持つ経緯があったのかは不明だが──。
「ある日なぜか突然、か──」
「シュジュア様、あまり気にしないでください。これは"天啓"とは恐らく関係ないと思います」
「"天啓"? リーゼリット殿、"天啓"とはいったいなんでしょうか?」
「ターナル様、単なる言葉遊びです。あまり気になさらないでください」
話が逸れながらも勉強を続けていると、ふとノートを置いている机に人影が見える。
慌てて後ろを見ると、ラドゥス王子が立っていた。
「なんだ、ラドゥスか。驚かせないでくれ」
シュジュアがラドゥス王子に声を掛ける。
「今日はシュジュアに用はないよ。……用があるのはそなただ、リーゼリット」
(え? シュジュア様ではなくて、この私?)
そして、ラドゥス王子は私を射抜くような目で見る。
「リーゼリット、明日の昼休み。美術室まで来てくれ──」
それだけ言えば用が済んだとばかりに、ラドゥス王子はくるりと背を向けて退室していった。
とうとう呼び出されてしまった。
私、ラドゥス様に滅茶苦茶に怒られるのかもしれない……。
私が憂鬱な気分でいると、シュジュアとターナルが励ましてくれる。
「リーゼリット嬢、大丈夫だ。あの顔は怒りの表情ではない。きっと、君が思っているようなことは起こらないだろう」
「リーゼリット殿、気に病まないでください。あれは、何らかの決意を見せたような表情でした。決して、お怒りではないでしょう」
推しに励まされて元気を少し取り戻した私は、勉強を再開し始めた。
──次の日。
私は、昼休みに呼び出された美術室まで来ていた。
美術室の明かりがついていて、中からは人のいる気配がするので、既にラドゥス王子は中にいるのかもしれない。
私は、意を決して美術室の中に入る。
「失礼します」
「来たか、リーゼリット。……さっさと中に入れ」
「はいっっ! わかりました」
中にはラドゥス王子がいて、絵を描いている途中のようだ。
集中しているのか、私を
私はラドゥス王子が意識を研ぎ澄ませて描いている、絵の見える方に歩いて眺めてみる。
描いている絵は、人物画だった。
「これは……聖ワドルディを描いた人物画ですね」
「──! 一目見て当ててくれたか!! そうだ、これは聖ワドルディを描いた絵だ!」
ラドゥス王子は、先程の雰囲気とは打って変わって歓喜の表情を見せる。
だが、私の顔を見た途端にいつものクールな雰囲気に戻る。
───聖ワドルディ。
200年前の建国時に、大いなる功績を挙げてみせた"大魔法使い"だ。
天変地異をも起こしてみせ、魔法を巧みに操る彼は、"魔法使い"の始祖とも呼ばれている。
我が家に伝わる家宝も、この始祖によって造られたものだ。
「聖ワドルディをお好きでいらっしゃるのですね」
「好きやどうこうではない。聖ワドルディは優れた方だ。愛する人を亡くして、姿を隠したとされているが……今もこの国の安寧を願ってくれていると思いたい」
「だが……」とラドゥス王子は言葉を続ける。
「僕の絵が独特過ぎるのか、肝心の偉大さが伝わらないんだ。何を描いても『殿下の絵は素晴らしいと思います』としか、皆は言ってはくれない」
「そうですね。ラドゥス様の絵は、私から見ても素晴らしいと思います」
──でも、確かに……。
ラドゥス様の絵は独特だわ。
だって、ラドゥス様の絵は"
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