12話 鉱山を見学します -1-
私とラニの共同開発により、こうして双眼鏡と単眼鏡の量産に向けての企画が実施されることになった。
私自身は資金調達のために、この2つの品物の他にも目新しい商品を作る意気込みでいた。
しかし、シュジュアから『君はその知恵を惜しみなく発揮したい気持ちはわかるが、その"天啓"を披露するのはもう少し控えた方がいい』と言われてしまって、仕方なく断念した。
その代わりに、シュジュアからは開発補助の代金として、売上の前金ぐらいにたんまりお給料をいただいてしまった。
そのおかげで、事業に献金という名の
推しからお金を貰って
勝手に事業に献金するのを決めたこと自体にも両親は猛反論したが、既に資金を集めたことと、私の意思があまりに固かったのとで渋々許された。
お母様はともかくとして、お父様は"わたくし"が"ポンコツ令嬢"として過ごすことには苦笑しつつも放任していたのに、"私"らしく推し活動をしようとすると認可を得られないのは誠に
そういった経緯で、推しの1人であるターナルへの貢ぎとしてガラティア侯爵家の鉱山採掘事業に献金することにした。
ガラティア侯爵家はノーマン侯爵家同様、200年前の建国当時から続く家系である。
その当時はガラティア侯爵家の方が権力があったそうだが、とある理由により立場が逆転し、今ではノーマン侯爵家が筆頭侯爵家となった。
今やノーマン侯爵家は、二大公爵家であるキュール公爵家とロイズ公爵家に次いで威光ある家系である。
そんなガラティア侯爵家だが、近頃珍しい鉱山を発見したようで話題になっている。
なにやら、この度"聖石"を採掘することに成功したそうだ。
"聖石"とは、"魔法使い"にとって、尊ぶべき鉱石である。
普通の人にとってはただの石だが、"魔法使い"が使用すれば魔法の威力を高めたり、その魔法の能力を込めたりすることができるらしい。
ただし普通の人にはただの石なので、判別することが難しい"聖石"をどうやって発見したかは不明だが、
ところでなぜ、その鉱山採掘に献金しようとしているかというと、その事業に献金した者はその支援の見返りとして鉱山を見学できる権利を得る。
つまり、堂々と推しの領地に入ることができるようになるのだ。
こうして推しの領地に入る権利を得た私は、夏季休暇の間に鉱山に向かうこととなった──。
*****
いつも同様、私は監視員役の侍女を連れて、馬車でガラティア侯爵家の領地へ向かう。
本来は侍女と2人で向かうつもりだったが、何故かシュジュアとその助手のジオも一緒に同行することになった。
『おや、偶然だね。俺もこの事業には支援したいと思っていたところだったんだよ』といつもの微笑みで言われたが、その本意は私には
「シュジュア様は何故、この事業に支援したいと思ったのですか? 私はその……"お告げ"によって、ここに来るきっかけになったのですが」
「……俺は"聖石"に興味があってね」
「"聖石"に……ですか?」
「ああ、俺が探しているものと──ちょっと似ていてね」
シュジュアからは、それ以上ははぐらかされて何も聞けなかった。
(
リーゼリットは考えを巡らす──。
(そういえば、シュジュア様の探し物は──。でもその探し物と関係なんて、あったかどうか……そうだったわ! 確かその探し物の原石が、"聖石"だったはず──!!)
今持っている
その失せ物は、建国時代の200年前から続くこの世界にまたとない家宝だ。
その手がかりを少しでもつかむ為に、失せ物の原石である"聖石"に興味を持つのも無理はないだろう──。
(だけど、"魔法使い"であるラニなら"聖石"も何かしら反応をみせると思うけれど……。ジオがいくら鑑定士とはいえ、普通の人にただの石と"聖石"の違いなんて一概にわかるのかしら?)
そうこう考えているうちに、ガラティア侯爵家の邸宅に着いた。
鉱山に直接向かう前に、ガラティア侯爵とその嫡男であるザネリに挨拶をしに行くことになっていた。
鉱山見学は馬車移動だけでは難しく、日帰りでは難しいので当初から宿泊行程となっている。
その宿泊の際に、ガラティア侯爵家の客室を借りる予定だ。
「ようこそ、いらっしゃいました。キュール公爵家ご子息のシュジュア様に、ノーマン侯爵家ご令嬢のリーゼリット様」
「出迎え感謝する。この度はよろしく頼む」
「出迎えいただきありがとう。この度はどうぞよろしくお願いするわ」
邸宅に着くと執事に挨拶され、客間に案内される。
案内された客間には、ガラティア侯爵とザネリ、そして推しの1人である侯爵の次男ターナルがいた──。
ガラティア侯爵との挨拶自体は無難かつ、表向き和やかに応対を済ませた。
「後は若い者たちだけで、会話を楽しんでくれたまえ」と侯爵が退室する。
室内に残ったのは、ザネリとターナル、シュジュアと私、ジオの5人になった。
シュジュアの護衛と私の侍女は、案内時より客間の前で控えている。
「それではここからは、ガラティア侯爵家嫡男であるこのザネリがお話いたしますね」
ガラティア侯爵家令息の長男、ザネリ。
ダリアン王子と同じ王立学園3年生。
ザネリから改めて鉱石採掘事業支援のお礼と、軽く事業内容の説明をされる。
"聖石"を発見したのは領地の民で、元は宝石鉱山として採掘していたらしい。
"聖石"が見つかった後は、領地の民が主力になって採掘していて事業はさらに盛んになっているようである。
ザネリの事業内容の説明が終わった後にシュジュアが質問をしているが、何やら難しい質問の仕方をしているので私にはさっぱりわからず、頭の上に疑問符を浮かべていた。
それを察したのか、ジオが小さな声でこっそり解説してくれる。
(「支援金の使用先の主な内訳と、"聖石"自体を鑑賞することは可能かを聞いているみたいですよ」)
(「ありがとう、ジオ君」)
使用先の内訳については
ジオのお陰でその後の会話の内容も読み取れたので、小声でお礼の言葉を述べる。
(「助かったわ、ジオ君。途中から、お二人の会話についていけていなかったから困っていたのよ。ありがとう」)
そんな私──リーゼリットとジオの様子を見ていたターナルは、静かに
「では私は鑑賞用の"聖石"を用意してきますので、後の案内については一旦弟のターナルに任せます。もしも困ったことがあれば、私ザネリの方にご相談ください」
「感謝する、ザネリ氏。事業に関する説明と回答もありがとう。ターナルも、夏季休暇中の訪問になってしまって悪いな。案内をよろしくお願いするよ」
「ザネリ様、ご説明いただきありがとうございました。ターナル様、ご案内よろしくお願いしますね」
ザネリの言葉に、シュジュアとリーゼリットは感謝の意を述べる。
だがザネリの退室時の際に、不意にリーゼリットは彼からの冷たい視線を感じる。
その視線に見覚えのあるようでない私は、ザネリから少しばかり背を向けて紛らわすことにした。
ザネリが退室した後、ターナルはほんの小さくため息をついてシュジュアや私のいる方に目を向ける。
ガラティア侯爵家令息の次男、ターナル。
シュジュア、私と同学年の王立学園1年生。
長男のザネリと同じく丁寧で礼儀正しい面があるが、ターナルの方が口調が柔らかい。
そして、私の推しキャラクター(不憫枠+非攻略キャラ)の1人だ。
「シュジュア殿。リーゼリット殿。私の方からも、改めてよろしくお願い申し上げる。そして──」
ターナルが部屋の周囲を確認し、シュジュアと私の近くに来て顔を寄せてくる。
「──私の悩みを少しばかり聞いていただいてもよろしいでしょうか? 実は、あなた方からいただいたご支援にも関わってくる問題なのです」
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