08話 依頼に同行します -4-
「──あっ、あの! あの!! ……助けてくださってありがとうございました」
ジオはそう言って、シュジュアと私に向けて深々と頭を下げてきた。
そして頭を下げたまま、事の次第を
「ちょっと前に僕、さっきのおじさんに突然ここに連れてこられて……。それで、『ここにある宝物にはどんな価値があるか、ぼうやの
次第にジオは涙ぐみ始める。
私はひとまずこの子を慰めようとしたが、それをシュジュアが手で制する。
「……大丈夫だよ、お姉さん。続きを話します。でも、いくら鑑定をしても宝物は減るどころか増えていって……。さすがにおじさんがいくら裕福だとしても、おかしいなって思いはじめて。もしかして僕、悪いことをしてるんじゃないかなって思っておじさんにそれを話したら、優しくしてくれていたおじさんがいきなり怒りはじめて……」
ジオは涙を流しながらも、一呼吸置いてまた喋りだす。
「『おまえはここに盗んできた、次々と運ばれてくる宝物をひたすら鑑定をしていたらいいんだ!』って言われて……。それで僕、やっぱり悪いことを手伝っていたんだってわかって。でも、『ここで鑑定を続けなければ、家族がどうなってもいいのか』とも言われてしまえば、僕どうしようもなくて……。それで、悪いことだって知ってからも、盗難品の鑑定を続けていました」
先程まで話の続きを無言で促していたシュジュアが
「だいたい君の事情はわかった。……それでジオ、君はどうしたい?」
「ぼっ、僕の家族は盗難事件には全く関係ありません! だから! だから、もし裁かれるのなら、僕だけにしてください!!」
ジオは必死といったていで、精一杯懇願してくる。
その言葉にシュジュアは目を伏せて頷きつつ、ジオの肩に手を置く。
「君の言い分はわかった。家族には手を出さないでほしいということだな。実は元々、俺は君の家族にまで今回の一件で罪を償ってもらう気はなかったよ。俺に用があったのは君だ、ジオ」
「……ぼっ、僕ですか?」
シュジュアはジオの耳元で何かを囁く。
「─────。……そう言うわけで、君を盗難
「──!? でっ、でも僕は絵画や陶器への審美眼しかなくて……。情報収集のお手伝いなんてできませんよ」
ジオは自信がなさそうに
「大丈夫だよ。そこにいる俺の護衛のイルゾも、情報を集めてきてくれるまではいいのだけれども、集めた報告をまとめるのが苦手でね。おかげで仕事が増えるばかりだよ」
「シュジュア様、今の状況で耳に痛い発言は控えていただけると嬉しいです」
耐えられなかったのか、シュジュアの護衛のイルゾが口を挟む。
そうやって、シュジュアがジオに優しく声をかけていたからか、あれだけ張り詰めていた場の空気がいつの間にか少し和んでいる。
「すぐに返事はできなくてもいいよ。……でも、できれば早いうちの方がいいかな。君自身を守る為にも、俺の提案は受けた方がいいと思うよ」
「……わかりました。では、明日お返事します」
どうやら上手く話はまとまったようで、関係者のようで部外者だった私はホッと息を吐く。
小さな子が騎士団に連れていかれるかもしれなかったと思うと、さすがに後味が悪くなりそうだったので、シュジュアの助手になるかもしれないと聞いて安心した。
(そういえば、
「……──いたわ!助手!!」
思っていたことを口に出して声を上げてしまったことに、リーゼリット自身もビックリしてしまって、周囲に気まずそうな顔をして謝る。
皆訝しげな顔をしていたが、私が思わず上げた声についての追及はしてこなかった。
(確かにいたわ、情報屋の助手。シュジュア様の作業の手伝いをこなせるばかりか、
隣にいる子どもが愛する
シュジュアにのちほど助力する人物との邂逅をこんな形で見れるなんてと、ついつい感極まってしまう。
私はその勢いでジオの両手を取り、それに私自身の両手を合わせて、目線を合わせた状態で勢いよく話す。
「ジオ君! ジオ君のこと、今後どんなことになってもお姉さんが応援してるからね!!」
「……はっ、はい! ありがとうございます!」
私の勢いに、ジオは思わずといった風で頷く。
そうこうしているうちに、馬車が到着したようだ。
いつの間にと思いつつも、『さすがシュジュア様、手際がいいわ』と心の中で感心する。
馬車には、シュジュア、私、私の侍女、ジオが乗ることになった。
シュジュアの護衛は馬車ではなく、ここまで来た道の通り、馬に乗って周囲を警戒している。
時間が経っているので先にリーゼリットを送ろうとしてくれたが、子どもが帰宅する時間が遅い方が問題だろうと遠慮する。
ジオを家族の元へ送った後、シュジュアが事の
噂であった、宝飾品が盗まれる事件が多発しているのは事実だった。
あらゆる屋敷から盗んだ宝飾品をこの屋敷で鑑定し、闇市場や闇オークションで売りさばいていたらしい。
そのため、仲介人であるこの屋敷の貴族を泳がせていたが、大元の足は未だ掴めないままだそうである。
「どうしてこの事件の真相を、シュジュア様が追うことになったんでしょうか? シュジュア様でなくても、他の者が動いていた可能性は?」
「たしかに俺以外の人物も、そろそろ動き出しそうな感じではあったね。まぁ、ジオの家族に『心配だから調査してほしい』と依頼されて請け負うことになったからだね。……というのは建前で」
「……建前で?」
シュジュアは真剣にとも、にこやかにともとれるような表情で私の方を向く。
「ジオのような人物がほしかったからだ、と言えばリーゼリット嬢。君は幻滅するかい──?」
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