第18話 騎士団の訓練所
騎士団の訓練に遊びに来ないか――そう誘われたのは、珍しく家族揃って、もちろんリムリアも一緒に朝食をとっていた時間だった。
「そういえば、まともにお前らが戦っているところを、見たことがないなと思ってな」
「おいおい、そりゃ笑うところか、親父」
「あ?」
「違うのならば、よく考えた言い訳がそれかね、と呆れるところだ」
「お前それは言い過ぎだろ。確かに、そろそろ連れてきたらどうだと言われちゃいるけどな」
「そうかね」
「隠れてやってるから、そりゃ見たこともねェだろ。危ないからやめろなんて言われりゃ面倒だ」
「あらレーゲン、そんなことしてるの?」
「おふくろが卒倒するほどじゃねェさ。俺はやってもいいが、リムリアはやらねェよ」
「同行はするがね」
という流れがあって、その日のうちに騎士団の訓練場へ向かった。
軍騎士、いわゆる部隊運用なども含めた一般兵の訓練場とは違い、王騎士は個人の護衛などがメインのため、屋内の――あまり広くない訓練部屋を使うらしい。
広くないとはいえ、レーゲンの家の庭と同じくらいなので、狭いとは感じないにせよ、綺麗に整地された部屋なのだから苦笑したくもなる。
王城の守護、その責任者たち。
役目が違うとはいえ、ほとんどが軍騎士あがり。レーゲンの父親も含めて四人がそこに集まっており、とりあえず挨拶代わりの名乗りだけは済ませた。
「さてレーゲン、誰とやる?」
「ん? ああ、選んでいいのか。じゃあそっちの兄さんで」
「俺かよ、ははは……」
笑ったのは、この中でも小柄な部類に入る男だ。レーゲンは今、160くらいなので、同じくらいの背丈になるのだろう。
「リムリア、槍をくれ」
「うむ」
リムリアは影から槍を取り出して渡す。最近になって作った次元式の一つ、
――生前に収納していた荷物が、その中に存在していたのだ。
何故、という疑問はひとまず置いてある。今は戦闘訓練の時間だ。
さて。
「レーゲン、開始の合図はないぞ」
それがこっちの流儀だが、さて、目の前には槍を構えた子供がいる。どうしたものかと彼は少しだけ考えた。
腰にある短剣は二つ、これを抜くつもりはない。どのくらいの実力かを見定めることが必要で、それは同時に、ほかの連中にも教えることになるので、ここからの訓練がやりやすくなるだろう。
まずは様子見。
視線を逸らさず、視界内に収め、動きを見ていた――のにも関わらず。
「おい」
そうレーゲンから声が放たれた時、その呆れたような声色と共に、喉元にある槍の切っ先に気づいた。
「――」
「油断してどうする。外見で決めつけるな。屍体の腐敗した匂いと、血の匂いしかねェ戦場の中で、当たり前ッてやつが目の前に落ちてたら、警戒しろと教わらなかったのか?」
やれやれと、レーゲンは槍を引く。
四歩の距離があったはずだ。切っ先から四歩、気付かなかったで済む距離ではない。
「よし、じゃあこれだ」
くるりと槍を回転させたレーゲンは、柄尻の部分を軽く彼の腹部に当てた。
「お互いの訓練なら、一方的じゃいけねェな。兄さん、俺は躰のどこかに当て続ける。兄さんはこれを外す。お互いに攻撃はなし」
「……おう、諒解だ」
「得意だろ、兄さん」
「言ってろ」
今度は油断しない。最初から全速力ではやらないが、加減もしないバランス。
レーゲンは彼の動きを読む。
動いてからでは遅い。重心の移動から行動の先を読む――つまりは、先の先を読むための訓練だ。
――結果から言えば、最後までずっと、レーゲンの読み勝ちであった。
ただ最後に、術式を使って振り払った彼がレーゲンの背後に回った時に、槍は彼の躰から離れた。
だが。
「背後ッてのはいけねェなァ」
逆に握っていたのだから、背後に向かうのは穂先であり、その先端がやはり、喉元にぴたりと停止していた。
「続けるか?」
彼は両手を上げた。
「冗談だろ、息が上がって、まともに動けねえよ。……交代だ、勘弁してくれ」
「たかだか五分だろ、何言ってンだ。じゃあ次は、そっちのでかい兄さんでどうだ? おいリムリア、槍はいいから刀を寄越せ」
「ぼくを便利な荷物袋か何かと勘違いしてないかね?」
「勘違いはしてねェよ」
「ふむ、素直で結構。だがぼくは荷物袋ではない。本音を言っても変わらんぞ」
刀は腰に
対したレーゲンは自然体のまま、左手で鞘ごと引っ張り出し、右手は柄にさえ触れない――逆だ、と気付いたのは、知っている父親とリムリアだけだ。
左利きだから、本来ならば逆にするはず。となればこれは、あえて右手での扱いを前提としている訓練か。
上段に構えた相手の間合いの中にゆっくり入り、やや左側でぴたりと停止する。瞬間、ぴくりと相手が動いた時にはもう、刀の柄が相手の腹部に当たっており、彼は姿勢を崩して後退する。
柄打ちはできるが、得物が壊れるからやらないと以前は言っていたのに、軽くならば問題ないのか。
その軽くで、ダメージを受けているようでは、流しが足りない。
「あんたの得意な間合いだろ、兄さん。反応が遅いぜ、やるならためらうな。一撃で決めるのが、兄さんの得意分野だろう?」
やれやれと、リムリアはほかの騎士たちから離れ、隅の壁に背中をつけて腕を組んだ。
彼らの錬度は知れた、これ以上は見ていても面白くはない。
三人目の騎士に代わったころ、青年が顔を見せた。
「いい、挨拶はいらん。続けろ」
そして。
中身のない左の袖を揺らしながら、リムリアの隣に来ると、同じよう壁に背を預け、気にするなと手をひらひら振る。
「――やってくれたな」
「第一声がそれかね」
「これでも感謝しているんだが?」
「どちらに対してだ」
「国の整理ができたことだ。もっとも、俺も親父も、いずれ利用しようとしていた手札を、勝手に使われたから思うところもある」
「ふむ、使われないよう金庫の中に入れたところで、大事なものが入っていますと証明するようなものだ」
「お前ならどうする?」
「すぐに使うか、――そんな手札は用意しない」
「なるほどな……」
そこでようやく、ローウとリムリアは、お互いの名前を交換した。
「命拾いしたことは、ぼくじゃなく、あっちのレーゲンに言うんだな。予定ではきみは事故死させるつもりだった」
「俺にとってもそれは覚悟していての行動だ。だとして、何故だ?」
「今、きみが言った通りだとも。現場でレーゲンは、きみがただ楽しみを求めてあの場にいたのではないと、死の覚悟から知ることができた。書類上で見るきみの動きは明らかに貴族社会への従属だったのでね、その覚悟は似つかわしくない。ならば裏がある――そういう現場の判断だ。ぼくも特に反対はしなかったがね」
「――現場の判断をしたのか」
「腕の一本、きみにとっては安いものだったろう?」
「ああ、不便だが、その程度だ」
「だとしたら、レーゲンの見極めも正しかった」
「…………」
「こうして呼ばれたからには、落ち着いたのかね?」
「ほどほどには、な。飯の時間以外に、こうして顔を見せられるくらいには余裕ができた。詳細は?」
「知らん。ぼくたちがすべきことは、とっくに終わっている」
「……だろうな」
後始末を押し付けられたローウは、あまり良い気分ではないが、それも仕事だ。誰かにやられるよりは、よっぽど利益を得られる。
「非公開情報も含むぞ」
「構わんよ、大して興味がないし、必要になったら調べる」
そうやって、今回の騒動を引き起こしたのだから、当然だ。
「第二王子ロディは地下牢で自殺した。身体強化系の薬を自分で服用して暴れたんだがな」
「ああ、それは資料にあったな。制御もできない、思考もしない、子供がかんしゃくを起こしたように暴れ回る――それで完成とは、笑い話だ。実用性の欠片もない。どうして自我を持ち、変身を可能として、元に戻れる薬にしないんだと思ったものだ」
「戦力の増強、という思考が欠けているからだろう。結界系の魔術師が封殺して、自死を待った」
「ほう、そのあたりの資料は渡していないはずだが?」
「牢屋に入れてからすぐ調べたからな、欠点もわかる。研究室の人員も処刑して、資金を流していた貴族の首と一緒に、隣国へ送り付けておいた。要求は何もしていないが、理解できただろう」
「いささか甘い処理だとは思うが、ぼくが口出しすべきことではないな」
「甘いか?」
「ぼくならどうするのか、聞くと後悔すると思うが?」
「では、やめておこう。第三のメズロは、戦争幇助の罪で軟禁中、殺害された」
「ふむ、生きているうちに裏取りができなかったのかね」
「……そこまでわかるのか。確証がなかった、そのために餌として利用した。自分は悪くないと口にするような人間だったからな、あらゆる手を使って関係者と接触しようとするだろう。それを全て把握した結果、後宮にいるあいつの母親まで繋がって、さらに貴族、商人、ロディと同じ隣国の関係性まで洗いざらい調査した」
「綺麗になったかね?」
「ある程度は、な。掃除をし過ぎるのもあまりよくはない。空いた穴には、排除されつつあった、親父の代からひいきにしている連中を据えたよ。古株の方が落ち着くし、やり方を知ってる」
だが。
「ラナイエアを失ったのは痛手だった」
「そうかね?」
「政治に関わらない貴族だったが、ああいうどこにでも喧嘩を売るような奴がいると、空気が澱まないからな」
「空気抜きの役割か。あいつのことだ、誰の味方もせず、かといって敵にもならない立ち回りで、状況を引っ掻き回すだろう? それがないぶん、貴族内部の改革もやりやすいだろうに」
「そこの空白を埋めるのは、俺じゃなく貴族だ。見ていてかわいそうになる」
「今までの怠慢が祟っただけだ」
「厳しい物言いだな。それと、リュウには、好きに生きるよう伝えた」
「ほう、そうかね」
「少なくともイムウィとは和解できただろう――が、さすがに卒業までには、まだやることもある。特に、国を出るつもりならば、な」
「当然だな。リュウが何を考えているかは知らんが、どう足掻いても第五王女として生まれた以上、それを否定することは難しい」
「……本当に、顔を合わせていないんだな」
「打ち合わせが必要な間柄ではないのでね。ふむ……ローウ、騎士団が使っている、訓練用の山があると耳にしたが」
「ああ、基本的に訓練用として、手入れをしない山になっている。冒険者、一般人ともに基本的には立ち入り禁止だ。何かあれば、騎士が調査に向かう」
「そこを数日、貸してくれないかね。使うのは主にレーゲンだが、ぼくも術式の実践をするのに、人目のつかない場所を探していてな」
「今の時期は使われていないし、許可取りなら構わないが」
「リュウを呼び出せ」
「――理由付けは」
「任せる」
「今回は、お前の名を出していいんだな?」
「前回があったかどうか、ぼくの記憶は定かではないが、構わんとも」
そうだ。
まだ一度も、何かをやったなどとリムリアは口にしていない。立場のある人間との会話では、処世術である。
もっとも、半分以上は肯定していたので、追求されれば否定は難しい。それもお互いに承知の上だろう。
「三人か?」
「いや、リュウの友人に狐がいるのは知っているか? そいつも同行させる――つもりだ」
「監視はつくぞ」
「誰の手の者かをはっきりさせてくれ。それによってこちらも処分を考えよう」
「……わかった。邪魔をしないようにはさせるが、俺と親父の手の者に限ろう」
「であれば、こちらからも忠告で済ます。干渉しないようにな」
「わかった、わかった。さて……ああ、お前の目から見て、王騎士はどうだ」
「実戦経験が圧倒的に足りんな。戦場想定が必須ではないのかもしれんが、それにしたって甘すぎる。これでは外に出た時の護衛など任せられん」
「具体的な例を出せるか?」
「そうだな、ではこれだ」
右手の掌を見せたリムリアは、そこに握れるほどの小さな水球を作り出した。
「これが脅威に見えるか?」
「いや」
「そう、それが問題だ。おそらくそこにいる騎士に見せても、似たような返事があるだろう。それはつまり、この水を生み出す術式における
手を軽く振れば、水は消えた。
「ローウ、口を閉じたまえ」
「ん? ――ん」
「ただの水だ、飲み込んで構わん。人は、どうも術式は自分の傍に発生しなくてはならん、と思っているらしいが、自分の魔力が届く範囲ならば作ることは可能だ」
「……ただの水だな。いきなり口の中に生成されるとは思わなかったが」
「思わないだろう? この少量の水を肺の中に作られたら、人が死ぬことも知らん」
「――」
「道の真ん中で溺死体のできあがりだ」
「たった、これだけの水で?」
「そうとも。何なら、小石でもいい。それを心臓付近に創ってしまえば、人は死ぬ。こちらの方が技量は必要だがな」
「それも、今の魔力消費で可能なのか?」
「どうしてそれを教えないのか、不満に思うぼくの気持ちもわかるだろう。こんなものは初歩だ。そして、――対処法を自分で作るのも、初歩だ。ぼくもレーゲンも、当然やっている」
「……お前たちがおかしい一端が見えた。考えていることが違いすぎる」
「ふむ、そうかもしれんな。おっと、来たな」
ふらりと、入り口から顔を見せた老人を見て、ローウは片手を上げた。彼は驚いたようにレーゲンを見てから、こちらに顔を向け、さらに驚いたよう硬直する。
この場で優先すべきは。
「ローウ様がいらっしゃるとは、珍しいですな」
第一王子への対応である。
「俺のことはいい、気にするな。今回は、この子たちの訓練を――いや、お前に誤魔化しは不要だな、訓練長」
「そうですな」
「用事があって理由を作ったのは確かだが、訓練をして貰っているのが現状だ」
「なるほど、そうでしたか」
一区切りとしたレーゲンも、こちらへ来る。
「よう、じーさんがフゲンの師か?」
「さようでございます」
「レーゲンだ。今の俺じゃちょっと荷が重いからリムリア、お前がやれよ」
「ぼくかね? さすがに勝てるとは口が裂けても言えんが、手合わせくらいならばやろう。ぼくもそれなりには戦闘ができると、ローウに見せる必要もあるだろう」
「それは俺にとっても喜ばしいが、どうしてお前はやらないんだ?」
「刀を扱うなら、同業者だ。俺は俺の理由で、同業者には一切の負けを許してねェ。となると、無茶をする必要がある。ガキの無茶ッてのは、後遺症が出て、将来に影響が出るだろ? そういうのは、やる前から避けるのが賢いやり方だ」
「それがお前の生き方か」
「ここは戦場じゃねェからなァ」
「で、やるのかね? ぼくはレーゲンと違って、ぱっと見て実力を把握できるほどではない。どこまでが無茶かも知らんが、まあ、そこそこ動けるが」
「いいでしょう。ふがいない騎士団の代わりに、年寄りがお相手いたしましょう」
「よく言うぜ、楽しそうな顔しやがって」
「残念ながら、楽しめるようなやり方はせんがね」
中央付近に移動したリムリアは、影から黒色の直刀を取り出す。こちらはレーゲンが創ったものだ。以前に使っていたものも、どういうわけか
レーゲンは。
「よう、ローウ。義腕の調達は反省が終わってからか?」
「よほど不便ではない限りな」
そうかと、レーゲンの反応はそのくらいだ。
さて。
対峙した老人は刀を引き抜き、右手だけで持って構える。左手は鞘を握ったままだ。
リムリアは直刀の腹に左手を添え、持ち上げるようにして突きの構え。
「ああ、ローウ、一応言っておくが俺の傍から離れるなよ」
「ん、それは構わないが」
突きの予備動作、軽く引く動きは躰ごと。リムリアのそれを、あえて見るだけで済ませた彼は、その時点でまだ、理解というか把握しきれなかっただろう。
だから、目の前のことに対応する。
添えていた左手、直刀の影に隠して持っていた二本の
いずれにしても、回避してから慌てたよう、すぐ刀で斬り落とす。
そしてすぐ踏み込み、リムリアに斬り付けるが、それを避ける。回避だけなら問題なさそうだ――何故なら、普段の相手がレーゲンだから。
彼は。
「全体! 簡易陣形で得物を抜きなさい!」
攻撃を続けながら、そしてタイミングを見計らって距離を取り、やはり投擲専用ナイフを弾きつつ、そんな声を上げた。
その判断は間違っていない。
何故なら。
「どういうことだ?」
「リムリアのナイフ、ありゃじーさんじゃなく、暢気に休んでる騎士団を狙ったンだよ。実戦じゃよくあることだぜ」
そして、何度かの攻防があった数秒の間で、訓練場全体が霧に包まれた。
「単純な術式だな。水を撒いてるだけだ」
濃霧――視界が閉ざされた時、人は音に頼る。お互いに声を出せば反応もあるだろうが、陣形を作った以上、相手に対し、ここにいます、などと宣言するに等しいことはできない。
彼は、そのご老体は、気配が読みにくい状況であることを、知っていた。
おおよそ二十年前にあった大戦の、突発的な遭遇戦で、似たような状況に陥ったことを思い出す。
飛来した、何度目かのナイフを彼は斬り落とした。
音がする、戦っている――相手が一人ならば、こちらには来ていない。
「ぐっ、――っ!」
そう考えた一人の騎士が、腹部を殴られて吹き飛ばされ、レーゲンの近くまで転がってきた。
「油断すンなよ……戦場だぜ、ここは」
吐息を一つ。
「資格が奪われ、聴力に頼るしかない状況なら、攻撃する側が圧倒的に有利だ。しかもこの霧はリムリアの術式、つまり魔力が展開してる。気配は読みにくいし、リムリアにとってはこの範囲すべてを掌握してるようなもんだ」
「……どうしようもないな」
「戦場じゃよくあることだ。さっき言ってなかったか? 実戦経験が足りてねェッて」
「これが、そうか」
「おう。実戦想定なんてのは、実際に経験したヤツがやるもんだぜ」
金属音がする。そして、音がなくなる。
その繰り返しだ。
「そうだ、忘れてた。今回の件、教会の介入はなかったッてことでいいよな?」
「ああ、正式な訪問で親父は嫌味を言われてたが、基本的に教会は、その土地に居を構える許可と共に、国政へ関わることを禁じている。ただ今回の件で、息のかかった貴族がだいぶ処分されたからな」
「なるほどな。何か動きがあれば、こっちとしても収穫だったが」
「警戒するに越したことはないだろう。ただ、神聖王国は教会の総本山だ、近づかないことをお勧めする。何しろ、こっちの常識が通じない」
「覚えておこう」
暗黙の諒解というのは厄介なもので、当事者にしか通用しないものだ。これを知るには、内部に潜るしかない――想像を、確信にするためには。
さて。
しばらくすると、リムリアが声を上げた。
「全員、停止しろ。今から霧を解除する。何度かこちらに対応したようだが、よくよく自分の立ち位置と、周囲の状況を動かずに覚えておきたまえ。――それが現状、きみたちの実力だ」
ゆっくりと霧が晴れれば、ご老人とリムリアの立ち位置はほとんど変化がない。
しかし。
陣形を組んだはずの騎士たちは、背中合わせだったはずなのに、ばらばらだ。ともすれば同士討ちになりそうな立ち位置にもなっている。
リムリアが直刀を
「ご老体、訓練不足だ。よくよく言い聞かせておきたまえ」
「まったくですな。――全員、確認が棲んだら並びなさい。話があります」
説教の始まりだと苦笑しながら、リムリアが戻ってきた。
「では行くかね、レーゲン。もう充分だろう。ローウ、出口までの案内を頼む」
「ああ、そのくらいはやろう。訓練場の件は少し待て、結果が出たらイムを通じて伝えよう」
「なんだ、あいつは暇なのかね?」
「卒業まではそこそこ勉強しつつ、市井を学べと伝えてある。あいつは、国民のことを優先した方が良い。できるかできないか、すべきか否か、それは俺が判断して、あいつが決断すればいい――少なくとも俺は、それが理想だ」
そうかと、短くリムリアは口にするだけ。
これからの国のことなど、まったく興味がなかった。
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