第2話 最後の会話。

「あなたと結婚なんてしなければ良かった。」


 ハナは棒読みでイッタに告げた。


 「他に結婚したかった人が居たの。」


 その言葉をこの状況で聞いたイッタは、涙を零してしまった。彼女が機嫌を損ねて投げ散らかしたありとあらゆる物と、彼女が掻き毟り引きちぎった髪の毛に囲まれてイッタは泣いた。


 「愛してるよ。ハナ。」


 「うそだぁっ!」


 ハナは突然叫び、枕元にあった果物ナイフをイッタに投げつけた。イッタの右腕を深く引きり裂き、ナイフは床を滑った。大きな血管を傷つけ多量の血が溢れ出した。痛みより、悲しみ。イッタは何も言えず、泣き出してしまった。いい大人が。つか、ただのおっさん。でも、涙は止まらない。子供の頃は知らなかったが、大人でも悲しいのだ。涙は出るのだ。脅されたり、痛みに泣くのではない。心が消えていく感覚に泣くのだ。なんだかとても寒かった。こんなはずじゃなかった。


 イッタは力が抜けて何も出来ずにいた。部屋を飛び出す彼女を見送ることしかできなかった。悲しかったのだ。あらゆる気力が流れ出してしまっていた。


 部屋を飛び出した彼女は……結局、戻ってこなかった。ホカニイタケッコンシタカッタヒトの所へ行ったのだろうか?そうでは無い事を知っているイッタは余計悲しく、ただただ、泣き続けた。


 本当はすぐにでも連れ戻すべきだったのに、心が折れてしまって、何もできなかったのだ。


 これが、イッタが今でも戻りたい、やり直したい一瞬だった。


 貴方にも在るだろうか?この一瞬が。で、物語は進む。


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