十六学期 監督者

 ――絶対に許さない……! それは今、ここで私と金閣寺さん2人が決定的に対立した瞬間でもあった。





 愛木乃ちゃんは、お互いに弱みを知り合っている仲だから……まだ信頼できる。まぁ、それに……ぶっちゃけ愛木乃ちゃんの抱えている悩みの方がヤバイ気もするし……。正直、私の前世が~とか言われても……信じる人は少ないのかもしれない。







 だが、この女は……この女だけは……生かしておけない! 私の黒歴史を1つ知っている。それだけで……この先の学校生活における障害になりうる……。









 口封じをしなければ……いいや、最悪消さねば! 私の……完璧美少女生活のためにも……これで……この国の金閣寺財閥という巨大な組織を敵に回してしまう事になるが……もうそんな事を気にしている場合ではない! 私の秘密を知る者は……少しでも減らさなければならない! だから……。






 私が、本能寺さんの元へ……向かって行こうとしたその時だった。突如、私と本能寺さんの睨み合いの仲裁に入った者が現れる。




「……はい。ストップ」



 その人は、本能寺さんと同様に白衣を身に纏っており、セクシーな黒タイツとムッチムチの太もも……それを筆頭に……まさしく、ボンッ! キュッ! ボンッ! の3拍子がそろったダイナマイトボディーと……エッチさを際立てる赤いメガネ。真っ白い肌。……金色の髪の毛を下ろしたその人は、私と本能寺さんの間に突然現れて、私達の事を止めるのだった。




「……2人ともそこまでよ」





「……せっ、先生!?」



 なぜか、そこにはさっきドリンクを買いに行っていたはずの保健室の先生が立っていた。




「……げっ!」


 本能寺さんが、とても強張った顔で……先生の事を見つめていた。なぜだろうか、急になんだか、固まってしまっているような……。さっきまでの偉そうな感じがないというか……。





「……先生、どうしてここに?」


 私が、恐る恐ると言った様子で聞いて見ると保健室の先生は、答えた。




「……そりゃあ、ドリンクを買えたから戻って来ただけよ。そしたら、保健室の中でこの子を見つけてね」



「ぎくっ!」




「……え?」


 とてもビクビクした様子の本能寺さんと呆れた顔をしている保健室の先生。そして、2人の様子を見て何がなんだかさっぱりの私と愛木乃ちゃん、水野さん。




 すると、先生は本能寺さんの方へ近づいて行って手に持っているドリンクのペットボトルの底を彼女の頭にチョコンとのせると、たちまちお説教が始まる。




「……コラ。また、人様に迷惑をかけて……今度は一体何したの?」




「……そっ、その…………ちょっとお薬を……」




「ん?」




「……お薬を作って保健室中の液体に混ぜて……」




「……はぁ、全く。いくつになっても変わらないのだから! いい加減そう言う事はやめなさいって……何回言えば気が済むわけ?」





「……ごめんなさい」





「……後で保健室中の液体や水道……治しとくのよ」





「はい……」




 え? なんか、さっきまでの本能寺さんがまるで嘘みたいに……。どうして? ていうか、この2人は一体どういう関係で……?




「……あのぉ、お2人は一体……?」



 すると、本能寺さんの事を叱っていた保健室の先生が振り返って、私達に丁寧に教えてくれた。



「……ごめんなさいね。つい、いつもの流れで……。私、実は金閣寺財閥のお世話係で……」




「……え!? って事は……」




「えぇ……。この子の御世話係として……教員免許を持っている私が、この子の安全のためにも……今年からこの学校に派遣される事になったの。だから、実は……保健室の先生って言うのは、副業で……。毎日、保健室にいないのも……財閥やこの子のお父様の研究を手伝いに行っているからなの」




「……はっ、はへぇ~」



 マジかよ。なんだか、とんでもない人だった。私や愛木乃ちゃん、水野さんがポカンとしていると、先生は本能寺さんに問い詰める。




「……もしかして、この子達にも何かしてないでしょうね?」



 そのとんでもない眼力に……本能寺さんは、さっきまでの自信たっぷりの様子から一変、逆らえなさそうな感じで……ほそほそと弱弱しい声で告げた。




「……じっ、実はその……2人に薬を……」




「……もう、バカ!」



「あふん!」


 本能寺さんの頭の上にペットボトルの底がちょこんと乗る。先生は、その後にちゃんと本能寺さんに告げるのだった。




「……全く、後でちゃんと治してあげなさい! それから、人様に迷惑をかけたんだからしっかり謝るのですよ!」





「……はっ、はい……。どうもすいませんでした」




 本能寺さんは、とても不服そうに私達に謝る。それから、程なくして彼女のポケットから解毒剤が渡され、水野さんと愛木乃ちゃんは、それを飲んだ。



「……はぁ、良かったですぅ。……風邪が、悪化しちゃうところでしたぁ」





「ごめんなさいね。皆……この子には後できつ~く言っておきますから」




「……え!? もしかして、まだお説教するのですか!?」




「当たり前です! 人様に迷惑をかけたのだから当然の報い! お父様にも報告しておきますからね!」




「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! それだけは、勘弁してくださいましぃ!」




 うわぁ……なんだか、さっきまでの威厳が全く感じられない。珍しいなぁ……お嬢様よりもお世話係の人の方が立場が上って……。








 ――そんなこんなで……私は、風邪をひいている水野さんをおんぶしながら愛木乃ちゃんと一緒に保健室から出て行く。その際、保健室の先生から話しかけられる。







「……本当にごめんなさい。あの子、いつもあぁいう感じで……中学の頃とか全然友達いなかったのだけど、決して悪い子ではないから。仲良くしてあげてください。……それにもし、何かあったら私に言ってくれれば……できる事なら何でも手助け致しますから! 遠慮せずに言ってくださいね」





「……あっ、はい! ありがとうございます。先生」




 それから、私達は保健室を離れて行き、3人で一緒に帰る事にしたのだった……。








 いやぁ、一時期はどうなる事かと思ったけど……まぁ、あれだけしっかりした保護者みたいな人がいれば大丈夫かぁ。私の秘密も……おそらく、さっきの一件でもう言ったりはしないだろうし。
















 それにしても……。



「……あの保健室の先生、すっごい本能寺さんと似てましたね」




「……そうですねぇ。まるで親子みたいに……」




「……んねぇ」



 私と愛木乃ちゃんは、そんな会話をしながら水野さんを送ってあげるのだった……。

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