十四学期 知略者
「……水野さんが、突然変な事を喋り出したのは……貴方の原因だったのね!
「……くっ、くっ、くっ。その通りですわ。……この金剛寺・F……って違う! 金閣寺ですぅ! 京都北山にある金閣寺ですぅ! どうしてそんなに私の名前を間違えるのですか!」
「……あぁ、また間違えてしまいましたか。すいません。大文字さん」
「……だぁかぁらぁ! 金閣寺です! そんなに分かりにくい名前してないはずですのに! どうしてですの!」
「……そんな事は、どうでも良いです。それよりも……早く水野さんに何をしたのか、説明なさってください!
「……フライデンです! ”F”と書いてフライデンと呼びます! フライパンじゃないです! アナタまで私を馬鹿にして何が楽しいんですの!」
愛木乃ちゃんは、なんだかすっごく楽しそうに笑っていた。……うん。やっぱりこの子、ドSだ。間違いない。今の名前の間違いは、絶対にわざと言ったぞ。この子……。
まぁ、でも……この人相手だったら、そう言う気持ちが湧いてしまうのも何となく分かってしまうな。
しばらくすると、名前を間違えられてばっかりの
「……良いんですの? そんな余裕ぶって……貴方達、まだ分かっていないようですわね。……この薬のヤバさを……!」
薬のヤバさって麻薬みたいに言うなよ。
「……おーほっほっほっ! この薬は、私が作り上げた秘密兵器その43!」
秘密多すぎだろ……。というか、秘密なんだったら私らに紹介するなよ……。
「……
名前、絶対狙っただろ! お嬢さまが考えものとは、思えないとんでもないネーミングセンスしてやがる! というか、”ほんだ”って誰だよ。
「……この薬を飲んだ者は、どんなに隠したい事でもいとも容易くポロっと……そう! ポロっと本音を漏らしてしまう! 驚異の薬! しかも……この薬は、水を混ぜる事で、あ~ら不思議! 紫だった色が途端に透明になりますわ!」
紫にした意味あんのか……それ……。いや、しかし……。
「……なんて、恐ろしい薬なんでしょう……」
これだけは、本気でそう思う。あの薬を一口でも飲んでしまったら……私が完璧美少女であると言う事が……全て嘘であるとバレてしまう!
まずい……。バレたら、私のこれまで積み上げてきた事が、全て水の泡に……。そうなったら……そうなったら……! もう二度と安心して女の子達のあんな所やそんな所を拝めなくなってしまう!
不安を加速させる私の様子を見て、それを察したのか目の前のお嬢様は、高らかに笑う。
「……おーほっほっほっ! そうですわぁ! 既にこの部屋に存在する全ての……液体に……この薬を混ぜ込んでいますわ! 故に! この部屋に存在するコップをてにとったらその時……日下部さんっ! 貴方の口は、バターをのせたフライパンのように滑り出すのですわ!」
独特な例えをしやがるが……確かにこのお嬢様の言う事は、恐ろしい。特に私にとっては……。いや、私が薬を飲んでしまう事は……確かにヤバいのだが…………。それ以上に……もう1人、飲んだらヤバイ人がいる。
――”愛木乃ちゃん”だ。
この子に薬を飲ませてしまったら……私の前世がバレてしまう。弱みをお互いに知っている愛木乃ちゃんだから……私の前世の秘密を黙っていてくれるけど……もしも、この……目の前のお嬢様にバレてでもしたら……。
終わる。私の学校生活終了よ。完璧美少女の日下部日和の時代は、もう終わりよ……!
それだけは、絶対に避けねばならない。私だけでなく……愛木乃ちゃんにも……この部屋に存在する液体……いや、水っぽいもの全てに口をつける事を……やめさせないと!
「……愛木乃ちゃん! この部屋に存在する液体には絶対に……」
後ろを振り返ったその時、私が見たものは――!
――紙コップを片手に唇のあたりが少し湿っている。愛木乃ちゃんは、目を丸くして私の事を見ていた。
「……」
「……」
私達は、お互いにしばらく何も喋らずに見つめ合う。
「……愛木乃ちゃん、そのコップは…………?」
「……あら? …………てへっ」
おいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!
何してるの!? ねぇ、何してるの? このドSお姉さん! 今回ばかりは、わざとやりましたは通用しないからね! というか、今時「てへっ」って……。
「……すいません。つい、その……喉が渇いてしまって……とても言いにくいのですが……金剛力士像さんの説明が……長くてつい……」
ちょっと納得できちゃう理由なのが、悔しい……!
「……金剛力士じゃなくて、金閣寺ですわ!」
うるせぇ! んな事は、もうどうでも良いんだよ! すっこんでろ! このへっぽこお嬢様!
と、内心思いつつも……ヤバい。愛木乃ちゃんまで……薬を飲んでしまった。まずいな。このままだと私の前世の秘密が……。
次学期に続く……。
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