八学期 神隠しにあった者
その日の夕方、放課後の時間の事だった。私、日下部日和はいつも通りクラスの人達に「さようなら」の挨拶をしながら1人、帰る事にしていた。教室から出て廊下を歩く私……。早く帰って今日も家で……この頭の中に保存した女の子達のあんな姿やこんな姿、こんなシチュエーションにしたらとかを妄想して楽しいお家タイムを楽しむのだと心をるんるんさせていた。
すると、そんな時だった。ふと、後ろから声をかけられる。
「……あっ、あの! 日下部さん!」
振り返るとそこには、オドオドした雰囲気の背の小さな水色の髪の毛とカチューシャをした女の子が立っていた。
「……あら? 水野さん?」
私が少女の存在に気付くと水野さんは、モジモジした感じで私に話しかけてくる。
「……あのっ! その……」
「……どうしたの?」
水野さんは、とても自信なさげに小動物のように可愛らし気にこっちを見てきて、深呼吸をすると、私に言ってきた。
「……あっ、あの! その……良かったら、一緒に帰りませんか!」
彼女の口からやっとの思いで自分の気持ちが吐き出される。その言葉に私は、最初こそポカンとしていたが……しかし、少しして……私の心は、一気に興奮する。
「……え!?」
マジ……かよ……。おいおい、大丈夫かよ。私、この後……雷にでも撃たれちまうんじゃないの? だって……人生で……こんな可愛い女の子から一緒に帰ろうだなんて……一度もなかったぞ!
思えば、中学時代からずっと完璧美少女として振舞う事をしていた私は、当時……周りから完璧が故に遠ざかれていた。だから、当然一緒に帰ってくれる人なんて誰もいない。
しかし……高校に入って、まだ一か月も経っていないというのに……もう既にこんな可愛い女の子と一緒に下校ができる!
くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 神様サンキュー!
「……ええ! いいわよ!」
喜んで返事を返した私に便乗してか水野さんもとても嬉しそうな顔をして喜んでくれた。
「……ホントですか! 嬉しいです!」
ぐふふ……相変わらず、可愛いなぁ……。水野さんって普段おとなしいけど、意外と喜怒哀楽の激しい所あるよねぇ。可愛いなぁ……。普段は、あわあわしてて小動物のようで守ってあげたくなっちゃうけど……こういう時に見せてくれる嬉しそうな顔が……またたまらない……。はぁ、いつか泣いている姿とかも見てみたいよ。おじさん、君の事を困らせてあげたいなぁ~。……おっと。
と、まぁ気色の悪い事を考えながらも私と水野さんの2人だけの下校が始まる。しかし、以外にも……これまでなんだかんだ会話に困らなかった私達だったのだが……いざ、2人きりとなると以外にも会話というものが出てこなくなってしまうものだ。
学校を出て、住宅街へと続く道に出た所でも私達は、終始無言で歩いていた。
「……えーっと、水野さんってお家は、どの辺?」
「……あっ、あぁ……えっと……ここを真っ直ぐ行って……途中の交差点を渡った所を左に行きます」
「……あら。へぇ~。じゃあ、交差点の所まで私と一緒なのね。私は、右なんだ」
ぐっ……まじか。気まずいなぁ……。しかもこの先の道って……確かちょっと細い道があって……この空気のままそんな所行ったりでもしたら……うーんちょっときついよなぁ……。どうしよう……。水野さんには、申し訳ないけど交差点の近くのコンビニ寄ってくって行って別れようかなぁ……。
私が、そんな事を考えていると隣では水野さんが、とてもモジモジした状態で緊張した顔で私に話しかけようとしていた。
「……あっ、あの!」
「……ん? どうしたの?」
「…………その」
水野さんの雰囲気が、この時少し変わった。なんといえばいいんだろう……。今までのオドオドした雰囲気は確かにあるんだけど……うーん。なんだろう……。何処か……その不安な感じが出てるっていうか……。何かをためらっている感じ?
「……何かあった? 大丈夫ですよ。私、何でも聞いてあげますよ?」
すると、水野さんはここでようやく思い立ったのか私に何かを喋ろうと口を開ける。
「……あっ、あの! 実は……!」
しかし、このタイミングで突如、私のスマホが鳴り出す。電話の着信だった。
「……あら? こんな時に? ……って、愛木乃ちゃん? ごめんね。ちょっと電話出なきゃだから」
私が、水野さんに背を向けて電話に出ると、スマホの画面越しに愛木乃ちゃんの声が聞こえてくる。
「……はい。もしm」
「……日和ちゃああん! どうして、先に帰ってしまうのですか~」
はぁ、この人……意外とめんどくさい。セクシーだし、胸も大きいし嫌いじゃないけど……ちょっとめんどくさい所あるなぁ……。
「……あぁ、ごめんねぇ! 先に帰っちゃって……また明日、一緒に帰ろう?」
「……うぅ。言いましたね? 約束ですよ? 日和ちゃん?」
「……あっ、あぁ……うん。そうね。約束。……それじゃあ、私切るわね」
「……はい! 明日、楽しみにしてますね!」
と、言った感じで電話を終えた私が、スマホを切る。
「……ごめん。それで……何を……」
私が、電話を切りながら後ろを振り返って水野さんに話しかけようとした次の瞬間、私の視界の中に水野さんの姿はいなくなっていた。
「……あれ? 水野……さん?」
辺りをキョロキョロ見渡しても……そこには、誰もいない。
どういう事なのか? 神隠しにでもあったのか? 必死になって水野さんの名前を呼びながら私は、近くを探すのだった。
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