七学期 交流深めし者達

「……それじゃあ、これで委員会も決まりましたし、明日の放課後に全委員で顔合わせがありますので、遅れないように行きましょうね」


 そう言うと担任は教室のドアを開けて廊下に出て行ってしまった。ちょうど、授業終了のチャイムも鳴っているし、次の時間の準備を始める生徒たち。そんな中、私は1人トイレに向かう。……トイレに行って何をするかって? ははは、そんなの決まってるじゃないか。ぐへへへ。




 ……と、思ったがなんだかそうもいかない感じだ。後ろから私を追いかけてくる人の気配を感じた。その人はとてもちょこちょこと短い足でこっちへ駆けつけてくる。そして私の近くまで来ると彼女は、言うのだった。


「……あっ、あの日下部さん」


「……あら? 水野さん。どうしたの?」


 水野瑞姫さんが私の所へやって来ていた。彼女は、とても緊張した様子で頬を真っ赤にしながらも一生懸命に目を合わせてきて話しかけてくる。


「……あっ、あっ……あの! 一緒にクラス委員になれて嬉しいです!」



「……ええ! 私もよ! よろしくね。水野さん」



「……はっはい!」



 可愛い。ぐふふ。なんて可愛いのだろう。愛木乃ちゃんは、お姉さんって感じで良いけど、水野さんは逆に……ロリロリしていて、ちっちゃくて可愛いなぁ。ぐふふ。はぁ、その怯える小動物みたいな目……おじさんゾクゾクしちゃうよ。……って、おっと。



 すると、水野さんが指と指でモジモジしながら地震なさげに私に言ってくる。



「……そっ、それでその……」



「……ん?」



 水野さんのとても緊張した怯える小動物のような可愛い目が私と合う。少女は、少し深呼吸をして気分を落ち着かせてから大きな声で言うのだった。



「……もっ、もしよろしければ! その……れっ、連絡先を……連絡先の交換をしていたっ、いただけにゃいでしょうか!」




 




 ……なんて、可愛さなのだろう。この従順な子犬を相手にしているような可愛さ。くぅぅぅぅぁぁぁぁたまらんなぁ〜。連絡先交換しませんか! だってよ! こんな言葉、前世じゃ考えられなかったよ。絶対に……。くぅぅぅ可愛すぎる。




「……でゅふっ」



「え?」


「あぁ……いや、何でもないわ。それより……連絡先よね? 良いわよ。私も水野さんの連絡先欲しかったし、交換しましょ」



 すると、目の前の水野さんはとっても嬉しそうな顔をしてくる。なんだか、すっごく輝いているような……。


「わあぁ」



 嬉しそうだ。何だか知らないけど、私と連絡先を交換する事がそんなに嬉しいのだろうか? 不思議な子だなぁ。



 私はスマホを取り出して、アプリを開くと既にスマホを持って待ち構えている水野さんと“ポイン”を交換。交換できた事を水野さんに知らせるために適当に「よろしくね」とメッセージを打って、送ってみせる。すると、すぐに既読がついて私の元に1通のスタンプが送り返される。



 あっ、これって……。見知ったキャラクターのスタンプを見た私は、水野さんに聞いてみる事にした。


「……ねぇ、これってもしかして……“毛玉ヌコ”よね? ちょっと前に流行ってたやつ」



 すると、途端に水野さんは今までの小動物のようなオドオドした感じから一変。目を輝かせて、スラスラと言葉を喋るようになる。



「……知ってるんですか!? 可愛いですよね! 何と言ってもこの毛玉のもふもふした感じと融合してる白白モチモチしてそうな猫ちゃんの見た目! それから、のほほんとしたこの顔! 声も可愛いんですよ! 声優さんは……」



 すっ凄い……。突然、物凄い喋るようになった。そうかぁ。そんなにこのキャラクターが好きなのかぁ……。って、よく見たら確かにスマホのストラップも毛玉ヌコだし、スマホケースも毛玉ヌコ……。大好きなんだなぁ。



 微笑ましい気持ちに浸っていると今度は急にさっきまでの喋りまくりの水野さんと一変。いつもの静かな感じに戻って、オドオドした感じで尋ねてくる。



「……ごめんなさい。私、つい……興奮しちゃって……」



「……良いのよ。誰にだって好きなもの位あるわよ。好きなだけ語れば良いと思うわ」



 すると、さっきまで落ち込んでいた水野さんの顔は、また一気に明るくなって嬉しそうににっこり笑っていた。


「……はい!」



 そして返事の後、少し間を置いてから水野さんは私に聞いてくる。



「……あっ、あのぉ……それで1つ聞きたいんですけど……」



「何かしら?」


「……そのっ、日下部さんの好きなものって何ですか!」



 この質問に廊下を歩いていた私の足が止まる。そして、何か強烈な稲妻のようなものが落とされた感覚がした。



 ──え? 私の好きなもの? 私の……って、そんなの……女体……って、いやいやいやいや! 待て待て落ち着け! 落ち着くのよ日下部日和! 他に趣味くらいあるじゃない! 趣味くらい……趣味くらい……趣味……くらい?




 ……あ、れ? 私って……何もない? 思い返してみたら、女になってからの数十年……女体の事しか考えていなかった? あれ? って、いやいや! 前世があるでしょうよ! こう言う時こそ前世の記憶よ! 前世では、そうよ! ギャルゲーやって、深夜にアニメ見て……ハンバーガーとかラーメンをよく1人で食べに行って……。





 ──ん? 私って、完璧美少女? 完璧ってなんだっけ? 美少女って一体何なの? あれ……私って……中身ただのギトギトしたおっさんじゃね?






「……どうかしました?」




「……へっ? あっ、あぁ……いや、大丈夫大丈夫」



 水野さんが心配そうにこっちを見てくる。……どうする? 素直にギャルゲーとか言えないし……アニメは、ここ最近オタクブームなるものが来ているからまだ……何とかなりそうだが……って、いやダメだ! 何のアニメ見てますか? なんて聞かれたら……ちょっとエッチなハーレムものアニメ見てました。なんて……こんな純粋そうな子の前で言う事なんかできない! 絶望的過ぎる……。




 と、私が頭を悩ませている所に……聞き覚えのある声をした人が1人やって来る。



「……あっ、日和ちゃん!」



 長い黒髪を下ろした背の高いお姉さんタイプの女性(ただし、生えてる)こと愛木乃ちゃんが、こちらにやって来る。彼女は、私の顔を見るや否や嬉しそうな顔をしてこっちにやって来る。




「……何をしてるんですか?」



「……あぁ、ちょっと話してて……」




「……はぁ、そちらの方と?」


 すると、愛木乃ちゃんと目を合わせた水野さんがとても礼儀正しくお辞儀をして挨拶をする。



「……はっ、初めまして! みっ、水野瑞姫と申します!」




「……あらぁ、日和ちゃんのお友達の木浪愛木乃です。よろしくね」




「………………」


 水野さんが、少し意味深にそう言っている前で愛木乃ちゃんが私に話しかける。



「……それで、お話って何のお話をしていましたの? 私もぜひ……混ぜて欲しいですわ!」





 すると、水野さんが言った。



「……日下部さんの好きなものについて聞いていた所なんです!」




「あら! 日和ちゃんの好きなもの……うふふ、私も気になりますわぁ~。ねぇ、日和ちゃん……教えてください~」



 愛木乃ちゃん……ここぞとばかりにちょっとあざとく聞いてきやがる……。くっ! やばい……。どうする? 2対1……。正直に言うか……いや、でも……。





「あぁ、でも……”おっぱい”以外でお願いしますよ。日和ちゃん!」




「あああああああああああああああああああああああああああああああ!」



 何を言っとるんじゃ! この女はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!



 私は、突然そんな爆弾発言をかます愛木乃ちゃんの事を睨みつける。そして、水野さんに聞こえないように顔を近づけて小さな声で愛木乃ちゃんに言う。



「……なんで、その事を!」



「え? 良いじゃないですか? 別に女の子でも好きな人結構多いですよ~。女同士ですし恥ずかしくなんか……」



「私が、恥ずかしいんだ! というか、言わない約束だっただろうが!」




「あら? そうでしたっけ? 言わない約束なのは……前世が男である事だけだったような……」




「……頼むからこれも今後言わないでおくれ!」




「……はぁい」



 くっそ! やっぱりこのお姉さん……ドSだ。絶対にドSお姉さんだ! ふつう言わないだろ。こう言う所で……。マジで勘弁してくれよ……。くぅぅぅ、なんだかニコニコしているし……愛木乃ちゃん…………なんて恐ろしい女なんだ。生えてるし。









 と、その時……私の耳に水野さんの声が入り込んで来る。その声は、なんだかとっても呆然とした様子で、何処か目が虚ろな感じ……。




「……おっぱい。……なるほど。胸ですか……」



 水野さんは、自分の胸に手を当てて触ってみる……。そこには、本来握られるはずのものが2つあるはずなのに……彼女の手は、自分の胸にペタッと掌を広げた状態で置かれたまま……その手が、水野さんの胸に広がる平原を表していた。






「……毎朝、牛乳を飲めば……きっと、私だって…………」



 水野さんの視線がなんだか怖い……。何処を見ているのだろうか? 凄く恐ろしい。まるで、だ……。










 あぁ、早く……次の授業始まらないかなぁ……。

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