四学期 秘密持ちし者達

 前世では、欲望には素直に生きていた方だと思う。家に帰ったら自分の好きなのをスマホで見つけては、使って1人で致していたし……他にもギャルゲーとかそう言うアニメとかもよく見ていたし、欲望もしょっちゅう満たしていた。




 そんな時、よくネット上で見ていたサイトの中に……あったのだ。



 ――私も言葉だけは、知っていたが……まさか現実にそんな人がいるだなんて……。女なのに……ついてしまっている人。つまり、その……単語として言う所の…………








 ――ふたなり。あっち系のビデオとか、あっち系のアニメとかそう言う所でしか出てこない架空の……言ってしまえば神話上の生物のようなものかと思ったらそうじゃなかった。




 まさか、現実に……しかも今、目の前にいるだなんて……。




 驚く私にお姉さんは、とても恥ずかしそうに顔を赤面させて、口元を両手で抑えながら今にも恥ずかしさで死んでしまいそうな顔で告げる。



「……あっ、あの……その……そろそろ……離していただけませんか? その……んっ! ちょっと、なんか……変な気分になりそうというか……んっ!」




「……あっ、あぁごめんなさい! いや、その……ちょっとびっくりしてしまって……ごめんなさい」




 私は、すぐに彼女から手を離していき、引っ込める。すると、さっきまで赤面で固まっていたお姉さんの顔が少しずつ元の顔色に戻っていく。しばらく待ってみると……お姉さんは、大きく深呼吸をして、気分を落ち着かせた。私もそれを見計らって喋り出すのだった。




「……けど、その…………どうして、そう言う風に……?」



 私が、気まずげにそう問いかけると、とうのお姉さんも小首を傾げて……悩んだ様子で私に言ってきた。




「……それが、私にも分からなくて…………」




「え?」




「ある日、朝起きたら……その…………突然このような事に……なっていたと言いますか……」





「……ある日、突然」



 びっくりだ。そんなのB級映画でも最近見ない設定だぞ……。どうなってるんだ。




「……それで、私……その……びっくりしてしまって……お母さん達にもこんな事言えなくて……ずっとその…………1人で悩み続けていたんです」





「……うん」


 まぁ、ある日突然、そんなもんついたら悩むよね。というか、悩むどころか私だったら驚きのあまりにその場で永眠するかも……。




「……そんな時にトイレに入っていた時にたまたま日下部さんの声が聞こえてきて……。”この日下部日和には、夢がある! 赤ちゃんの時、生まれてすぐに……"」




「……うん。もうやめよ?」



 意外とドSなのかな? この子……。




「……それで、この悩みを相談できるのは、日下部さんしかいないと思って……その……クラスの方に尋ねてみたんです」




「……そっかぁ。なるほどねぇ……」



 いやぁ、私に相談してくれるのは、良いんだけど……困ったなぁ。私の絶対に知って欲しくない秘密を知ってしまうとは……うーん。何とかしないと……。




 すると、突然お姉さんが椅子から離れて私の顔のすぐ近くの所へまで勢いよくやって来て言った。



「……私は、このままずっと……このままなんでしょうか! 治る事は、あるんでしょうか!」




 うわっ! びっくりした。いやぁ、治るんでしょうかって……知らねぇよ。そんなの私だってなった事ないんだから……。うーん……。まぁ、でも確かに嫌だよなぁ。私は、何とか口を開く。




「……そうですねぇ。私にも……その、どういう事なのか分かりませんが……ある日突然、そうなったとお姉さんが言うのなら……」




「……おっ、お姉さん?」




 あっ、やっべ! 勝手にそう呼んでたのがバレる……。急いで……何か言い訳を……。




「あーえーっと、その凄く大人びていて……綺麗な人だなって最初見た時からずっと思ってて……そう呼ばしていただいたのですが……その、名前も分かりませんし……良かったらお名前、聞いても良いですか?」





「……あっ、確かに名前、言ってませんでしたね。わたくし……木浪愛木乃きらあきのと申します。日下部さんとは、隣のクラスで……1年3組です」




「よろしくね。木浪さん」




「……愛木乃で大丈夫ですよ」




「……じゃあ、愛木乃……さん?」




「うふふ、そうですね。まずは、そこから始めていきましょうか」



「うん。じゃあ、私も一応自己紹介しますね。……1年2組の日下部日和です。よろしくね。……愛木乃……ちゃん?」




「はい。よろしくお願いします。日和ちゃん」




「え!?」




「あら? ダメでした?」



「……いっ、いえ全然! 言われるのが初めてだったからつい……」



「……あら? 意外ですね」



 うふふと笑う愛木乃ちゃん。なんだかその笑い方も凄く大人びていて、とっても美しく見えた。やはり、大和撫子という言葉がピッタリ合う感じの笑い方だ。


 そんな愛木乃ちゃんと一緒にいつの間にか笑っていた私は、彼女に言った。



「私で良ければ、ぜひ力にならせて下さい。まぁ、といっても今の私は身も心も女ですから。男性だった時の事なんてけど、愛木乃ちゃんの気持ちがそれで少し楽になるのなら、ぜひ協力させて!」



 私のその言葉に愛木乃ちゃんは、とても嬉しそうに頷いた。



「……ありがとう! 本当にありがとう!」



 とても感謝してくれているのだろう。まぁ、さっき言った事、ほとんど嘘なんだけど。転生してもバリバリ男だし、何なら今でも女体に興奮するし……女の尻を追いかけてます。はい……。



 しかし、それでもとても嬉しそうにしてくれているのなら、まぁ良いか。──あっそうだ。



「……それで、愛木乃ちゃんに一つだけお願いがあるんだけど良いかな?」


「どうしたの?」



「……実は、その……私も前世が男であるって事を他の人に知られたくなくて……だから、その……内緒にしてほしいんだ」



「……なんだ。そんな事ね。うん! 分かった! もう言わないよ」



「……良かったぁ。じゃあ、2人だけの秘密って事で、これから一緒に頑張ろうね!」



「……うん!」



 ふぅ。なんとかなりそうだな。まっ、この子が他の人にバラす心配は無さそうだ。なんせ、こっちもこの子の秘密を知っているんだから……。少々、予想外ではあったがまぁこれで秘密は守られた。



 とにかく、まぁこれから先この美人と仲良くできるのなら良いか。ついてるけど……。




 ──あっ、そうだ。そういえば、報酬がまだだな。



「……それでさ、愛木乃ちゃん。私、なんだかさっきよりも気持ち悪いみたいで……良かったら、お水を……その飲ませてくれない?」



 すると、愛木乃ちゃんは喜んでと言った感じでコップに入った水を持って私の体をベッドから起こし、そして頭の後ろを支えてあげながら私の体を少し抱き寄せて、それから水を飲ませてくれた。



 この時、彼女のたわわな胸が私の顔付近に当たって、とっても幸せな気持ちが、私を包んだ。





 ──まぁ、色々面倒な事はあったけど、このもふもふをこれからも味わえるなら……別にいっか!





 かくして、私と愛木乃ちゃんの秘密の関係が誕生したのであった。

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