謎の女性 Ⅴ

 それからアイラが語り出したのは、彼女の恐るべき力についてだった。


「……子供の頃からずっとでした。異性の子供には、いえ異性には絶対に好意を向けられてきました」


 そう言うアイラの肩は、かすかに震えていた。

 まるで過去のことを思い出しているかのように。


「子供の頃はまだ、こんな何でも聞かせられるような力ではありませんでした。それでも、私が男性のそばに行くと、絶対に取り合いが起こりました。目を隠せばいい、そのことに気づくまでずっと」


 震えるアイラのその声は、何より雄弁に物語っていた。

 どれだけこの力を忌み嫌っているかを。


「そんな時に現れたのがシャルル様でした。私の魅了に対抗できる力を持った」


「……なるほど、シャルルの魔力なら貴女の魅了に対抗できたのね?」


「はい、おそらく。しかし、そのそんなこと関係ありませんでした。その時私は初めて自分だけを見てくれる人に出会い、そして駆け落ちしようという言葉に救われたのです!」


 力強く、アイラはそう告げる。

 ……しかし、その下の青白い顔色までは隠せていなかった。


「だから、私はシャルル様の……」


「アイラ、貴女は気づいているんでしょう?」


 その瞬間、固まったアイラを真っ直ぐ見抜きながら私は告げる。


「貴女にとって救いでも、シャルルにとっては遊び、いえそれ以下にすぎないと」


 もし、シャルルがアイラが好きになって駆け落ちしていたとすれば、それはどんなに美しいことか。

 しかし、事実は違う。

 実際に愛しているのならば、シャルルは駆け落ちなどする必要はなかった。

 第二夫人として、アイラを迎え入れれば良いだけなのだから。

 真に愛しているからそれができなかったという可能性も、まるでなにも言わずに消息を消したことからあり得ない。

 状況的に推測して駆け落ちとされただけで、今回のことは駆け落ちですらないのだ。


 つまり、シャルルの行動に愛などありはしない。

 アイラはただ利用されただけなのだ。

 シャルルはただ重荷が嫌になって逃げ出したにすぎない。

 そして、その逃避行で都合よく使われたのが、アイラだった。


 一瞬躊躇し、しかし真実を伝えるために私は口を開く。


「シャルルは貴女のことを愛したことはない……」


「そんなこと、分かっています!」


 今まで感情的になったことのないアイラが叫んだのは、その時だった。

 一瞬、異様にアイラが魅力的に見えて、私は必死に自分を抑える。


「あの時、駆け落ちを言われたとき。いさめても聞かないシャルル様の姿を見たときに、そんなこと分かってました。でも、そうだとしても」


 もう、アイラが異常に魅力的に見えることはなかった。

 しかし、どうしようもなくアイラの声は震えていた。


「……魅了する怪物の私を、人として初めて扱ってくれたのが、シャルル様なんです。そんな人を裏切れば、私は」


 そこで、アイラは少し顔をあげる。

 その瞬間、水滴が地面におちた。


「──自分を人だと認められなくなる」

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