親の矜恃 Ⅴ
シャルルの足音が遠くなり、そして聞こえなくなる。
……こらえきれなくなったように、お義母様が顔を覆ってひざまづいたのはその瞬間だった。
お義父様が、そのお義母様の背中をゆっくりと撫でている。
その姿に、私もドルバスもなんと声をかけていいか分からず、ただ無言でその背中を見つめる。
「二人とも、見苦しい姿を見せてしまって本当にすまない」
お義父様がいつもの優しい笑顔でそう告げたのは、しばらくの時間が経ってからだった。
優しげなその笑顔に、どうしようもなく胸が痛くなって、私は力強く首を左右に振る。
「そんな、見苦しい姿なんてありません……! むしろ、私が……」
私が言葉に詰まったのは、その瞬間だった。
……お二人が、まだシャルルのことを大切に思っていることを私は知っていた。
それなのに、私はお二人が自ら手を下させるようなことをしてしまったのだ。
その罪悪感に私の胸が締め付けられる。
そんな私の方へと、お義母様が立ち上がったのはその時だった。
「大丈夫よ、マルシア」
「……っ」
次の瞬間、私はお義母様に抱きしめられていた。
呆然とする私に、お義母様は安心させるようにゆっくりと告げる。
「私達は、貴女のせいなんて考えていないわ」
「ああ、その通りだ。本当はもっと早くにこの考えを伝えるべきだったのに、すまない。心配をかけたね」
「そんなこと……!」
私はそれだけを何とか口にし、首を横に勢いよくふる。
……今は、それ以上口にすれば涙が溢れそうだったが故に。
そんな私を優しく見つめながら、お義父様は続ける。
「君は本当に優しいな、マルシア。だが、シャルルとの一件は本当に気に病まないでくれ。これはいずれ私達が直面しなくてはならない問題だった」
「……ええ。私達はもっと早くシャルルと向き合うべきで、それをここまで長引かせてしまったわ」
お義母様の私を抱きしめる腕に力が入ったのはその時だった。
そんな私達を優しく見つめながら、お義父様が告げる。
「だから、本当にありがとうマルシア。貴女がいたお陰で私達はシャルルと向き合うことができた。あの時、シャルルに私達が言った言葉は本心だ」
「貴女とルクスは、私達にとって最高の娘で、息子よ。私達に勇気をくれて、本当にありがとう」
耐えきれず、私の目から涙があふれ出したのはその時だった。
そんな私を抱きしめるお義母様の目からもまた、涙があふれ出す。
「ありがとう、ございます……!」
何か言おうとして、けれどなにを言えば良いか分からず、とっさに口にしたお礼に、お義母様が破顔する。
「おかしな子ね、マルシア。助けられて、お礼を言うのは私達の方なのに」
言葉にならず、ただ頷くことしかできない私。
ただ、その胸に浮かぶのは自分の決断は間違ってなかったという思いだった。
あの時の、この家に残るという決断がなければ、今の時はなかったのだから。
……お二人と真の家族になることはない、そう分かっていても私には後悔は存在しなかった。
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