親の矜恃 Ⅲ
「……は?」
呆然とするシャルルを無視して、お義父様はこちらを向く。
その顔は隠しきれない疲れが滲んでいたが、それでも私達に笑顔を向けて口を開く。
「心配を、かけたね。すまない」
「い、いえ、そんな……」
私はとっさに首を振る。
しかし、その行動はお義父様の困ったような笑みを引き出しただけだった。
「本当にすまない。私達の優柔不断のせいで許されない過ちを犯したのに、懲りずに疑われるような行動を取ってしまった。何を言われても謝ることしかできない」
「……その気持ちをわかっていたのに、ごめんなさいね」
悲しげな笑みを浮かべたお義母様が頭を下げたのはその時だった。
困惑を隠せない私とドルバスに、ゆっくりと顔をあげたお義母様の目の端には、涙が滲んでいた。
「でも、これは私たちの犯した問題。……私達がけじめを付ける問題だから」
「なにを、言っているのですか?」
震え声でシャルルが口を開いたのはその時だった。
青ざめた顔には、先ほどの勝利の余韻などかけらも存在しなかった。
そんなシャルルへと、お義父様が何か懐から出したものを渡す。
「シャルル、戻ってきてくれたことに感謝する。これで、私たちが直接終わらせることができる。──シャルル、お前を伯爵家から勘当する」
「……は?」
シャルルは信じられないと言った様子で、手渡された書類を読み始める。
もう、その顔に余裕など存在はしなかった。
しかし、それ以上に衝撃を隠せないのが私達だった。
もう、シャルルは廃嫡されている。
もちろん、跡継ぎとして認められるだけの立場もない。
けれど、親子の縁を完全に切る勘当は、廃嫡さえ比にならない重い処罰だった。
何せ、完全に伯爵家の籍が失われることになるのだから。
……そして、シャルルに渡した書類が何より雄弁に二人の本気度を物語っていた。
つまり、その行動は正式にシャルルと縁を切る手続きをしたことを行った証明。
想像もしないお二人の言葉に、私もバルドスも呆然と立ち尽くすことしかできない。
そんな私達に、困ったような笑みを浮かべながらお義父様は口を開く。
「……心配をかけることは分かっていたんだが、必要以上に驚かせてしまったね。それでも、これ以上君たちに負担はかけたくはなかった」
そう言うお義父様の顔はいつも通りの優しげな表情で……けれど、確かな覚悟が浮かんでいた。
シャルルがすがりつくような声を上げたのは、その時だった。
「ま、待ってください! これは私を驚かせる嘘ですよね? 本当に私を勘当など……」
「シャルル」
「っ!」
声を張り上げた訳でも、特別感情的な声だった訳でもない。
しかし、たった一言名前を呼んだお義母様に、シャルルの動きが止まった。
そんなシャルルを真っ直ぐに見返しながら、お義母様は告げる。
「私達の家族……いえ、子供はルクスとマルシアだけよ」
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