親の矜恃 Ⅱ

 その日記は、お二人が部屋の隅にずっと保管していたものだった。

 そして、その日記を手に取ったシャルルの顔が、醜悪な笑みを顔に浮かべる。


 ……まるで勝利を確信したように。


 連れてくるべきではなかった。

 そんな後悔が私の胸に広がったのはその時だった。

 今の表情から、シャルルはお二人を利用することしか考えていないのは明白だった。

 普段の冷静なお二人は、だまされるような人ではない。

 何かある前に、私かドルバスに考えを聞く人たちなのだから。


 しかし、今に関してはいつものお二人としての行動を求めることなど出来はしなかった。

 そんなこと、できる訳ないのだから。

 なぜなら私たちは、お二人がまだシャルルのことを愛していると知っているのだから。


 だが、シャルルはそのお二人の愛情を利用するきしかないのは、明白だった。


「……バルドス」


「わかっております……」


 私とバルドスは、小さく確認しあう。


 すなわち、お二人に嫌われたとしても、シャルルを受け入れることだけはしてはならないと。

 決意を固めた私の心の中、かつての記憶が蘇る。

 それは、シャルルが駆け落ちした当初のお二人の姿。

 胸が痛くなるほどに消沈しながら、それ以上の罪悪感に青白い顔をしながら様々なところに頭を下げに行っていた光景。


 あれから、ようやく。

 お二人の顔に笑顔が浮かぶようになってきたのだ。

 安心したような笑顔が。

 それをつぶさせるようなことだけは、決して許してはならない。

 お義父様が口を開いたのは、そんなことを考えていた時だった。


「……シャルル、その日記に書かれたルクスが生まれたときのことを覚えているか?」


「え? ああ、もちろんですよ!」


「あの時は、ルクスの兄になると何度も私たちに言ってきたものでしたね」


 にっこりと笑ったお義母様も、そう続ける。

 しかし、その言葉を聞くシャルルの顔に浮かぶのは、不機嫌そうな表情だった。


「……そうでしたね。あの頃は、本当に心から弟の為を思ってましたから」


「まるで今は違うような口振りだな」


「ええ、それは! 今のあのルクスの態度をみればわかるでしょう! 唯一の兄を兄とも思っていない! あいつほど冷徹な人間もいませんよ」


 その言葉に、私は反射的に拳を握る。

 どの立場でその言葉を言っているのだと。

 最初にルクスを虐げ、あげくの果てに駆け落ちで裏切ったのはそっちだろうと。

 ……しかし、私が何かを言う前にお義父様が手で制した。

 信じられず呆然とする私に、お義父様はにっこりと笑って口を開いた。


「そうか。──その本心を聞いて、ようやく私達も覚悟が決まったよ」

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