親の矜恃 Ⅰ
「はは、早くあいたいな! 父上にも、母上にも!」
背後、勝ち誇った様子を隠さないシャルルの声が聞こえる。
それを聞きながら、私はお義父様とお義母様の部屋へと向かっていた。
途中、何度も私は唇をかみしめる。
……正直なところ、お二人の言葉を無視するかという考えはまだ頭にある。
女性に関しては客室に待機させている。
それと同じように、シャルルを客室に待機させて説得するという選択しも私にはあった。
しかし、お二人が知った以上その選択はとれなかった。
それをしてしまえば、お二人はシャルルにあうよりも心に傷を負ってしまう可能性があるが故に。
何せ、これは本当に滅多にないお二人が私にするお願いなのだ。
それを断れる訳がなかった。
「……マルシア様」
私と内心が同じなのか、隣を歩くバルドスの顔色も悪かった。
わかっていても止められない、そんな状況に歯噛みしつつも私は小さくささやく。
「何かあれば、全力で止めるわよ。罵倒なんて、お二人には絶対に聞かせない」
「……はい。もうお二方は十分に苦しまれたのですから」
シャルルには聞かせないように覚悟を決める私とバルトス。
そう話している間にも、お二人の部屋が見えてくる。
「っ!」
私が言葉を失ったのは、その瞬間。
……扉の前に立つお二人の姿をみた時だった。
私もバルトスも言葉なく、理解してしまう。
シャルルを部屋に呼んでほしいと行ったお二人の思いがどれだけ強かったのかを。
「父上、母上!」
呆然とする私達を抜き、シャルルが前に出たのはその時だった。
満面の笑みを隠す気もなく、シャルルはお二人の前で告げる。
「どれだけお会いしたかったことか……!」
……それは、シャルルがしたことを考えれば、信じられない言葉だった。
何せ、シャルルは自分の勝手な都合で全てを捨てたのだ。
しかし、お二人はなにも言うことはなかった。
ただ笑って告げる。
「さあ、部屋に入るといい」
「マルシアも、バルトスもほら」
そういって促すお二人に、私もバルトスもなにもいえなかった。
ただ、無言で顔を見合わせて、促されるまま部屋に足を踏み入れる。
再度、私が固まることになったのはその時だった。
「……これは!」
私より先に入っていたシャルルは何かを手に持って固まっていた。
それを見ながら、私は信じられない思いを抱く。
最悪の事態が起こってしまったのかもしれないと。
──それは幼い頃シャルルが使っていた日記だった。
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