四年後の襲来 Ⅸ
「……は?」
なにを言っているのか分からない。
そんな風に声を漏らすシャルルがさらに私の笑いを誘う。
「ふふ、そういえば貴方、お義父様、お義母様含めた家族全員を見下していたっけ」
「……待て、なにを言っている? ルクスも、父上、母上は魔術の才はないだろうが! 私は事実を言っただけだ!」
そう蒼白な顔で言ってくるシャルルに、私はまだ涙の残る目に満面の笑みを浮かべ告げる。
「だから、さっきも言ったのを覚えてないの? ーーこの街では、ただの魔術師より研究家──そして職人の方が立場が高いと」
「っ!」
シャルルの顔色が変わったのは、その瞬間だった。
呆然とした様子で、シャルルが口を開く。
「待て、それならあいつは……! 魔術の才もないくせに!」
「まだ分かってないの? この街は魔術師の街ではなく、魔法の街。この街においては、家族の中で一番無意味な存在は貴方よ」
ようやくシャルルが黙ったのはその瞬間だった。
それでも隠さない内心呆れながら、私はさらに告げる。
「そもそも、経営に関して私が表に立っているといだけで、この家の当主はルクスよ? 野良の魔術師がどうして見下せるのかしら?」
シャルルの顔から表情が抜けたのはその言葉を聞いた瞬間だった。
今まで見下していた弟との差。
それに気づいたシャルルは笑おうとして、けれどすぐにその笑みも固まる。
信じられないといった様子のシャルルに、いくらか溜飲の下がった私は笑顔で待ってくれていた魔術師に告げた。
「ああ、もう良いわ。連れ出して」
「ま、待て!」
さらにシャルルが何か言おうとするが、すでに魔術師達は動いていた。
バルトスと魔術師に拘束されたシャルルと女性、シャルルがアイラと呼んだ女性は客室を強制的に追い出されていく。
それを見ながら、私は小さく安堵の息を漏らす。
……これで、何とか平穏に終わったと。
実のところ、私が騒ぎになることを嫌がり、とにかくシャルルのところに行ったのには一つの理由があった。
それが無事達成されたことに、私は胸をなで下ろす。
だが、それは早計だった。
「せめて父上、母上に会わせろ! 久々の息子をあわせずに追い返すのか!」
「……っ」
廊下の向こうから聞こえるシャルルの叫び声。
それを聞いた瞬間、私は思わず唇をかみしめていた。
それこそ、私が一番つかれたくなったところであったが故に。
私の脳裏に、かつてお義父様とお義母様と話した会話が蘇る。
──シャルルがもし来たら、私たちに教えてくれないか?
──迷惑はかけないわ。でも、一度だけ……。
あの時の懇願する表情、それは私の脳裏に鮮明に焼き付いている。
だから、私は今回シャルルのことを見定めるつもりだった。
婚約者についてはともかく、お二人に会わせて良いかどうかを。
……けれど、これまでの会話でシャルルはお二人を利用することしか考えていないのは明白だった。
これまで、お二人はずっと私たちに謝り続け、領地発展の主力として動いてくれていた。
その姿を見ていたから私は唯一の願いと言っていい、シャルルとの再会をかなえてあげたかった。
しかし、このままであればさらにお二人は傷つくことになってしまう。
「お前に何の権限があって、親子の再会を邪魔している!」
大声でわめくシャルルを見て、私は改めて覚悟を決める。
お二人に負担がいく結果だけはなんとしても避けないといけないと。
「早く屋敷の外に連れて行って!」
「はい!」
「……っ」
口をふさぎ、玄関から追い出そうとするバルドス達に、シャルルの顔が大きく歪む。
「マルシア様!」
……一人の侍女がこちらに走ってきたのはその時だった。
彼女はよく、お義父様とお義母様の世話をしている侍女。
嫌な予感を感じた私は、とっさに侍女を止めようとする。
「今は手一杯よ。後で時間を……」
「マイヤーズ様、クリスタ様が、ご自分の部屋にシャルル様を連れてくるようにと」
「っ!」
的中した最悪の予感に、私の顔が歪む。
「は、はは」
勝ち誇るような笑いが聞こえたのは、そんな時だった。
声につられるように目を向けると、そこにいたのは醜悪な笑みを浮かべたシャルルの姿だった……。
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