四年後の襲来 Ⅵ

 私の言葉に、少しの間シャルルは呆然とたたずんでいた。


「……私がいらないだと? この紅蓮の魔術師が?」


 しかし、良いことに気づいたと言いたげに、シャルルは口元を歪めた。


「何だ? そんなでたらめを言って、私に優位に立とうとしてもそうはいかないぞ! だったら、この街にいる特級魔術師や、宮廷魔術師の存在はどうだ!」


「……ええ、確かに魔術師はこの街にいらないとはいえないわね」


 そう認めながら、私の顔に浮かぶのは隠すことのできない呆れの表情だった。


「けれど、私たちが必要としているのは強力な魔術を使える人間ではなく、魔術を魔術具に落とし込める研究家としての側面を持った魔術師よ」


「は?」


「まだ分からないの? 魔術を使うことしかできない貴方は、別にこの街にいらないといっているのよ」


 そう、この街に必要なのは研究家と職人。

 ここは本当に、魔術具を作るための街でしかないのだ。

 呆然と立ち尽くすシャルルの顔から見るに、全てが理解できた訳ではないだろう。

 しかし、自分が拒絶されたことだけは理解したのか、怒りの表情で口を開く。


「……私がせっかくここまで情けを見せてやったのに、それでも拒絶するのか!」


「すがりついてきただけでしょうに」


「っ!」


 さらに怒りで硬直するシャルルの顔。

 しかし、もう私が何かの感情を覚えることはなかった。

 シャルルが誰か貴族と手を組み、正当な権利を主張してきたとすれば、それは厄介なことになっただろう。

 何せ、そんなごたごたに巻き込まれるだけの余裕は、まだこの領にはないのだから。

 だが、ただなにも考えずに戻ってきたと分かった今、おそれることはなにもなかった。

 そして、そんな私の態度がさらにシャルルの怒りに油を注ぐ。


「いい気になるのもその程度にしておけよ、マルシア! お前がどれだけ強がろうが周りはどうだ? 俺が来たことに歓喜しているのではないか?」


「……どういうこと?」


 思わず尋ねた私に、シャルルの顔に笑みが浮かぶ。


「お前がどれだけ隠そうが、俺はまだこの家で英雄視されてる、そうだろう?」


「は?」


 その妄想に近い言葉に私は思わず絶句する。

 それは図星をつかれたが故の反応ではなく……単純にそう言い切れるシャルルの神経が信じられなかったが故の反応だった。

 けれど、その私の反応にシャルルは笑みを深めて口を開く。


「だから無駄だと言っているだろう。実際のところバルドスは……」


「私が何ですかな?」


「え?」


 その言葉の途中、客室の扉が開いたのはその時だった。

 私も驚く中、扉の外にいる人間の姿が露わとなる。


「……吐き気がする勘違いはほどほどにしてください」


 そこにいたのは、嫌悪感を隠そうともしないバルドスの姿だった。

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