四年後の襲来 Ⅶ

「……勘違い?」


 呆然と呟くシャルル。

 その言葉は、隠しきれない程に震えていた。

 そんなシャルルへと、バルドスは顔をゆがめ吐き捨てる。


「私が敬意を払ったことにつまらない勘違いをしないで頂きたい。これはあくまで、旧主であれ敬意を欠かさないようにしただけのこと」


 そう良いながら、シャルルを見つめるバルトスの目。

 そこには、隠す気のない怒りが滲んでいた。


「こんな存在に、敬意など払うべきではなかった」


 そう吐き捨てたバルドスに対し、シャルルはもうなにも言うことができなくなっていた。

 その蒼白な顔が、今更ながらバルトスの怒りに気づいたことを物語っている。


 ……そう、この場所に自分の味方はいないということを。


 今更すぎるその事実に気づいたシャルルに、私は思わず失笑しそうになる。

 本当に想像もせずに、この場所に来ていたのかと。


「許可もなく話に横は入りしたことは謝罪いたします。けれど。マルシア様ももっと用心してください」


「え?」


 バルトスが、怒りを滲ませそう告げたのはそのときだった。

 想像もしない言葉に対して驚く私に、バルトスはシャルルをさして告げる。


「こんな人間と二人で話そうとするなど、なにを考えているのですか!」


 そう叫ぶバルトスの腰、そこに護身用として開発された魔術具が携帯されていることに私が気づいたのはそのときだった。

 そしてバルトスの奥、そこに隠れるようにして複数人の魔術師がこちらを伺っていることを。

 その光景に、私は今更ながらバルトスがここにいる理由を理解する。


「有事の際に備えて、客室の扉の前で待機してくれていたの?」


「……っ」


 まるで気づいていなかったらしいシャルルが、私の言葉に顔色を変える。

 そんなシャルルを一瞥もせず、バルトスは頷いた。


「はい。今やマルシア様はこの街の頭です。無防備に、野良魔術師と二人きりにさせる訳にはいきませんから」


「そんなことないわよ。私がいなくてももうこの街はもう大丈夫よ。元々私なんていなくてよかったようなものだし」


「そんなことありません! このような人間にマルシア様が傷つけられたとあれば、ルーク様に私たちは顔向けできません!」


 そう力説するバルトスに、私は思わず失笑する。

 実際のところ、私の立場などそこまで大きなものではない。

 にも関わらず、なぜかこの家での私の評価は高く、それが私のとってくぐったいような、少し不相応なものに思えて仕方なかった。


「……ちょっと待てよ」


 呆然としたシャルルが口を挟んできたのはそのときだった。

 怒りを越えて、信じられないといった様子でシャルルは一歩前に踏み出す。


「仮にも伯爵家長男たる私に向かって……え?」


 ──バルトス含めた護衛達がシャルルに魔術具を向けたのはその瞬間だった。

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