四年後の襲来 Ⅴ

「宮廷魔術師だと……!? 聞いてないぞ!」


 顔色を変えて、叫ぶシャルル。

 その本当に私は少し驚く。


 その話につられてきたかと思えば、違ったのかと。


「忌々しい……! そんな奴らなどより俺の方が……!」


 自分の立場も考えず、そう吐き捨てるシャルルの姿からは、嘘をついているようには見えない。


 大方、今更ながら宮廷魔術師という自分が捨てた立場が惜しくなったということか?

 その感情が宮廷魔術師に対するコンプレックスとしてでているらしい。

 そんな姿に呆れつつ、けれどこれで一つはっきりとした。

 シャルルが戻ってきた理由は、もう一つの方にあると。


「貴方、特級魔術師がこの領地にいることを知って、今更来たのね。ここに貴方の価値を認める人間なんていないのに」


「っ!」


 わかりやすく、シャルルが硬直したのはその瞬間だった。

 その姿に、私は呆れる。

 本当にわかりやすい限りだと。


「もしかして、特級魔術師なら自分を認めてくれると思った? それとも、その噂をきっかけに単純に領地が繁栄したから、やってきたのかしら?」


「違う、俺は……」


「悪いけど、貴方の言い訳に微塵も興味はないから黙っててくれる? その態度だけで充分よ」


 その言葉に、シャルルが怒りを抱いたようにこちらを睨む。

 だが、残念なことに私の心がその態度に微塵でも動くことはなかった。

 何せ、もう私の中でシャルルの存在価値は害虫以下なのだから。


「……いえ、一つお礼を言うべきことはあったわね」


 その瞬間、露骨にシャルルの顔が輝く。

 それを私はまっすぐに見返し、笑顔で私は告げる。


「シャルル、貴方に心からお礼を言うわ。……この領地を捨ててくれてありがとう」


「……は?」


 想像もしていなかったのか、私の言葉にシャルルは固まる。

 しかし、私は止まらない。

 さらなる笑顔で告げる。


「だって、そのお陰でここは魔術師の街ではなく、魔法の街になれたのだから。──そう、貴方ではなく職人を要とする、魔術具作成の街に」


「なにを……」


 私にそう聞き返すシャルルの声は、信じられない程かすれていた。

 魔術具作成の街、一般人でも魔術が使えるようになる、おとぎ話に出てくる魔法のような街。


 通称、アルタルト伯爵領、魔法の街。


 その名前の由来はいくらシャルルだとしても分からないとは思えない。 つまり、私の言葉の意味がシャルルには分からないのだろう。

 だから、私は丁寧に教えてあげることにする。


「シャルル、貴方の居場所はここにはないの。貴方が見下していた存在の方が何倍も貴重な才能を持っていたのだから」

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