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「――もう帰るのか」
驚いた様に肩を揺らす彼の問いに、「まだ仕事が残っているので」と適当な理由を述べ、ふらりとその場から離れた。
別れ際、スタインフェルドが浮かべた安堵の表情。それは、この階級制度を物語っている様だった。
彼が、俺にパーティーへの同行を命じた理由。そんなもの、親しみや信頼よりももっと簡単で、単純なものだ。貴族と平民を繋ぐブローカー業を営んでいれば、この様な場所に同行を命じられる事が何を意味しているかなど考えなくとも分かる。
大英帝国を絶対的に支配するのは、この世に生を受けた瞬間に決まる階級制度である。この制度の
だがそれは、“表側の世界”だけでの話だ。自身が属する、所謂“裏側の世界”では、階級制度など殆ど意味を成さない。
上流階級が下層階級に大金を支払って物を手に入れ、同じく大金を支払って物を手放す。裏側の世界とは、この国を支配する階級制度、及びプライドを売って欲しい物を手に入れる世界なのだ。
そんな世界の存在を知っているのは、この国の人口約1、2%程度だろうか。
あってはならないその世界における暗黙のルールは、“裏側の世界を安易に他言しない”事。
上流階級の人間以外にも、警察や裁判員、政府の人間ですらその世界に手を染める。表側の世界で“正義”として生きる人間が、実は“悪”である世界に染まってただなんて事が世に知られたら、それこそ死よりも苦しい生き地獄を見る事になるだろう。
裏側の世界を知った者――特に屋敷暮らしの貴族は、その世界に浸った事が社交界に知れ渡る事を何よりも恐れる。ブローカーや取引相手をこうした場に同行させるのは、それを公言させない為の言わば口封じだ。お前の様な人間など、自分の手に掛かれば簡単に潰せると、そう知らしめる為に。
だが裏側の世界を生きる自分達にとっても、関係者の公言は常に懸念しているものでもあった。
ホール内の人を掻き分け、出入口を探しながらネクタイを緩めた。続けて、シャツのボタンも2、3個外す。
仕事柄正装には慣れているが、やはり窮屈な事には変わりない。本音を言ってしまえば、今すぐにでもネクタイを外し、ジャケットもウェストコートも全て脱いでしまいたい所だが、流石の自分でも弁えるべき事は理解している。
ジャケットの内ポケットに手を差し込み、シガレットケースとマッチを取り出した。疲れた心身を癒す為に、一刻も早く煙草を吸いたい。
ケースを振り中身の本数を確認しながら、足早に出入口を目指す。
だが、目に入ったのは妙に込み合った出入口。受付の使用人と揉める貴婦人や、泥酔した参加者を介抱する周囲の紳士等々。外に出る事すらままならないその状況に、酷く落胆する。
今の自分は、その込み合った出入口に向かっていける程の活力を持ち合わせて居ない。仕方なく、人の多さで視界の悪い中辺りを見渡し
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