第50話
お待たせいたしました。今後三日一度の更新になります。
読み返しておいてくださると、助かります。
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「DNA鑑定って……」
すぐに始業開始の鐘が鳴り、先生が入ってくる。
「あ、授業始まるから、またあとでね」
「え、あ、うん」
と頷いたはいいものの、内心はパニック状態で結衣の言っていることが気になって仕方なかった。
やばい、これはかなりやばい。
DNA鑑定は結衣ルートに入るきっかけの出来事。結衣がレシステンシアの姫であることが、発覚するイベントなのだ。
結衣ルートの内容を思い出す。
結衣の国、レシステンシアでは、王党政治が続いていて、それを大臣は不満に思っていた。そこで大臣は唯一の正統後継者である王子を事故で亡き者にする計画を思いつく。
計画を実行され、王子を意識不明の重態においやることには成功した大臣だが、王子は存命で回復の見込みがあると知る。警護が厳重になり、もはや暗殺は不可能ということに焦った大臣。そんな彼の下に、ある知らせが飛び込む。日本で後継者の資格を持つ結衣が生きているという報告だった。
それを聞いた大臣は、周囲が王子の存命を疑っているうちに、結衣を後継者に盛り立て、自分と婚姻することで権力を掌握しようと画策し、実行、結衣はレシステンシアに連れられることに。
囚われの姫の状態の結衣は、理玖と離れた悲しさ泣き暮れていた。だが、その間にも、処遇に関して、王と大臣の間で後継者にする方向へ着々と進んでいく。
もはや結衣は一生を姫として過ごすことになったか、という時、王城を単独で突破してきた理玖に結衣は連れ出してもらえたのだった。。
囚われの身を解放された結衣と理玖は、追手から隠れて、ひっそりと暮らすようになるが、追手が近くまで迫ったことをきっかけに、いつまでも逃げ切れないと悟る。
戦う決意を固め、理玖が結衣の居場所を条件に交渉のテーブルにつき、結衣に自由を与えるよう王を説得。そして、それを当然ながら不満に思う大臣との対決に。事故の証拠を暴き、大臣の悪行を明るみに出したことで、理玖は大臣との対決を勝利で終え、国のヒーローになるのだった。
それが、結衣ルートの概要。
このまま順当にいけば、結衣は国に連れ去られ、囚われの姫の状態になる。そんな状態の結衣を助けるには、俺がギャルゲー主人公として王城を単独で突破してさらわなければならない。さらに、完全に助けるには、隠遁生活を送ったすえ、王と交渉したり、大臣の悪を暴く必要もある。
どれだけそれが苦難であるかは、ゲームをプレイしただけの俺でもわかる。
このままルート入りはまずい。どうしてこうなった?
俺が負けず嫌いになったせいか? そのせいでフラグが立った?
いや、立つとしても、姫乃か若菜じゃないだろうか。何もしていない結衣に、突然フラグが立つとは思えない。
なら、結衣が望んだ? もしかして、無理やりルートに入れようと、フラグを立てた?
……ありうる。
若菜の悩みを推理していたとき、結衣がギャルゲーのヒロインキャラで迫ってきたときのことを思い出す。
結衣はギャルゲーをしていて、ギャルゲーの知識を得ていた。だったら自分が結ばれるための条件があることに気づいていてもおかしくない。
今回フラグを立て、自分のルートに入れようと画策した、という推論は一応筋が通っている。
でも、仮にそうであるならば、わざわざ結衣の策に付き合う必要はないんじゃないか?
わざと危険を招き寄せて、助けてください、なんて凄く虫の良い話で、俺が手助けする必要はどこにもない。ずっと嫌がっていたギャルゲー主人公になる理由はどこにもないのだ。
結衣が勝手にしたことに、俺が巻き込まれるなんて御免だ。俺の知らないところで勝手にしてくれ。
……と、割り切れるわけがない。
お弁当を作ってくれたり、甘やかそうとしてくれたり、妬いてくれたり、と大きな愛情を向けてくれた女の子が苦しむことがわかっているのに、どうして無視できようか、という話。
結衣に恋愛感情は抱いていない。だけど、それでも。助けたいと思わずにいられないほどの情はある。
ギャルゲーの主人公にはなりたくない。反吐が出るほどに嫌だ。絶対になりたくない。
けれど、ヒロインを助けるのは主人公の役目で、俺しかいないのならば、その義務を果たさなければならない。
やりたくないという気持ちはずっと強い。でも、情があって、責任感もある。
結衣の問題を俺が解決するしか、ない、か……。
やるならば、まずはストーリーをなぞるか、原作知識から上手くやるかを決めないとな。前者は成功が約束されているけど長引くという欠点があるし、後者は改編によって予期せぬ事態が生じ、失敗の可能性がある。
……うん、この辺は結衣と相談して決めるか。
そう思い、授業が終わると、俺はすぐ結衣に話しかけた。
「結衣」
「ん? どした、理玖?」
「あのさ、どうやって大臣の悪巧みを暴くかだったり、国に入った時の対応なんかを話したいんだけど……」
そう言うと、結衣は心底不思議そうに小首をかしげる。
輝く銀髪が揺れ、結衣の顔を一瞬隠した。
「あー……」
何かを理解したようにそんな声を出した結衣は、傾げた首を元に戻す。髪に隠れていた顔は、どこか寂しげな笑顔に変わっていた。
「理玖の気持ちは嬉しい。でも、助けはいらない」
はっきりと貫き通るような声。気遣いとか、そういうのではなく、結衣が本心から言っていることがわかり、存外のことに呆気に取られる。
「だからさ、理玖は気にしないでいてくれたら嬉しい」
結衣は春の陽気を感じさせるような柔和な笑みを浮かべて、話を終わろうとした。
気にしないでくれたら嬉しい。そう言われたら余計に気になってしまう。
「待って」
「ん?」
「一応、どうしてか聞いても良い?」
尋ねると結衣は、うーん、と唸ったあと、恥ずかしげに笑った。
「じゃあ、放課後。空けといてくれる?」
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