第49話


「理玖くん、このプリクラ。どういうこと?」


「あーえっと、実は昨日、姫乃のお母さんとデートを……」


「は? やば。あんな青春キラキラって感じの日の翌日に他の女とデート。おかしくないかな?」


「……ごめん」


「青春キラキラ? 若菜を惚れさせただけでなく、そんなこともしたのね?」


「何かな、姫乃? 姫乃だって理玖くんに助けてもらったんだろ?」


「だから言うんじゃない。私以外に向けられるなんてありえないわ」


「たしかに、それはそうかな」


 姫乃はため息をついた。


「起きたことは仕方ないわ。お母様のことはともかく、若菜のことは私も理玖に助けられているから、今は咎めないであげる。その代わり、次は本当にない」


 あ、助かったのか?


「ありがとう、姫乃」


「勘違いしてないかしら理玖? 今咎めないだけで、次同じようなことをしたらそのときに今のが精算されるだけよ」


「え……」


「ふーん、そういう話の流れなら、同じく助けられた私も乗るよ。本当に理玖くんが誰かを選ぶまで、まあ私だろうけど、そういうことしちゃダメだから」


 2人ともどうやら許してくれたみたい。良かった、結衣みたいに……。


 顔から血の気が引いていく。


 結衣はまずい。


 若菜も姫乃も、自分が助けられたから許してくれた。だけど結衣は違う。


 結衣だけは助けていない。姫乃の時でさえ、全てを吸い尽くされるようなキスをされたのに、今回はどうなるだろうか。


 ダメだ、決してバレてはならない。


「理玖、どうしたのかしら? 顔色が悪いわよ?」


「あ、えっと、次したらまずいって理解してさ、あはは」


 ならいいわ。と俺は2人から解放された。



 ***



 教室に入ってからはずっとヒヤヒヤしていた。


 絶対にボロを出してはならない。


 もしかしたら、結衣は既に知っているかもしれない。


 そんな嫌な予感に叫び出したくなる。


 バレたら確実にやられる。ダブルミーニングで。


 逃げるか?


 逃走経路は窓、出入り口のみ。


 ただ逃げたところで、俺にはろくなことが待っていないし、立ち向かう他ない。


 隠しおおす以外の選択肢はなさそう。


 なら、結衣が来ても平静を装うんだ。


 それからしばらく。いや、授業開始ギリギリになってようやく結衣が教室に入ってきた。


「おはよう、理玖」


 結衣はいつもと同じ感じがする。


 これは気づいていないのか? それとも気づいていて、襲うことを悟られないよう普通にしてるのか?


 普段より、遅い時間の登校。これは何らかの下準備にかけた時間か?


「ん、理玖、どうかした?」


「あ、うん、おはよう」


 平静を装え、平静を。気づかれていないと仮定して話を進めるべきだ。


「あ、そうだ理玖。言わなきゃいけないことがある」


 何だ、死刑申告か? それとも有罪判決程度か?


「私、DNA鑑定受けてきたから」


 ほっ。


 何だ、若菜のことじゃないの……か!?


 DNA鑑定!?

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