第36話
細長い人工芝のコースで、パターを持ってボールに向かう。
軽くスイングして、こつん、とした小気味いい感触を得ると、ボールは転がっていき、かこん、と穴に入った。
「凄い、ホールインワンだ」
「パターゴルフでホールインワンって言うの?」
「言うんじゃないかな、知らんけど」
なんて会話ののち、若菜と交代する。
パッティングの姿勢に入ったことで、スカート越しに綺麗で健康的な形のいいお尻が突き出される。清純派な顔立ちもあって、健全なエロとかいう単語が頭に思い浮かんだ。
「ねえ、理玖くん、お尻の位置はここでいいかな? 触って動かしてみてよ」
「そこでいいから、触らない」
「ちぇ。じゃあ行くよ、えい」
と、若菜はスイングした、それなりに振りかぶって。
当然、ボールは浮く。が、スピンのかかったボールは、カップに吸い込まれ、暴れた音を穴の中から響かせた。
「こんなもんか」
「うせやん」
「まあ、ゴルフは紳士淑女の嗜みだからね。これくらいは余裕かな」
余裕で出来る人はプロでもいないのではないだろうか。いや、ギャルゲーヒロインに常識を求めるのは馬鹿らしい。それに俺も大概だし。
「じゃ、次行こっか、理玖くん」
「まだ一打しかしてないけど、いいの?」
「いいよ。何かこれじゃないなぁって感じたから」
そう言った若菜について行くことにした。
***
次に向かったのはテニスコート。暗くなる前に、と2人ラケットを持って入った。
「じゃあ行くよぉ〜」
とのんびりした口調で、若菜はトスをあげる。そしてフラットサーブからの豪速球が飛んでくる。
慌てて当てるだけのレシーブをすると、高く上がったボールが若菜のコートで大きく弾んだ。
若菜が大きくテイクバックしたので、打ち込まれる、と、バックステップで距離を取ると、ドロップショットされて、俺のコートのネット近くでとんとんと二回跳ねた。
「さて、こんな女子やだ。どんな女子?」
向こうのコートから若菜の声が飛んできたのでちゃんと答える。
「デートでフラットサーブしてくる」
「あはは。はい、次。こんな女子やだ。どんな女子?」
「デートで、打ち込むフェイントをかけてドロップショットしてくる」
「だよね〜。じゃあ、ゆっくりとラリーしてみる?」
若菜にそう言われて、ふと考える。
ただゆっくりとラリーするだけ。世の恋人はそれで楽しいのだろうけど、若菜ほど上手いのにそれは楽しいのかな。
「若菜はどうしたい?」
尋ねてみると、返答がこなかった。
考えているのかと思ったけれど、遠目だけど苦笑いしているのが見えて違うと感じる。
その反応は一体何なのだろう。
「勝負はさっきしたし、ゆっくりとラリーしてみようかな」
しばらくして、そんな答えと、ぽーん、と打たれたボールが返ってきた。
それを俺は同じくらいの勢いで返す。すると、また同じくらいの強さで返ってくる。
小気味のいいラリー。屋上に吹き込む風が肌を撫でて気持ちがいいし、身体を動かすことも爽快。
のんびりとした気分にはなるけれど、それだけ。勝負とは違って、刺激の部分はあまりなく、退屈っちゃ、退屈だ。
「あ」
ラリーは結構続いたけれど、俺がネットにひっかけて終わった。
ボールを拾いに行こうとすると、若菜も近づいてきていた。
「次行こっか、理玖くん」
「まだ全然やってないけど、楽しくなかった」
「楽しいのは楽しいんだけどね、これじゃないなぁっていうか」
「そか」
若菜の煮え切らない態度に、なんとなく悩みの姿が見えてきた気がする。
なんて考えながら、ボールを拾い上げると、若菜がぴょんと背中に乗っかってきた。
女の子の軽い体重と、背中に大きくて柔らかい感触がむにゅときた。
「さあ、理玖くん号、発進じゃあ」
「恥ずかしいので、やりません」
そう言うと、若菜は、えー、と降りて先を歩き、振り返った。
「よし、まだまだアクティビティはあるし、どんどん行こう!」
***
バッティング、パターゴルフ、テニス、そして次はビリヤード。そこでも、軽く触ったのち、アーチェリー場へ。そこでは、見たことある美人ママが、弓道着でアーチェリーに勤しみ、幅広い年代の女性たちから黄色い声を浴びていたので、スルーして別の場所へと向かった。
「ここ行こう! ここなら、何かしらあるかな!」
若菜に連れられるままアミューズメントエリアへと赴く。クレーンゲームの合間を縫い、メダルゲームが並ぶエリアを横目に、ドラムや円状に配置されたボタンを押すリズムゲームが設置された区域に入る。ガチ勢のプレイを見て感嘆を漏らし、「次にやっても良いけど、見られるのは恥ずかしそう」と移動。
そうして辿り着いたのは、沢山の大型筐体が並ぶエリア。二人乗りのシューティングゲームやカーレースのゲームが大きな音を立てている。
「レースで勝負しようよ」
若菜はそう言って、運転座席だけの車に乗り込んだ。俺も後に続いて乗り込む。
「勝負でいいの?」
「うーん、まあそういうゲームだし。あ、罰ゲームはつける?」
「えっちな罰ゲーム、あと過度な罰ゲーム以外なら」
「ええ〜、思いついたやつ全部なくなったんだけど」
ぶーぶー言いながら若菜は、そだなぁ、と続けた。
「じゃあ、負けたら手で目隠しってことで」
「それくらいならいいけど」
「よし、決まり! さ、始めよう。ドライビングテクニック見せてやるぜ」
若菜がスタートを押したので、俺もスタートして車を選ぶ。
ゲームが開始されると、スタートラインに車が横並びになる。が、いい勝負をしていたのは動き出すまで。最初のカーブでぶっちぎられて、後ろ姿すらみることなく、負けてしまった。
「さ、理玖くん、早く、目隠しして目隠し」
若菜がゲーム筐体に乗ったまま、ウッキウキでキラキラした目を向けてきた。
「俺がする側なんだ」
「当たり前! するのはするでいいかもだけど、される方がいい! さ、運転席の後ろから目隠しして!」
「どういう殺人方法?」
「いいから」
急かされたので、降りて若菜の席の後ろに回る。そして手で若菜の綺麗な目を覆う。
「凄い、ドキドキする」
その言葉は嘘ではないみたいで、若菜の息が荒いできた。
「これやばいよ、理玖くん。好きな人に視界を奪われてると思うと、凄い。熱いし、変な気分になってきた」
本気で呼吸が荒くなっていたので、若干引いて、目隠しをやめる。
「あー、まだやめていいって言ってないのに!」
文句を言いながら降りてくる若菜は、いつもの青い空と海が似合う雰囲気があって、安心して気づく。
今日の若菜は曇っているように見えていたのかもしれない。
「ん、理玖くん、どうかした?」
「ああ、いや。若菜が楽しそうでちょっと安心して」
そう言うと、若菜は、どこか影のある笑顔を浮かべた。
「そうなんだよね。理玖くんと接してる時は、心置きなく楽しい。本当、それだけなら良いいのに、人生はそれだけじゃあないかなって」
「どういう意味?」
「何でも! さ、次に行こう……って、ああ、もうこんな時間だ、帰らなくちゃ。しくったなあ、折角の理玖くんを落とすチャンスだったのに」
肩を落とした若菜はとぼとぼと歩き始めた。
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