第33話
如月若菜。
常に一番を維持しようと、無意識に気を張っていた女の子。この課題で助けてもらったことで唯一の頼れる存在を見つけた女の子。そして、2人で協力して課題に取組んで一番を取り続け、なんやかんやテロ組織まで壊滅させちゃう女の子。
さて問題。そんな彼女が現在、何を悩み事にしているでしょうか?
ヒントは、朝、姫乃が言ったこと。
『この頃の若菜はたしか、自分が一番だって言っているかのようにギラギラしてた。なのに、授業中も実技も何も、飄々としている。もしくは、浮ついているわ』
『そう。貴族クラスの一般科目のテスト。そこでね、若菜は腹立たしいことに一番をとったわ。先生に褒められたのに、あの子、酷く冷めた目をしてたわ』
それでは問いに答えよ。
……わかるかいな、こんなもの。
そう放り投げたくなるけど、不正解はギャルゲー主人公行き、実質終身刑。投げ捨てはできない。
一体、若菜は何に悩んでるんだ?
若菜の悩み事が何か考え続けたけれど、結局答えの出ないまま、午前の授業終了の鐘がなる。
昼休みになると、例の如く、結衣がお弁当を持って、俺の下へやってきた。
「フン、あなたの為にお弁当作ってきたんだから、有り難く食べなさいよね!」
結衣が昔の姫乃みたいなツンデレキャラで迫ってきた。
「どうしたの、そのキャラ?」
「敢えて、ツンデレ風にしてみたけど、どう?」
「あんまり」
「そか。じゃあ、おーほっほ。私のお弁当、食べてもよろしくってよ」
「それもあんまりかな」
「残念、これも響かなかったか。やっぱ、脅して甘やかすしかない?」
「それもあんまり。というか、毎度毎度、結衣はどこからそういう知識を蓄えてくるの?」
「ギャルゲー」
「ギャルゲー?」
「そう。普通に考えれば、理玖はギャルゲーをやってたんだから、出てくる女の子が好きなわけよね?」
「まあ、そうなるのかな?」
「でしょ。好みは色々だと思うけど、そこに確実に好みがある。だったら、虱潰しにキャラをやれば、どれか刺さるんじゃないかって」
パワープレイだなぁ。
なんて思って、ふと気づく。
そうか。パワープレイか。
若菜とやっているのは、実質水平思考ゲーム。最初っから、無理に推理する必要はない。
例えば、『授業中も実技も何も、飄々としている。もしくは、浮ついているわ』と朝の姫乃の言ったことについて、『それは悩みに関係がありますか?』と尋ねれば良い。
そう考えると無理ではない気がしてきた。
「ありがとう、結衣」
「ん? お礼を言われるようなことしたっけ?」
結衣が首を傾げ、輝く銀髪がはらりと揺れた。
「ちょっとさ、若菜とゲームをしてて」
「ゲーム?」
「そう、罰ゲームの内容は知らないんだけど……」
俺は姫乃の時と同じように、罰ゲームの内容には触れずに話した。
「ふーん、それで水平思考ゲームらしく、どれかあたるやろ理論で、パワープレイをしようとしたわけかあ」
「まあそんな感じ」
「ねえ、理玖、1つ聞いても良い?」
「何?」
「実は罰ゲームの内容知ってるよね。知ってた? 理玖には、嘘をつくときには鼻がぴくっと動く癖があるんだよ」
そんなベタな引っ掛けにはかからない。
「何の話?」
と、とぼけると、結衣は責めるような視線を向けてきた。
「いや、本当に知らないって」
「今言うと、罪が軽くなるよ」
「えっと……」
「正直、鼻の話は鎌かけ。実際には、勝った時の条件だけがハッキリしてる話をするときに、罰ゲームの内容は知らないんだけど、って入りはしないってところから気づいた」
結衣の目が揺らいでいない。俺が嘘をついていると確信している。
きっと嘘はバレる、ここは本当のことを言うしかない、か。
話が話なので、できるだけ小声で罰ゲームの内容を語る。
「……ということなんだ。だから俺は負けるわけにはいかないんだよ」
と言うと、話を聞き終えた結衣はニコニコになった。得体の知れない恐怖に、背筋が凍る。
「理玖」
「はい」
「負けたら許さない」
負けたら他の女を抱くことになるかもしれないのだ。恋人だった世界線から来た結衣の反応は当然でしかない。
「はい、負けないよう頑張ります」
「あと、負けたら、若菜と逆をやる」
結衣の目がガチで、また震える。
「あ、負けなくても、理玖がやって欲しいなら、いつでもやってあげる♡」
普通に怖いので、あはは、と乾いた笑い声をあげて続ける。
「冗談はさておいて、そういうわけだから、若菜におかしな所とかない? ほら、結衣。前回のアルバイトの課題ではペアだったよね?」
「別に冗談ではないけど、そだね……若菜に変だったところはあるよ」
「え、本当? 何?」
尋ねると、結衣は教えてくれた。
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