第31話


 朝、登校中の山道で俺は考えを巡らせていた。


 次の課題、どうしよう。


 俺は好成績を残さなければならない。なのに、若菜があの調子だとそれは無理で、俺は雪城家入り。


 無理だ、ありえない。呑めるはずがない。


 この際、若菜に事情を話して、真面目に課題に取り組んでもらうか?


 いや、無理だ。


 事情を知れば、雪城対如月で、俺の所有権争いが始まってしまう。今は退学したら、という条件だけれど、争いが起きてしまえば、互いの家の面子のために、在学中も関係なく奪い合われるだろう。


 だったらどうすればいい? 若菜に良い成績を残したいから協力してくれ、と頼むか?


 うん、それなら大丈夫そう。


 良い成績を残したいというのは、普通の考え。他に意図があったとしても、嘘をつらぬき通せる。それに、気は進まないが、協力してくれないと嫌いになるといえば、若菜だって協力してくれるだろう。


 これでいい。


 肩の荷が降りて、ほっとした時だった。


「理玖くん!」


 リムジンが止まり、若菜が出てきた。


「一緒に登校しようよ!」


 青空が似合う、溌剌とした笑顔の若菜の提案に、ちょうどいいと思った。


「うん、一緒に登校しよう。話があるんだ」


 歩きながらそう言うと、横並びから少し前へ出た若菜が、腰を曲げて顔を覗いてきた。


「話?」


「そう。課題についてなんだけどさ」


「ああ、昨日も言ってたね。問題が変わる可能性があるのは、私も思ってたかな〜」


 でも、大丈夫、と眩しい笑顔で若菜は笑った。


「たかだか、謎謎なんて、私に解けないはずないよ。なんたって、私は如月若菜だから」


 自信に満ち溢れている若菜に安堵する。


 若菜さえ真剣に取り組んでもらえれば、今回の課題も高順位確定だな。


「頼りになるよ、若菜。俺も試験で好成績を残したいから助かる」


 そう言うと、若菜は笑った。


「あはは。そんなのどうでもいいじゃん」


「どうでも良くないよ。良い成績を残したいから」


「そっか、頑張り屋さんだね、理玖くんは。でも今回は我慢してもらわないと」


「いや、それは我慢できないかなって」


 そう言うと、若菜はぴたっと足を止めた。


「理玖くん、状況を整理しよう」


「状況?」


「私は理玖くんに落とされた未来から来た。そして、結衣と姫乃も落とされた未来から来た。で、理玖くんは私含めて、3人を落とした未来から来た。ここまでは大丈夫?」


「あ、いや、うん……」


「で、だ。理玖くんは、私以外の2人に浮気した。それを私は我慢して見逃している。また惚れさせれば良いとライバル相手に健気に頑張っている」


「そう、なんでしょうか?」


「そう。我慢しているのに、理玖くんは試験で好成績をとりたいから、私に惚れさせる機会も我慢してくれと言うのかな?」


 何だろう。俺が凄い悪いことをしているような気がしてきた。


「でもね、理玖くん。私も理玖くんを我慢させて嫌われるのは本意じゃない。だからね、ゲームをしよう」


「ゲーム?」


「うん。それで理玖くんが勝てば、私は本気で試験に取り組む。だけど、負けたら、理玖くんには私に悪戯してもらう」


 話を聞く限り、俺に損はなさそう。手詰まりだった状況を思えば、渡りに船と言っても良いかも知れない。


「ゲームの内容は?」


 尋ねると、若菜は笑った。


「質問でも何でもして、私の悩み事を当てること。期限は試験1日目までかな。最下位スタートでも、私なら2日目で挽回できるし」


「悩み事? 俺のことでなくて?」


「うん。他にちゃんとある」


「ちなみに、質問には真面目に答えてくれるの? 何回でもしていいの?」


「もちろん。はい、か、いいえ、で答えるよ。水平思考クイズみたいな感じにね」


「質問以外もしていいの?」


「それももちろん。何でもしていいよ」


 なら色々とやりようがあるか。正直、この提案に乗らなければ、どうすることもできない。ここは乗るべきだろう。


「わかった。やる」


「やめるなら今のうちだよ?」


「大丈夫、やるよ」


「そっか、うん! じゃあ最後に、悪戯の内容だけど……」


「悪戯してもらう、って内容は俺が決めないの? 若菜が決めるんじゃ、悪戯にならないんじゃない?」


「いやいや。私が決めないと、このゲームに私の旨味ないかな〜」


 まあ悪戯の内容を若菜に決められるのは想定済み。わんちゃん、こっちが決めれる可能性を残すために、そう言っただけだ。


「わかったよ。それじゃあ、内容を言ってみて」


 そう言うと、若菜は肉感的な身体をしならせた。


「内容は、手錠と目隠しされて動けない私にずっとするエッチな悪戯。私が泣いてもやめてって言っても、絶対やめちゃだめだからね?」


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