第23話 ウォードさんなら当然です

SIDE:ラムルネシア


 ネロ様とウォードさんと共に、スタンピードの調査という名目で森を探索しております。先ほどはウォードさんがいずれグランビットの王立学園に行くというお話で盛り上がっていましたね。さりげなく一緒に住む確約を取るネロ様、さすがでございます。


 ネロ様のウォードさんに対するお気持ちにはとっくに気付いております。私にとってネロ様はこの世で一番大切なお方。ネロ様の幸せが私の幸せなのです。だからこのラムルネシア、精一杯ネロ様の恋を応援させて頂きますよ!


 ウォードさんは、私にとって歳の離れた弟といったポジションでしょうか。可愛らしくて仕方がありませんが、恋愛の対象ではございません。好きか嫌いかと問われれば大好きですが、それはあくまで弟としてでございます。ネロ様の目がなければ思い切り甘やかしたいと思っております。いずれ機会があれば……うふふ。


 それにしてもウォードさんの成長っぷりは想像を超えていますね。本当に人族なのでしょうか? 実はドラグーンなのでは?


 確かに、ネロ様のアシグナシオン、そして私のアシグナシオンで力を分けておりますが、それにしたってちょっと意味が分かりません。だって8歳ですよ? 私が8歳だった時より確実にお強いと思います。


 もしかしたら、ウォードさんは神の加護か寵愛でも受けているかも知れませんね。


「ウォード! ジャイアント・キラービーが来るよ!」

「分かった!」


 さて。ウォードさんにとって初めての飛行タイプ・モンスターです。お手並み拝見と行きましょう。


 ジャイアント・キラービーは、体長80センチくらいの蜂のモンスターです。昆虫タイプで飛行型というのは結構厄介なもの。飛んでいるのはもちろんですが、飛行の軌跡が非常に不規則なのです。真っ直ぐ突っ込んで来たと思ったら突然止まり、急速に横に回ったりします。しかもこいつは毒針も持っているのです。それが三体います。


「うわっ! 近くで見ると気持ちわるっ!」


 ウォードさん、気持ち悪がっている場合ではありませんよ? 確実に一体ずつ倒さないと囲まれてしまいます。ほら、早く攻撃しないと!


「う、くそっ! 当たらない!」


 ネロ様が後ろでハラハラしながら見守っていらっしゃいます。ウォードさんが初めてゴブリンと戦った時から、ネロ様はずっとこんな調子です。私が押さえていないとすぐに飛び出してしまいそうです。ネロ様だったら瞬殺ですからね。ウォードさんを心配する気持ちは痛いほど分かります。


「フレイム・ブレット!」


 そう! 遠距離からフレイム・ブレットが正解です! ウォードさんのフレイム・ブレットは私でも躱せるかどうか……狙っている場所と射出のタイミングが分かれば躱すのは容易いですが、魔法名すら口にせず放てば躱すのは至難の業でしょう。


 危ないっ! 右の死角から高速で飛来した蜂がウォードさんに毒針を刺そうとしますが、ウォードさんは見ていたかの如くそれを躱しました。すれ違い様に振るった槍が、蜂の羽を切り裂きます。飛べなくなった蜂など的も同然。すぐに頭部に槍を突き刺し止めを刺しました。


「あと一体!」


 手に汗握るとは正にこの事でしょう。自分が戦うより緊張します。


 蜂はウォードさんの届かない高さを飛び、隙を窺っているようです……あの体勢は! 蜂はお尻の毒針を発射しようとしています。ウォードさんはその攻撃を知らない。私は念のため次元収納から毒消しポーションを取り出しました。毒を受けたらすぐに治療するためです。


「龍気弾!」


 シュッ!


 ウォードさんが龍気弾を放ったのと同時に、蜂が毒針を発射しました!


「あぶなっ!」


 なんと、ウォードさんは槍で毒針を弾きました! なんという動体視力。反射的に動いたにしても、今のは見事でした。


 最後の一体はウォードさんの龍気弾で体の半分を吹っ飛ばされました。ウォードさんの完全勝利です。


「ウォード! やったね!」


 ネロ様がまた、どさくさに紛れてウォードさんを抱きしめています。私はそっと毒消しポーションをしまい、周囲を警戒しながらウォードさんに歩み寄ります。


「ウォードさんなら当然です」

「ありがとう、ラムルさん!」


 本当はもっと褒めてあげたい。ネロ様のように全身で喜びを表したい。でも私は姉として、戦い方の教師として、ネロ様の側仕えとして、ウォードさんにもっと強くなって頂かなくてはならない。だから、これくらいで満足して欲しくないのです。これくらいは当然と思ってもらわないとならないのです。


 ウォードさんは必ず強くなります。もっともっと、それこそ私など及びもつかないほどに。


 私の役目は、ウォードさんを最強という頂きの麓に導くこと。それまでは、例えウォードさんから嫌われることになっても厳しくしようと思っております。


 ウォードさん、頑張って付いてきてくださいね。そしていつか「よくやりましたね」と私に褒めさせてくださいね。





SIDE:ウォード


「ウォードさんなら当然です」

「ありがとう、ラムルさん!」


 初めての飛行タイプ三体を倒した後、いつものようにラムルさんのお言葉を頂いた。ラムルさんは、これくらいのモンスターなら勝って当然と思ってくれてるんだ。その期待を裏切っちゃ駄目だよね、男として。


 最近はラムルさんの機嫌が良いかどうか、僅かな表情の変化で分かるようになったんだ。今は絶対機嫌が良い。


 もちろんネロもすごく満足そうな顔をしてくれる。頑張って強くなれば、二人はもっと喜んでくれるかな?


「ウォードさん、浄化魔法を試してみませんか?」

「おお! それは覚えたいです!」

「浄化魔法は便利だよね!」

「ジャイアント・キラービーの体液で槍が汚れていますから、まずは槍を綺麗にしてみましょう」

「槍、ですか?」

「はい。単純な形の無機物から練習した方が良いと思います」


 なるほど。いきなり体や服だと良くないのかな?


「浄化魔法は、失敗すると対象の表面を削り取ったりする場合がありますから」

「こわっ!?」


 それ、下手な魔法より怖いよね? ……ん? それって攻撃にも使えるんじゃないのか?


「無属性の攻撃魔法は、この浄化魔法の先にあるものです。ただ、コントロールが非常に難しいですから、まずは浄化魔法を完璧にマスターして下さい」

「はい、分かりました。えっと、槍も傷付いたら嫌だから、こっちの石で練習してみて良いですか?」

「もちろん構いません」


 ということで、俺は蜂の体液がかかった手のひら大の石を拾った。


「こう、表面の汚れを浮かせて、布ですぅーっと拭き取るイメージです」


 おお!? 魔法を教わるのは期待できないと思ってたんだが、今までで一番分かりやすいぞ! 隣でネロが期待に目を輝かせているのが凄くプレッシャーだけど。


 前世のCMで、洗剤が汚れを浮かせるシーンを見た気がする。あれをイメージすれば良さそうだ。さらに、電子顕微鏡を通して見ているように汚れの分子までイメージする。これはあくまでイメージだから正確でなくても構わない。石の表面には触れずに汚れだけをそっと浮かせる。それを真っ白な布で包み込むように拭き取る……


 うっすらと白く光る魔法陣が石をスキャンするように動くと、蜂の体液だけでなく表面の汚れが綺麗に消え去り、ツルツルと光沢のある石になった。


「やった! ウォード、石が綺麗になったよ!」

「こ、これで成功?」

「成功です。ウォードさんなら当然ですね」


 ふー。物凄く集中したせいでちょっと額に汗をかいてしまった。こんな大変な事を、ラムルさんはあんなに簡単そうにやってたんだな。改めて尊敬してしまう。


 その後、10分くらいかけて自分の槍を綺麗にした。これ、普通に布で拭いた方が絶対早いよね? モンスターが出る森で俺はいったい何をしてるんだろう。でも、浄化魔法が使えるようになったから良しとする。ラムルさんみたいに使えるようになるまで練習あるのみだな!


 それから、俺達は再び走竜の背に乗って森の探索に戻った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る