第21話 テンプレは回避される事もある

 カローサス村からコルドンの町へは、遠回りだが街道を使うことにした。マフネリアに負担をかけないよう、歩いて帰る為である。俺達のほか、カルロさん達「蒼穹の鷹」の4人も一緒だ。


 ああ、残りの二人の名前はバンさんとコルトさんだった。忘れててごめんなさい。


 道中、ネロに改めて助けてくれたお礼を言った。火焔神龍国の王都から戻ったネロは泊っている宿へ行ったが、俺達の姿がなかったので冒険者ギルドを訪ねたそうだ。そこでカローサス村の事を聞き、プラネリアに乗って大急ぎで来てくれたらしい。


 ネロが間に合わなかったら死人が出ていただろうな。もしかしたら俺自身が死んでいたかも知れない。


 それから、ラムルさんがいかにして俺がデラトリスを倒したかをネロに語って聞かせている。


「嵐のように迫り来る大剣を、ウォードさんは全て紙一重で躱したのです」

「それから!?」

「ドラゴンなのにオーガのような形相で怒り狂った男は、ウォードさんに神速の突きを繰り出しました!」

「ええっ? それでそれで!?」


 いや、概ね間違ってはいないけど、表現がいちいち大袈裟じゃないでしょうか? ネロがキラキラした瞳でラムルさんの話に聞き入り、俺の方をチラチラと見てくる。ネロだけじゃなくてカマロさん達までラムルさんの話に釘付けだよ。


「そしてドラゴンの男は遂に本気になったのです! しかし、ウォードさんは言いました。『だが遅い。フレイム・ブレット!』」

「きゃあーっ!」


 ネロが両手で頬を押さえてクネクネしながら歩いている。「だが遅い」なんて言ってないから。思ったけど口には出してない筈……もしかして口にしちゃってた? うわぁ、メチャクチャ恥ずかしいんですけど!


「ウォードさんが同時に放った炎の弾丸、六つ全てが男を貫き、男は成す術もなくその場に倒れました。ウォードさんの完璧な勝利です!」

「ウォードすっごい! カッコいい!」


 ネロが俺を正面から抱きかかえ、そのままクルクルと回った。柔らかいお胸に顔が押し付けられて至福……なのはいいんだけど、人から自分の戦ってた様子を聞くのってこんなに恥ずかしいの!? それともラムルさんの語り口のせい?


 一頻り回って地面に降ろされた俺の肩をカマロさんがポンと叩く。


「ウォード、かっこよかったぜ!」


 そう言ってサムズアップするカマロさんの目には涙がキラリ。……え? 今の話のどこに泣く要素があった?


「ウォード、凄いよ」

「ウォード、尊敬するぜ!」


 バンさんとコルトさんも俺の肩を叩きながら言う。


「ウォード君……かっこ良かったよ!」


 最後にシャルルさんが……ってシャルルさんも目に涙を貯めているだと? 似た者兄妹だな、おい!


 まあ、相手が超油断していたとは言え、デラトリスを倒せたのは確かだ。だが、その後のドラグーンの女には全く歯が立たなかった。ラムルさんとマフネリアが庇ってくれなかったら死んでいただろう。


「マフネリア、助けてくれてありがとうな」

「クルルゥゥ♪」


 マフネリアの首筋を感謝の気持ちを込めて撫でると、楽しげな鳴き声で返事してくれた。隣を歩いているプラネリアも顔を寄せて来るので撫でてあげた。


「ラムルさん、改めて助けてくれてありがとう」

「いいえ、私の方こそみっともない所を見せてしまいました。次があったら完璧にウォードさんをお守りします」


 あちこち破れてしまったメイド服は既に新しい物に変わっていた。いつの間に着替えたんだろう?


「ボクだってウォードを守るからね!」


 ネロが俺の手を握りながら高らかに宣言した。そのまま手を繋いで歩く。


 ははっ。守られてばっかりだな、俺は。俺が二人を守るって決めたのに。もっともっと強くならなきゃ。二人を守れるくらい強く。





 二時間くらいかけてコルドンの町に辿り着いた俺達は、そのまま冒険者ギルドに報告に行った。俺はそのまま魔法の練習に行きたかったんだけど、ネロから「今日は休まないとダメ」と諭され、大人しくギルドについて来た。


 ラムルさんはカマロさん達と一緒に二階へ上がって行った。ギルドマスターに直接報告するらしい。俺はネロと一緒に一階の椅子が並んだ所で待つ。


 時刻は午後4時を過ぎたくらい。カローサス村に行かなかった冒険者達が、その日のクエストを終えて報告と報酬の受け取りの為、カウンターに列を作っている。そのうちカローサス村に行った冒険者達も、疲れを顔に張り付けてギルドに帰って来始めた。


 パーティの代表が一人だけ列に並び、残りのメンバーは俺達の傍に腰掛けて待つようだ。その間、たくさんの人からお礼と労いの言葉を掛けられた。コミュ障の俺は恐縮しっ放しである。


 でも、冒険者って良い人ばっかりだなぁ。粗暴な人が多いイメージだったんだけど、俺みたいな子供に「ありがとう」「強いんだな!」「おかげで助かった」なんて真っ直ぐな言葉を掛けてくれる。ネロもそんな様子にニコニコして満足そうだ。子供の俺や美少女のネロに絡んで来る人なんていない。


「おい! お前がドラゴンを倒したってホラ吹いて調子に乗ってるガキか?」


 いたわ、絡んで来る人。


 そもそも俺、ドラゴンを倒したなんて自分で言ってないからね? 調子に乗ってるつもりもないし。むしろドラグーンの女にコテンパンにされて凹んでるんだから。何がどうなったらそういう解釈に繋がるのか理解不能だ。


 でもこれはアレだ。新人冒険者が必ず受けると言われる洗礼。俺が前世で読んだファンタジー作品では、冒険者になった主人公はほぼ全員が他の冒険者に絡まれていたよ。そして、そういう主人公は大抵チートを持ってて絡んで来た奴を返り討ちにしていた。


 まあ、俺にチートはないんだけどな! まだまだ弱いし!


 どうせこの後、何だかんだでこの人と戦う事になるんでしょ? 嫌だなー。勝っても負けても面倒臭そうだ。


「おいお前! この坊主は本当に強ぇぞ?」

「相手がドラゴンだったかは分からんが、確かに普通じゃない奴だった!」

「一緒にいるお姉さん二人は半端じゃねぇしな!」

「そうだ! めっちゃ美人さんなんだぞ?」

「俺は黒髪の可愛い子の方が好みだ!」

「ウォード君だって可愛いわよ!」

「そうよそうよ!」

「あんた、恥かくから坊主に喧嘩売るのやめとけよ」

「マジで冒険者続けられねぇぞ?」

「ウォードに喧嘩売るなら俺達が代わりに買ってやるぞ?」

「俺だって良いとこ見せてお姉さんにぎゅってされたい!」

「俺もだ!」


 おおっ……周りにいた冒険者さん達がメチャクチャ庇ってくれるんですけど。カローサス村で一緒になった人達だ。半分くらい変なのも混じってた気もするけどな。やっぱ良い人達だなぁ。


「くっ、きょ、今日の所は見逃してやる! あんま調子乗んなよ!」


 絡んで来た奴は捨て台詞を残してギルドから出て行った。いやー、負け惜しみで捨て台詞を言って去って行く人って本当にいるんだね。


「あ、あの、みなさん、ありがとうございます」


 俺は椅子から立ち上がり、周りの人達に向かって頭を下げた。ネロは相変わらずニコニコしている。良かった、ネロがさっきの奴を燃やさなくて。


「いいって事よ! なんかあったら俺達を頼ってくれていいからな!」

「おう! お前の方が強いけど、これでも先輩だからな!」

「私はウォード君とお茶したいわ!」

「あっ、私も!」

「俺は青い髪のお姉さんと!」

「俺は黒髪の子だ!」


 最初はいい感じだったのに台無しだな、おい。まあ、これも自由が売りの冒険者ってことかな。


 そうやってワイワイしていると、ラムルさんが戻って来た。


「ネロ様、ウォードさん。ギルドマスターが直接お話したいそうです」


 おおっ! ギルマスと面談! 俺は一昨日見習い冒険者として登録したばかりだぞ? まさか今回の活躍を聞いてランクアップとか? そんな、まだ早いよ~!


 ギルマスと言えば、引退した元高ランク冒険者が相場だ。顔に傷があったり、凄い大男だったりで威圧感が半端なく、その視線だけで暴れん坊の冒険者達を黙らせる。でも面倒見が良くて、実は優しかったりするんだ。


 怖い。緊張する。でもちょっと楽しみ。俺とネロは、ラムルさんの後をついて二階へと上がって行った。

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