第17話 ラムルさんはドSかも知れない
ネロがどこかへ行ってしまった夜。いつも俺とネロが寝る部屋にラムルさんがやって来た。
「あの、ラムルさん。ネロはどこに行ったんですか?」
「火焔神龍国の王都です」
「えっと、何しに?」
「ウォードさんを無事保護した事と、近いうちにウォードさんと共に国に向かう事を報告するそうですよ」
なるほど。それはラムルさんじゃなくてネロが行かないといけない事なんだな。しかしラムルさんはネロの側仕え兼護衛なのに、ネロを一人で行かせてしまって良かったのだろうか?
「ネロ様のご命令ですので」
「あ、そうなんですね……って、ちょっ!? ラムルさん!?」
何の前触れもなく、ラムルさんが
「今夜一晩で、『無』の魔法属性と私の力をウォードさんにアシグナシオンいたします。そのためには、肌の接触面積を増やした方が効率が良いのです。さ、ウォードさんも脱いでください」
「えっと、これもネロの命令ですか? ラムルさんはそれでいいんですか?」
「命令ではありません。ネロ様をお守りするために、私はウォードさんに強くなって欲しいのです。これは私自身の意思です。もちろんネロ様にはお伝えしておりますが」
「い、いや、でも」
「何を今更恥ずかしがっているのですか。お助けした時にウォードさんをお風呂に入れたのは私ですし、この前も一緒にお風呂に入ったではありませんか」
混浴はネロもいたし。夜の密室で男女二人きりで裸になるって、もういかがわしさしかないよね? 体は8歳だけど、中身は30過ぎのおっさんですよ?
俺が一人であわあわしている間に、ラムルさんはもうすっかり全部脱いでいらっしゃった。窓から差し込む月明りがラムルさんの左半身を照らし、右半身は闇に包まれている。まるで絵画のような美しさだ。俺は思わず見惚れてしまった。
「さ、ウォードさんも全部脱いでくださいね」
「あ、はい」
ラムルさんに脱がされそうになったので自分で脱ぐ。ラムルさんの美しさと勢いに負けて興奮はどこかへ行ってしまった。そのままベッドに入ると、ラムルさんは俺の背中側に横になって上掛けを掛けてくれる。
柔らかくて温かい。あんなに強いラムルさんだから、ゴツゴツして固いと勝手に想像していた。実際は全然違った。
俺は前から気になっていた事を尋ねてみた。
「あの、俺に分けてくれたドラグーンの力は元に戻るんですか?」
「もちろん。人族に分けるくらいの力なら一日もあれば十分戻ります」
「そう……良かった。あと、なんで魔法属性まで獲得できるんでしょう?」
「詳しくは知りませんが、龍気に魔法の属性が混じっているからだと思います」
「そうなんですね……」
「さあ、目を閉じて眠ってください。少し多めに力を流し込みますから、明日は覚悟してくださいね」
「え?」
「大丈夫。死にはしませんから」
ラムルさんの言葉が物凄く気になるけど、疲れと心地良さが勝って眠気に抗えない。フォレストウルフやオーガと戦い、火の魔法の新たな使い方も生み出したもんな……濃い1日だった――
目覚めた時、窓からは眩しい光が差し込んでした。ラムルさんはいない。ネロもまだ帰っていないようだ。
「何時だ? ……って痛ぇ! 体中がいってぇ!」
体を起こそうとして、今まで感じた事のない痛みを感じて思わず叫び声をあげた。なんだこの痛みは!? 寝ている間に襲撃を受けたのか?
いや、この痛みには覚えがある。これは……筋肉痛だ! こんなに酷い筋肉痛になったのは前世含めて初めてだけどね!
ベッドから転がるように抜け出す。1メートルくらい離れた椅子の上にきちんと畳まれた着替えが置いてある。きっとラムルさんが用意してくれたのだろう。なんとかパンツだけでも履かないと。なにせ素っ裸だから。
床に四つん這いになり椅子に手を伸ばすが届かない。くそっ! もっと近くに置いてくれても良いじゃないか!
「あら、ウォードさん。お目覚めですね」
情けない姿をラムルさんにばっちり見られてしまったが、俺は固まって動けずにいた。見かねたラムルさんがベッドに抱えあげてくれて、パンツも履かせてくれた。恥ずかしくて顔が火照り、ラムルさんと目が合わせられない。
「アシグナシオンが少々強過ぎたかも知れません。ウォードさん、ごめんなさいね」
「いえ、ラムルさんのせいじゃありません。俺が弱いから……」
「ウォードさんは決して弱くないですよ? 取り敢えずこれを飲んでください。マシになる筈です」
ラムルさんの胸元に直径30センチくらいの白く光る魔法陣が見えた。そこから青い液体の入った小瓶を取り出し渡してくれる。
「い、今、次元収納から出しました?」
「ええ、そうですよ?」
「何か見えました! 白く光る円形の魔法陣みたいなヤツが!」
「『無』の魔法属性を無事獲得されたようですね」
「無の属性があれば次元収納の出し入れが見えるんですか?」
「仰る通りです」
「お、俺にも次元収納が使えますか!? 転移とかも!?」
「ふふっ、どうでしょう? 可能性はもちろんありますね」
次元収納や転移って、めちゃくちゃファンタジーだよね! ザ・異世界転生って感じ! 俺は小さくガッツポーズをした。
「そのポーションを飲んでくださいね?」
「あ、はい」
小瓶のポーションを飲む。すると、今まで痛かったのが噓みたいに筋肉痛が消えた。
「すごい……ラムルさん、すごいです! 筋肉痛がなくなりました!」
「それは良かったです。実は、冒険者ギルドから緊急依頼が出ているのですがどうしますか?」
筋肉痛が治ってすぐに依頼の話をするなんて、さすがラムルさんである。
緊急依頼の内容は、ここから北に徒歩で二時間くらいの所にある、カローサス村の救助要請だった。
一昨日、村人が森の中でモンスターの大群が移動しているのを見たと言う。その話を受け、辺境を守っている騎士団200人が昨日討伐に向かった。ところが騎士団だけでは対応しきれない程数が多いらしい。周辺の騎士団も応援に向かっているが、一番近いコルドンの冒険者ギルドに救援要請が来たという事だ。
「多くの冒険者達が既にカローサスに向かっているそうです」
村の人口は100人未満。開拓した農地と周辺の森で採れる恵みで細々と生活している村だそうだ。
デモニオに攫われる前、俺が住んでいた村にそっくりだ。
「無理に助けに行く必要はありませんよ? モンスターもあまり強くないようですから訓練向きではありませんし。騎士団と冒険者で十分対応できるでしょう」
でも、助けを求める人がいるかも知れない。あの時、俺は何も出来なかった。今なら少しは役に立てるんじゃないだろうか。
俺は自分の村を救えなかった。カローサス村なら、ひょっとしたら救えるかも知れないのだ。
「俺、行きたいです」
そう言うと、無表情なラムルさんが少し微笑んだような気がした。
「そうですか。それならすぐに服を着てください」
忘れてたぜ。まだパンツ一丁だったわ。今考えたら、俺にパンツを履かせる前にポーションを飲ませれば、パンツも自分で履けたのでは? まさか俺を辱めるためにわざと飲ませなかったのか?
まあそんな事はどうでもいいか。すぐに服を着た俺は、ラムルさんと共に走竜を預けている厩舎へと向かった。
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