第10話 武具ってお高いんでしょう?

「うちの子の武器を探しに来たんだ。良さそうなものあるかな?」


 業物が並んだ店内と、厳ついドワーフさんに「おめぇみたいなガキに売る武器はねぇ!」って言われる所までがセット。そう思ってたのに、まるで前世のアパレルショップのような雰囲気の武器屋だ。たぶん、ピンク髪のお姉さんと、その喋り方のせいだろう。


「どんな武器がいいのぉ? ショートソードかな~? 新作のナイフもお勧めだよぉ?」


 今季イチオシみたいな喋り方やめれ。


「あの、や、槍がいいです」

「槍ぃ? 子供用あったかなぁ?」

「お、大人用でいいです」

「えぇ? でも~、長くて重いし~、使いにくいと思うよぉ?」

「それでもいいんです」

「そお? いちおう、槍はこっちだけどぉ」


 間延びした喋り方のお姉さんについていくと、木製のラックにたくさんの槍が突っ込んであった。その横には、一本ずつ壁面に展示されている槍もある。お買い得品と、それなりの品という事だろう。


 お買い得品は、俺が使っている例の槍と似たり寄ったりの品だ。長さや柄の太さ、穂の長さと形が微妙に違うが、それほど大差ないように見える。


「このラックに入ってるのは~、一本銀貨5枚だよぉ。練習用には丁度いいと思うよぉ」


 宿が二部屋で銀貨1枚と大銅貨2枚。たぶん、銀貨1枚が1万円くらいだと思う。この槍が5万円!? 高くない? 武器ってそんなにするの?


「ウォード、自分の命を預ける武器なんだから、妥協しちゃダメだよ?」


 一本ずつ展示されている槍から敢えて目を逸らしてたのに、ネロから釘を刺された。だって、そっちの槍は一番安いので銀貨25枚だよ?


「ほら、これなんか良いんじゃない?」

「どうぞ、お手に取ってご覧くださいね~」


 いや、完全にアパレル店員さんだな! ネロが良いって言った槍の値札をチラッと見る。銀貨73枚……前世ならそこそこの中古車が買えるんじゃないか?


 ネロからその槍を手渡され、まじまじと見てみる。確かにいい。いや、凄くいい。


 朱色の柄は、子供の俺の手にも太過ぎず吸い付くような手触り。長さと重さは今使ってる槍と同じくらいだ。穂は35センチくらいある。両刃の直刃すぐばは突くだけじゃなく斬る事も出来そうだ。光が反射すると虹色に光る。石突は同じ金属の球体で、打突の威力が上がりそうだ。


「そちらは~、魔鉱石から作られた穂なので~、魔力を乗せる事も出来ますよぉ」


 魔鉱石……俺が採掘させられてたヤツじゃねぇか! 加工するとこんな風になるんだな。魔力を乗せられるって事は、龍気も乗せられるのかな?


「ねぇ、ネロ……これ、龍気乗せられる?」

「うん。龍気だけじゃなくて、魔法属性も付与できると思うよ」


 さすが銀貨73枚。龍気付与、魔法属性付与が出来ると思えばお値打ちか?


「これ、ちょっと振ってみてもいいですか?」

「試技ですねぇ。こちらへどうぞ~」


 お姉さんに案内され、店の裏側に来た。四方を建物の壁に囲まれた空き地だ。藁束のようなものが木に乗せられている。これで試し斬りして良いらしい。


「ふぅぅぅぅ……」


 息を吐き出して龍気を練り上げ、穂に纏わりつかせた。


「はっ!」


 目の前の藁束を突くとあっさり貫通する。そのまま真後ろの藁束を横薙ぎに払った。何の抵抗も感じず、藁束が真っ二つになる。穂を確認するが、もちろん刃こぼれ一つない。


 くぅっ! いいな、これ!


「うん、動きの鋭さが一段増したね。その槍はウォードと相性が良いんだよ!」

「ほ、ほんと?」

「それに決めちゃいなよ! お金の事は気にしないで。ボクが買……立て替えるからさ!」

「うん……きっと返すから!」

「うんうん!」


 そうして、ネロが槍の代金を立て替えてくれた。ついでに、ククリナイフのような短刀も買った。新作のヤツである。先の方が幅広で真っ黒な刃が少し内側に湾曲している。柄も真っ黒な、凶悪なテロリストが持ってそうな大型ナイフだ。


「これはボクからのプレゼントだよ!」

「いいの? ありがとう!」


 槍が使えない場面で必ず役に立つだろう。このナイフも使いこなせるようにならなければ。


「お買い上げありがとうございました~!」


 間延びした挨拶を背に武器屋を出る。穂に被せる革の鞘も付いていた。俺は新しい槍を抱きしめるように両手で抱えて歩き出す。いやぁ、買い物ってテンション上がるね!


 ネロが俺に選んでくれた事も、この嬉しさの一因だろう。いや、それが大きな理由かもな。この新しい槍を使いこなして、絶対強くなってやるんだからね!


「ウォードさん、荷物になるから私が預かっておきましょう」

「あ、はい……」


 スキップでもしそうな勢いだったけど、ラムルさんに声を掛けられて少し冷静になった。俺みたいな子供がこんな高そうな槍を持ってたら碌な事にならないもんね。ラムルさんの次元収納にしまってもらった。


「次は防具屋です!」

「防具も大事だからね!」


 今度こそ、厳ついドワーフさんに会えるかな?


「いらっしゃいませ~! 防具をお探しですかぁ?」


 今度は黄緑色の髪をしたふんわり系のお姉さんだった。何なの? この世界の武器屋や防具屋はみんなこんな感じなの?


 お姉さんを良く見ると、さっきの武器屋のお姉さんとそっくりだ……喋り方も似てる。姉妹かな?


「こちらの子に防具を買いたいのですが」

「お子様用ですか~? うーん……」


 そうだ、俺まだ8歳だったわ。8歳児の平均か、少し小さいくらいだわ。


「12歳くらいからでしたらあるんですけどぉ、さすがにそれより小さいサイズは置いてないんですよね~」


 そりゃそうだ。冒険者登録出来るのは12歳からで、俺みたいな子供向けに防具を作っても商売にならない。買う人がほぼいないんだから。


 鎧はもちろん、胸当て、脛当て、籠手など体に装着する防具は、どれも大人用のサイズしかない。盾、大盾、腕に着けるバックラーも大人用である。


「ではオーダーメイドしましょう」

「ラムルさん、ちょっと待って!」

「ウォードさん、どうしましたか?」

「オーダーメイドなんてもったいないよ!? たぶん、体もすぐ大きくなるし」

「なるほど。では後々サイズを調整できるものにしては?」

「うん! ボクもそれがいいと思う!」

「え? そんなの作れるんですか?」


 俺は黄緑髪のお姉さんに尋ねる。


「作れますよ~。体が小さいうちは胸当てだけにした方がいいと思いますぅ。たくさん装備すると重くて動けなくなっちゃうので~」


 俺には防具の事は分からん。ネロに目で尋ねる。


「そうだね。胸当てだけでもあれば心配がだいぶ減るかな」


 そういうものなんですね。ラムルさんも隣でコクコクと頷いている。じゃあそれでいいや。


「オニキスビートルの甲殻を使えば~、体に合わせて継ぎ足しも出来ますし~、すごく軽くて頑丈ですよぉ?」


 なんか知らない単語出てきた。なんだよオニキスビートルって!


「でもお高いんでしょう?」

「それがいいですね。良い素材なら長持ちしますし、強度も十分です」

「で、でもお高い……」

「鍛冶師に頼めばサイズも調整できるしね! それで作ってもらおう!」

「お、おた、おた……」

「かしこまりました~! ではちょっと、サイズを測らせてくださいねぇ?」


 俺の言葉は完全に無視され話が進んで行く。お姉さんがポケットからメジャーを取り出し、俺はバンザイの恰好になってされるがままにサイズを測られた。


「今立て込んでいるので~、10日後のお渡しでよろしいですかぁ?」

「ネロ様、よろしいでしょうか?」

「うん、大丈夫」


 という事で、防具(胸当て)は10日後に取りに来る事になった。そして気になるお値段は!? 銀貨35枚也~! 


 槍と合わせて銀貨108枚、つまり金貨1枚と銀貨8枚の借金……


 日本円にして、たぶん108万円くらい。俺は8歳にして、なかなかの借金を抱える事になった。

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