41 果

 食事中はそんな感じで会話はあるが、盛り上がらない。

 もっともよほど賑やかで話好きの家でない限り、食事の度にそうそう家族で盛り上がらないだろう。

 自分から話す内容がないので、もっぱらわたしは聞き役だ。

 それは父も同じで、その点では似たもの父娘なのかもしれない。


「ご馳走様。お腹一杯になったわ」

 とわたしが言い、自分の食事終了を家族と従姉に告げる。

 食事のスピードは全員の中でわたしが一番遅い。

 だからわたしが食べ終われば、その時点で昼食終了だ。


「じゃあ、デザートにするかね」

 待ってましたとばかりに母が言う。

「それは構わないけど、わたしはもう食べられないわ」

「ご飯とお味噌汁と煮つけを少し食べただけじゃないの」

「まあ、そうだけど」

「せっかく透ちゃんが持ってきてくれたんだから、お食べなさい」

「じゃあ、一口だけ」


 母にそうまでいわれては、わたしも断れない。

 もっともドラゴンフルーツの味に興味がなかったわけではない。


「それなら切るから手伝って」


 母が機関銃のようにわたしに告げ、自分は布団のない炬燵からさっと立ち上がり、台所に向かう。


 わたしの家は曽祖父の時代に建てられたものだから大層旧い。

 種々の修繕は施されているが、畳の下はすぐ地面。

 だから夏は良いが(いや、多少マシなだけだが)、冬は寒い。

 冬の廊下はシンシンと冷える。

 夏にはエアコンの冷気が逃げて行く。

 そんな実家の風情がどことなく寺の本堂に似ている、とわたしが思う。


「どう切れば良い」

 重い腰を上げたわたしが台所に向かうと母が問い、

「とりあえず四つにしたら」

 何も考えずにわたしがアドバイスする。

 そういえば、ドラゴンフルーツはカットフルーツに入っていることがあったかと記憶を探る。

「あら何、これ、ごま塩だわ」

 赤い果皮を切り、中から現れた白い果肉に黒くて細かい種子がびっしり入っているのを見て母が戸惑いの言葉を発す。

「だから、そういう果物なのよ」

「お腹の中から木が生えないかしらね」

「何、落語みたいなことを言ってんのよ」


 とりあえず一人分、四分の一ピース二ヶをデザート皿に乗せ、それをわたしがお盆に乗せて茶の間に戻る。


「お待ちどうさま」

「ほお、こういう色をしているのか」


 母が戻る前に父が感想を述べる。

 ドラゴンフルーツの色の按配に本当に驚いているようだ。


 その父に、

「あなたが一番近いからスプーンを出してちょうだい」

 と母が言う。


 父がいつも座る台所側から一番遠い茶の間の先に珈琲及び紅茶用のカップ/スプーンを仕舞う棚があったからだ。


「おお、そうしよう」

 頭越しの母の頼みに悪びれることなく父が応じ、炬燵テーブルの上に置かれたドラゴンフルーツが乗った皿それぞれにスプーンを配膳する。

「紅茶も入れようか」

 続けて父が言い、

「お願いします」

 母が応じる。


 ……といっても紅茶はティーバッグだ。


「お湯はまだあるかしら。沸かしますか」

 ついで母が細かい心配をし、

「いや、まだ大丈夫だろう」

 と父が応じる。


 その間、そんなわたしの両親の挙動を見知っている透さんは静かに微笑んだままだ。


「じゃあ、透ちゃん、頂くわね」

 紅茶も入れ終わり、砂糖やミルクを各人好みに加えると母が告げる。

 ついでドラゴンフルーツ一欠けらを口に運び入れ、

「味がないわね」

 と首を傾げる。

「そうか、うっすらと甘いぞ」

 父がうっかり口を滑らすから、

「だから、それが味がないってことなんですよ」

 と母に食ってかかられる。


 それから母が不意に気づいたように透さんに向かい、

「これって、こういう味なの」

 と問いかける。

「さあ、わたしも初めてだから」

 透さんが応えると、

「ええっ、そうだったの。わたしはまたてっきり……」

 と母が驚く。

「ウチの母が珍しいモノ好きなのはご存知でしょう。だからそれまで知らなくて買って、ついでだから蓮見家にも持って行けって」

「だけど透ちゃん、その前にお家で食べたんじゃ」

「いいえ。用があって今日実家に寄って、帰りに持たされただけ」

「それじゃ、わざわざ本当に済まなかったわねえ」

「いえ、わたしも紗ちゃんの顔が見たかったし」

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