23 言
舌の動きも言葉ではないかと、わたしは思う。
ロゴスではないが、ボディーランゲージの一種。
もっともロゴスはキリスト教における神の言葉で、元々は、概念/意味/論理/説明/理由/理論/思想、などの意味だ。
一方のランゲージ(language)の語源は十二世紀頃の古仏語langageと言われ、意味は、会話/おしゃべり、といったところ。
遡ればラテン語linguaで原義は、舌/発話/言葉、となる。
ヨーロッパ的には言語と舌は近い概念のようだ。
……と伊勢くんとのキスの合間にそんなことを考えている自分がいる。
上下の歯を割り、わたしの舌が口腔内に侵入すれば、当然伊勢くんの舌と出会う。
お互いの舌が絡まり、縺れ、それぞれの唾液と味を交換する。
お互い初めての他人とのキスだから、二人の舌が出会うすべては、まるで知らない世界。
けれども、どこか懐かしい感じがするのは何故だろう。
未来の記憶が過去に戻り、わたしに宿った感じなのだ。
それともわたし自身に覚えがないが、夢の世界で過去に伊勢くんと交わった経験があるのだろうか。
わたしの舌が伊勢くんを味わう。
それ以上に伊勢くんの舌もわたしを味わう。
好き、好き、好き、と伊勢くんの舌がわたしに言う。
わたしの舌に語るのだ。
同時にわたしの舌も同じ気持ちを伊勢くんに強く伝えている。
そう考えると恥ずかしい。
恥ずかしいけれど、すごく嬉しい。
「苦しいわ」
と伊勢くんのキスに、わたしがそっと唇を外して囁いている。
その間も伊勢くんのわたしの秘所に対する愛撫は続き、辺りが熱を発し、潤んでいる。
「でもいいの……」
とわたしが口にしたのは自分でも理解不能な言葉だ。
ついで身体がビクンと震える。
わたし全体が伊勢くんの全体を欲しがっているらしい。
それがわたしの理性を経由せず、身体を動かす。
「蓮井さんそろそろ、行くよ」
伊勢くんもそれに気づいたらしい。
わたしの耳許で囁くとわたしを貫通する行為に移る。
けれども、それは性行為初心者のこと。
つい先ほど自分の目と舌それに指でわたしの秘所を確認したはずなのにペニスを上手く導けない。
「あれ、あれれ……」
思わずそう呟きながら、わたしのヴィーナスの丘上でウロウロする。
暫くそのままにさせておいたが、不意に伊勢くんの腰が小刻みに震えるのを感じたので、わたしは助け船を出すことに決める。
つまりわたしの薄い恥毛に触れ、行き来をするうち、伊勢くんのペニスが瞬間限界を感じてしまったようだからだ。
伊勢くんにとっては初めての性行為だから、たとえそこで漏らしても可笑しくない。
だが男は妙にプライドが高いから、恥ずかしく/やるせなく感じてしまうのだ。
できれば、それを避けてあげたい。
「ホラ、焦らない、焦らない」
だから、わたしがそう囁く。
ついで自由にした右手を伊勢くんの下半身に伸ばすとペニスを掴み、わたしの秘所まで連行する。
一旦その場所がわかれば、今までどうしてわからなかったのだろうと伊勢くんが不思議な表情を見せる。
それが余裕になり、伊勢くんのペニスが限界から遠ざかる。
けれども、それほど長くは持たないだろうとわたしにはわかる。
伊勢くんとの行為自体が愉しいから、わたしはそれを残念に思う。
けれども伊勢くん自身の気持ち良さがまたわたしの気持ち良さでもあるからと思い直す。
性行為初心者なのに、これほどわたしを感じさせてくれた伊勢くんだから、きっと最後には逝かせてくれると信じたのだ。
だが事態は、そう簡単でもないようだ。
「蓮見さん、キツイよ」
わたしの秘所入口付近にペニスを押し当てつつ、伊勢くんが情けない声で弱音を吐く。
そんな伊勢くんにかける言葉にわたしは悩んだが、結局、
「そのまま進んで……」
とありふれた内容を口にする。
かなり卑猥な言葉も瞬時脳裡を掠めたが、急に恥ずかしくなり口に出来ない。
それでありふれたことを言ったのだ。
「うん、わかった」
と素直に伊勢くんがわたしに応える。
ついでグググッと腰を落とす。
けれどもなかなか侵入しない。
まるで初めてのときのような自分の秘所の反応に、わたし自身も戸惑うばかり。
だが、やがてその抵抗も終わる。
ニュルリという感触で伊勢くんのペニスがわたしの秘所内部に飲み込まれる。
激しく膣壁と密着しながら、徐々にわたしの秘所を塞いでいく。
さらにグイと腰を落とし、伊勢くんがより深くわたしの中に侵入する。
やがて伊勢くんのペニスの根元がわたしの身体とぴったり重なる。
自分のペニス長の限界まで伊勢くんがわたしを貫いたのだ。
貫通成功。
でも、まだ終わりではないだろう。
「蓮見さんと一つになったよ」
まるで幼い子供のように伊勢くんが喜ぶ。
わたしは心の片隅で、ふん、ばかばかしい、と思いつつ、自分の心が熱く騒ぐのを止められない。
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