21 睦

 はしたなく、わたしがそんな言葉を口にする。

「とりあえず、これを何とかしないと。……伊勢くん、悪いんだけど六畳間の引き戸とバスルームのドアを開けてくれない」

「ああ、いいよ」

 と元気に返事をし、伊勢くんがベッドから立ち上がる。

 ついで引き戸を滑らせて六畳間を出、バスルームのドアを開ける。

 続いて六畳間を出たわたしが、伊勢くんが開けてくれたドアからバスルーム内に入る。

 ついでお椀型にした両掌の内容物をトイレに捨てる。

 それから手を洗い、半開きになったバスルームのドアの中から伊勢くんを手招きする。

「シャワーで洗ってあげる」

 そう言い、伊勢くんの猛り勃ったペニスを洗おうという意思表示を見せる。

「じゃあ、そうしてもらうよ」

 と少しだけ照れ臭そうに伊勢くんが応える。

 間仕切りのカーテンを開け、伊勢くんをユニットバスの中に押し込み、わたしの方に向かって立たせる。

「萎んだわ」

 わたしがシャワーから熱い湯を浴びせかけると伊勢くんの猛り勃ったペニスが一瞬萎む。

 けれども、わたしが手でペニスを弄ぶとまた延びる。

「面白いわね」

「たぶん淫乱な行為なんだろうけど、蓮見さんがすると違う感じ」

「そう。どう違うの」

「上手く言えないな」

「じゃあ、もう一度出しちゃおうか」

「いやだよ、次は蓮見さんの中で……」

「いいけど、コンドームはちゃんとつけてね」

「もちろんさ」

 そう応える伊勢くんのペニスをタオルで拭くと、さらに延びる。

 最初の勃起がまやかしだったようだ。

「伊勢くんの身体って嘘つきなのね」

 と、その反応を見てわたしは言うが、伊勢くんに意味が通じない。

「蓮見さん、それって……」

「まあいいわ。ベッドに戻りましょ」

 わたしも少しだけ濡れ始めたようだ。

「ところで伊勢くん、コンドームを持ってないよね」

「だって、この事態は想定外だから……」

「わたしに買い置きがあるからいいけどさ」


 ……といっても最後に買ったのが二年前だ。

 それ以来、わたしは男と寝ていない。

 もちろん女とも、その中間とも寝ていない


「伊勢くん、コンドームの一般的な使用期限が約五年って知ってた」

「えっ、そうなの」

「保管場所の見当はつく……」

「ゴム製品だから高温多湿や直射日光は苦手だろうね」

「正解です。わたしは冷蔵庫に入れているけど、車のダッシュボードとか、タンスやクローゼットの中に仕舞うのは厳禁なのよ」

「車の中は夏に暑いからだろうけど、タンスは……」

「考えてみて」

「うーん」

「タンスやクローゼットの中には何がある」

「あっ、そうか。防虫剤だ」

「正解です。揮発性物質が入り込むのよ。伊勢くん、頭がいいのね」

「そんなことないと思うよ」

「コンドームのことで面白いのは銅に弱いことかな。ゴム製品一般に相当することだけど、金属イオンがゴム高分子の酸化反応を促進する触媒作用を持つから……。わたしの記憶が確かなら、その傾向は、コバルト>(小なり)マンガン>銅>鉄>バナジウム≫(大きく小なり)ニッケル>チタン~(やや弱く)カルシウム~銀~亜鉛>アルミニウム、ね」

「ふうん」

「コバルトやマンガンは日常生活でそうそうお目にかからないけど、銅や鉄は多いでしょ。輪ゴムは普通天然ゴムで作られるけど、例えば真鍮メッキした止め金に輪ゴムを吊るすと一週間持たずに接触部がベタつくのよね」

「蓮見さんはそんなことにも詳しいんだね」


 バスルームのドアの向かい、六畳間のガラス引き戸すぐ横の冷蔵庫からコンドームを取り出しつつ、わたしと伊勢くんが会話する。


 相変わらず内容に色気はないが、それで雰囲気が損なわれることは最早ない。


 わたしのフェラチオ経由で伊勢くんが射精し、それでわたしと伊勢くんとの間に関係が確立したからだ。


 もっとも会話の間に伊勢くんのペニスはまたもや萎んでしまったが……。

 やれやれ……。


「では気を取り直して再開しますか」

 と二人して六畳間のベッドに戻り、わたしが言うと、

「蓮見さん、自らムードを毀してない」

 と伊勢くんが問う。

 それにわたしが応え、

「そんなことないわよ。伊勢くん、好きにして……」

 と仰向けで無防備な体勢を作りベッドの上に横たわる。

 ちなみに横たわるは英語でLieだが、嘘も英語でLieだ。

「そういわれても……」

 すると伊勢くんが困った表情を見せる。

「大丈夫よ。これまで想像したことはあるんでしょ」

「まあ」

「そのままを試してみれば……」

「わかった」


 そう言い終えるとすぐ伊勢くんの男の身体がわたしの身体に被さってくる。

 最初にどうするかと思えば手で恐る恐る胸を触る。

 ついで舌を使うことを思い出したようで、わたしの乳首を攻めにかかる。


「ああん」

 とわたしが声を発する。

 まだ感じてはいないが、自分の声やフリも性行為の媚薬になることをわたしが知っていたからだ。


 それに伊勢くんは筋が良い。

 高々二十人ほどの男の愛撫しか知らないわたしだが、最初のオジサンを除けば、その中では上手い方に思える。

 あとは女をどう扱えるかだ。

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