20 戯
「蓮見さんは……」
「伊勢くんが浴びたら次に浴びる。わたしはあなたの家でお風呂を頂いているから」
「わかった」
バスタオルを渡すと伊勢くんが勢い良くベッドから立ち上がり、ユニットバスに向かおうとする。
その直前一度ベッドに座り直し、わたしをぎゅっと抱きしめる。
それで、わたしの心がキュンとする。
伊勢くん、いいところがあるじゃない。
今夜これから、わたしの何処かを毀してね。
そう想い、しばらく待っても伊勢くんがシャワーから戻ってこない。
五分ほどしてやっと伊勢くんがシャワーを終え、六畳間に入る。
バスタオルの使い方を見ていると頭まで洗ったようだ。
伊勢くんの育ちが良いということなのか。
「蓮見さんの番だよ」
ついで屈託なく伊勢くんがわたしに声をかける。
それで、わたしの調子が何処となく狂う。
「その呼び方がいけないのかな。ねえ、伊勢くん、紗(すず)って呼んでみてくれない」
「蓮見さんの名前、紗っていうんだ。いい名前だね」
「ありがとう。でも知らなかったの。名簿に載ってるよ」
「そうだけどさ。紗さん、紗ちゃん、それとも、紗、って呼び捨てがいい」
「伊勢くんに任せる……ええと、文朗(ふみあき)くんに任せます」
「それだとママと同じだ」
「じゃあ、文朗さん」
「今度は新婚の夫婦だよ」
「確かに……。じゃ、しばらくは伊勢くんでいくかな」
「ぼくの方はオーケイだ、紗さん」
「こそばゆいな」
「じゃあ、紗」
「ウチの両親みたい」
「ならばやっぱり、蓮見さんに戻すよ」
「うん、その方がいいのかな。わたしたちの関係性からいっても」
「ぼくたちまだ関係してないよ」
「あら、そうだった。では、わたしはシャワーを使います」
ベッドから立ち上がりバスルームに向かう。
そのわたしの後姿を伊勢くんがじっと見つめている。
わたしには、それが感じ取れる。
嬉しいが、でもまだ濡れるところまで至らない。
果たして今夜、そこまでわたしが至れるのだろうか、と少し考え込む。
ついで、それもまあ、わたしと伊勢くんの関係性よね、と思い直す。
夫婦が子作りに励むわけではないのだ。
生物種では少ない生産性のない唯の快楽を味わうだけ。
さすがに、わたしの方は髪まで洗わない。
ただし気になるところは入念に洗う。
伊勢くんは使わなかったようだが、バラの香りがするシャンプーを用い……。
「お待たせ」
「蓮見さんってスタイルいいよね」
「ありがとう。でも伊勢くんだって同じよ」
「そうかな」
「そうよ。でも無駄話は後で……」
約束通り、わたしが伊勢くんのペニスを咥える。
最初はふにゃりだが、すぐに硬く屹立する。
「んんん……」
と伊勢くんが声にならない声を漏らす。
おそらく感じているのだろう。
ペニスの表面が脈動するかのようだ。
伊勢くんのペニスはまだ若いのと使い込んでいないせいで真っ白ではないが黒さがない。
それがわたしには爽やかに感じられる。
わたしが舌を使ってペニスの先端をレロレロする。
すると伊勢くんがまるで女の子のように身悶える。
その姿が可愛くて、わたしの口に力が入る。
甘噛すると伊勢くんが驚く。
本当にそんなことをするのかよ、といった表情で……。
「大丈夫よ、食い千切りはしないから」
「蓮見さん、ちょっと怖いよ」
伊勢くんのペニス近くから見上げたわたしの顔が嫣然として見えたのか、思わず伊勢くんがそう呟く。
「それとも食い千切っちゃおうかしら」
全世界の女性の中には男のペニスを食い千切り、レイプの難を逃れた兵(つわもの)もいる。
もっともわたしの歯と顎に、それが可能とも思えない。
せいぜい致命傷を与えるくらいだろう。
「嘘よ、嘘……」
と慌ててわたしが伊勢くんに言う。
伊勢くんのペニスが俄かに硬さを失いかけたからだ。
いつも思うが、男の生理はデリケート過ぎる。
特にペニスの反応はそうだ。
「んあああ……」
わたしがフェラチオを再開すると安心したのか、伊勢くんがまた女の子のような声を漏らす。
そうよ、たとえ食い千切るにしても、わたしが愉しんだ後じゃないと……。
そんな不埒なことを考えながら、わたしの口の動きに熱が入る。
ついで伊勢くんのペニスの根元を押さえた両手を片方外し、お尻にまわす。
そこで暫し指を停止させ、アヌスに突き込もうかどうかと思案する。
結論は、遠慮しよう、だ。
何も焦ることはない、とわたしは思う。
夜は長い。
今晩のうちにそれを試し、十分に愉しめるかも知れないのだ。
だから今はまだ……。
吃驚させてはかわいそうだ。
初めてにしては持つ方じゃないの、とわたしが少しばかり疲れてきた顎を感じたその直後、
「あああ、ダメ、ダメダメダメ。蓮見さん、あああああ……」
と伊勢くんが恥も外聞もなく結構大きな声で叫ぶ。
それで、わたしが伊勢くんのペニスに対する口撃を緩める。
けれどもそれは僅かな間で、次には、わたしが一気に吸い上げる。
「あああああ……」
悲鳴を上げて伊勢くんの全身が小刻みに震える。
ついで熱い液体がまるで固形物のようにわたしを襲う。
口をペニスから離そうか、それともそのままにしておこうかと逡巡するまもなく、わたしの口内が伊勢くんの精液で一杯になる。
伊勢くんには申し訳ないが、それを飲み込むのは、わたしには無理だ。
だから両手でお椀形を作り、その中に吐き出す。
もっとも両掌を使うほど大量というわけではなかったが……。
それでも口の中に残った伊勢くんの精液は少しだけ苦くて薄い塩味。
関係した男すべての精液を舐めたわけではないから統計的価値はないが、それぞれの出す精液の味が微妙に違いのが面白い。
伊勢くんの精液はサラリだが、もちろんドロリとした男もいたから、その粘度もまちまちだ。
その日の体調によっても変わるだろう。
けれども不思議なことに男一般は自分が他人と異なることが怖いらしい。
女にそういう部分はないと思うが、わたしには他人のことがわからない。
「ふうーっ。蓮見さん、すごいや。そのきれいな顔で吸われたと思うと……」
「ありがとう、感じてくれて。それに、ああ、もう同じ硬さ……」
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