クリス・ボーイ[C]
「あ、あのー」
朝日の差し込む店内に、昨日顔を出してくれた人が扉を開けて入ってきた。
「いらっしゃいませ。おはようございます」
俺に続いてユイカもいらっしゃいませと明るい声で言う。
「お、おはようございます。あの、昨日来た髪を切りたいって言ってた者なんですけど」
「はい、存じておりますよ。どうぞお入りください。こちらでお荷物と上着をお預かりしますね」
俺の言葉に反応して、髪がボサボサで茶髪の男が荷物と上着をユイカに渡す。ユイカはそれを笑顔で受け取り、フロントのすぐ後ろにある荷物置きに丁寧に置いた。
「寒かったでしょう」
とユイカが声をかけると、
「ぁ、あ、はい」
と、どもった返事をユイカの目を見ずに返す。
「それでは、こちらにおかけください」
「は、はい」
店内を見渡し、そわそわしながらお客さんは椅子に座った。椅子を回し、固定する。
「初めてのご来店ありがとうございます。こちらの方に、名前をご記入ください」
「わ、わかりました」
お客さんはユイカからペンと紙を受け取ると、素直に名前を書き始める。[クリスボーイ]
「か、書き終わりました」
その声に反応して、ユイカが紙とペンを受け取り、フロントにまで持って行った。
「さて、初めまして。今日担当させて頂きますひろと申します。よろしくお願いします」
「は、はい。よろしくお願いします」
「今日はどうされますか?」
ひろがそう言うと、クリスはキョロキョロしながら、
「あ、あの。カットしたいんですけど」
「はい」
「どんな感じが良いかなーって。わからなくて。似合う感じって言ってもいけますか?」
「はい、大丈夫ですよ。では、一つずつ見ていきますね」
「・・・あ、はい」
ひろはそう言ってから、クリスの髪をじっと見つめる。ボサボサの茶髪、サイドや後ろも伸びきっていて、全然髪を切っていない印象を受ける。
「ちなみに前回髪を切られたのはいつ頃ですか?」
「・・・えっとぉ」
「あ、大体で良いです大体で。3ヶ月くらい?」
「いや、多分・・・半年くらいは切ってないかなって感じです。すいません」
「いえ」
多分そんくらいやろなーと思っていたひろは、お客さんの髪を実際に触りながら提案していく。
「ばっさりカットしていいんやったら、横は刈り上げ、後ろも刈り上げ、前髪は眉毛くらいでやると一番お似合いかなっていう感じですね」
お客さんは目をぱちぱちさせる。
「セット、とは何でしょうか? すみません。髪の毛には疎い者ですから」
「いえ、何か整髪料のようなものをつけて髪型の形をくしで整えたりされたことはありますか?」
お客さんは首を少し横に振った。
「わかりました。でしたら、ツーブロックスタイルなんかはいかがでしょう」
「ツーブロック、スタイルですか?」
「はい、横と後ろをスッキリと刈り上げます。そして、前髪は眉毛くらい。髪の毛を乾かすだけで簡単に仕上がるスタイルですよ」
「え・・・でも。刈り上げって一番痛いやつですよね。あの引きちぎられるやつ。昔やったことがあって、馬鹿みたいに痛かったのでそれ以来したくなくて」
お客さんは不安そうな表情をする。
「こういった道具を見たことありますか?」
ひろは左手に、刈り上げるときに使うバリカンを持ってお客さんに見せる。
「・・・いえ、見たことないです。でも、前のやつと似てるような」
ひろはバリカンのスイッチを入れる。バリカンが規則正しく鼓動する。
「え! なんかすごい」
「この髪の毛を刈るやつは、自動で動いてくれます。これを髪の毛に通してあげるだけで、痛みを感じることなく、きれいに刈ることが出来ますよ」
目を輝かせるお客さん。
「髪の毛を切る魔法の道具があるんですね。初めて見ました」
「凄いでしょ♪」
ひろは少し得意げだ。では、それでいきましょうかとひろが言うと、お客さんは大きくうなずいた。
「よろしくおねがいします。髪を切るのが初めてなのは初めてです」
「期待に応えられるように頑張ります」
お互いがにっこりと笑った。
☆☆☆☆☆
「では、シャンプーさせて頂きますね」
ひろは席から少し離れた場所にあるシャンプー台に、お客さんを誘導する。お客さんは店内を見渡しながら、ゆっくりと座る。
「なんか、木の感じで落ち着きますね」
「でしょう。割とこだわりましたからねぇ」
ひろはささっと黄色いタオルを首につけ、シャンプークロスを掛ける。
「では、倒しますね」
シャンプー台の下にあるスイッチを足で押すと、シャンプー台が一定の速度で倒れていく。倒れると、お客さんの顔に小さな布をかけ、シャワーの水を出す。そしてお湯になってから、お客さんのおでこ部分にシャワーのお湯を当てていく。
「お湯、熱くないですか?」
「あ、大丈夫です」
「はい、ありがとうございます」
おでこの縁に合わせるようにシャワーを動かし、右耳の上、下、左耳の上、下、襟足の順番に洗っていく。割とゴシゴシ。
シャワーをくぽくぽさせて、左手で頭を持ち上げる。シャワーをスライドさせて、後頭部を洗い、下ろす。シャワーを止める。
シャンプー剤を手にワンプッシュ取り、頭で泡立てていく。泡を全体につけていったら、右のこめかみからジグザグに洗い始める。強くしたり、弱くしたり、緩急をつけながら洗っていく。端から端まできっちり掻き残したところがないようにゴシゴシしていく。
シャワーを出す。まずは手についている泡を洗い流し、頭を生え際から洗っていく。
順に洗い流し、洗い終えたらタオルを生え際にビチッと当て、耳を拭き取り、全体をする。ポタポタと水滴が落ちない程度に拭き取ったら、シャンプー台を起こす。
ウィーーーーンとシャンプー台が起きる音が静かな店内を色づけする。
「お疲れ様でした」
「・・・・・・」
お客さんは目をつむっているので、拭き残しがないようにチェックしながら頭をゴシゴシする。お客さんの首が傾き、力が抜けている。
シャンプークロスを外す。ベリッとマジックテープの音がしたと同時に、お客さんは目をゆっくりと開く。
「お席ご案内しますねーどうぞー」
「・・・はいー」
ふわっとした声で、お客さんは返事をする。
☆☆☆☆☆
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でしたー♪」
ひろの声に続いて、ユイカがそれに習う。お客さんを席に座らせ、ユイカが白いクロスと首に髪の毛が入らないようにするネックシャッターを取り付ける。
「苦しくないですか?♪」
「あ、はい。大丈夫です~」
「はいー♪」
ユイカはさっとお客さんの後ろからはけ、ひろが髪をとめるクリップを手に持つ。
「先に刈り上げからやっていきますねー」
「あ、はいー」
ひろは鏡越しにお客さんの長い髪を見て、ツーブロックのラインを取る部分に指を当てる。ソコを起点に、前上がりになるように刈り上げる部分を分け取る。
「あのー」
「はい?」
「シャンプーってあんなに気持ちいいものなんでしょうか?」
「・・・と言いますと?」
「いや、シャンプーってされた後、結構血が出ていたりしていたものですから、それが普通と思っていました」
刈り上げのラインを分けとると、バリカンを6ミリでセットする。
「一応、爪を立てないようにとか緩急をつけてマッサージ効果を狙ったりはしてますけど、もしかしたら人によってやり方とかは違うかもです」
「あーそうなんですね。いや、なんかシャンプー嬉しかったです」
「ありがとうございます」
サイドからゆっくりバリカンを入れていく。
「痛かったらすぐに言ってくださいね」
「あ、はい」
うぃーーーーんとバリカンが小刻みに髪の毛を刈り取る音だけがこの空間を埋める。長い髪はボトッと塊になって床に落ちる。
「痛くないです」
「それは、良かったです」
順調に刈り上げていき、右サイド、後ろも必要な部分まで刈り取った。
「ユイカさん、バリカン」
「はい♪」
ユイカにバリカンを渡し、元の位置に戻してもらう。ひろはハサミとクシに持ち変える。今のお客さんの頭は、横と後ろが短くなり、他全部がだらりと長い。
「次は、ハサミで切っていきますね」
「あ、はい」
後ろの刈り上げた部分に合わせるように、まずはざっくりと髪を切り落とす。そして刈り上げになじむように、ハサミで切りそろえていく。
「ちなみに、このお店はどうやって知ってくださったんでしょうか?」
ひろがそう質問すると、お客さんは少し目をつむる。
「はい。いつもこの通りを通っているので、なんかパンでも買って帰ろうかなーと思って見ていたら何か出来ているなーと思いましたので見ました。あ、美容室か。嫌だけど髪切るかって感じで」
「なるほど。あんまり美容室は好きではない?」
「まあ、髪を切るのは痛いことだと思っていたので、なんでしょう。僕の嫌いな遊園地のジェットコースターに無理矢理乗せられるみたいな。ソンナ感じです」
しゅきしゅきとハサミが開閉し、徐々に刈り上げと上の髪の毛がなじんでくる。
「まあ、僕も昔髪の毛切る練習してたときは痛いって言われてたので、わかります」
「お、そうなんですか。もしかしたら、前行ってた所は下手くそだったのか」
後ろがある程度刈り終わったので、横の髪の毛を耳にかからないくらいにパツッとカットしていく。
「濡れてるときに耳上までカットしたら乾かすと少し上に上がるので、ちょっと長めに残してます」
「あ、はい。へぇ」
「なんか髪の毛って乾いているときよりも濡れてるときの方が少し長いんですよね。何故かはわかんないですけど」
左の部分を切り、キャスター付きの椅子を転がして右に行き、左と同じ長さにカットする。
「よし、前髪切ります。ゴールは眉毛と目の間なんですけど、これも少しだけ長くカットします」
ひろがハサミを前髪にさしかけると、お客さんはその動きに調和するように目を閉じる。ひろは髪にテンションをかけ過ぎないように人差し指と中指で挟み、目の辺りでカットしていく。そして切り終わり、つむじくらいの髪の毛を切り、周りの切った部分とつないでいく。
「僕はこんな感じで美容師やってるんですけど、クリスさんはどんなお仕事されているんですか?」
ひろがにこやかな表情でそう聞くと、お客さんもそれにつられてにこやかになる。
「料理屋のウエイターをやっています。僕は基本的に注文を取ったり運んだりの接客が基本なんですけど、いつかは厨房に立てたらなと思っています」
「ほお」
「実は料理が好きで、よく嫁と娘に料理を振る舞っています。二人とも正直で。僕が賢明に作ったおかずをまずいと一刀両断します。僕の味覚では大丈夫なのですが、何故か合わないみたいです。あ、でも、美味しいって言ってくれるときもあるんですよ! 既製品を使った料理ですけど」
「なるほど。結婚されてるんですね」
長い髪が切り離されていき、ぽとっと落ちる。ドンドン頭が軽くなっていく。
「はい。嫁と子供で三人暮らしなんですけども、やっぱり子供が大きくなってくるとお金がかかるんですね。だから節約もしないとなーと思ってるんですけど、どっから手をつけて良いことやら」
「よし、では1回乾かしますね」
「あ、はい~」
ひろはワゴンにハサミを置き、椅子の下にあるコンセントにドライヤーの線を差す。左手に持ち、スイッチをカチッと上まであげる。ぶおーんと勢いよく暖かい風が出る。
「え、それって何ですか?」
「あ、これですか? ドライヤーって言うんですけど、温かい風が出て頭をこれで乾かすんです。こう、ごしごしーって感じで」
右手で後頭部から頭皮をしっかり掻くように乾かしていく。
「それは魔法ですか? 火の魔法と風の魔法を組み合わして使う美容師なんて見たことないですよ」
「あら、そうなんですか? これは魔法じゃなくて、さっきのバリカンと一緒で機械なんです。なんか僕もよくわからないんですけど、温かい風が出るんですよ~」
「・・・へぇ~」
お客さんは徐々に目を閉じていく。ひろはそれを察し、無言で頭を乾かす。
☆☆☆☆☆
ひろはドライヤーを終えると、コンセントを抜いて横にかける場所にしまう。そしてスキバサミを右手に持つ。
「クリスさん。クリスさん的に、髪の量が多いなーとかは感じますか?」
「? 髪の量が多い、んですかね? 美容師さん的にはどう感じますか?」
「僕が触った感じ結構多くて固いので、減らした方が良いかなーと思うんですけど、普段何か帽子を被ったりするタイミングはありますか?」
お客さんはうーんと考える。
「そうですね。通勤でほうきを使うんですけど、その時にヘルメット被るくらいですかね?」
「!? ほうきって、もしかして空飛ぶ感じの?」
「? ええ、はい。そうです。まあ通勤用なんで、50キロ制限ありのタイプなんですけども」
「ぁ、空飛ぶホウキかぁ」
ひろの顔はにったにた、になる。
「そうですねぇ。そのヘルメット髪の量が多くて被りにくいとかは感じませんか?」
「それは、もしかしたら感じてるんですかね。なんせ髪の量を減らすなんてやったことありませんから。・・・1回やってみましょうかね」
「わかりました」
ひろはクリップで下から作業する範囲を分けとる。一束を親指と人差し指で持ち、根元からスキバサミを入れる。
「ぉ、結構こっちの世界の人と髪質似てるなぁちょっと固いけど」
「?」
作業が終わると次の束に向かい、適切な量にすく。それを全体に施していく。
「通勤場所まではホウキで何分くらいですか?」
「あ、はい。30分くらいですかね。空が混んでいるともう少し時間がかかるときもあるんですけど、まあ基本的には」
「そうなんですね」
「美容師さんはちなみに、何で通勤されているんですか?」
「あ、僕はバイクですね。ちっちゃいですけど」
「? バイク? とはどんな乗り物でしょう?」
ひろは心の中で異世界の人間との矛盾に興奮する。
「車輪のついた乗り物です」
「へえ、そんなのがあるんですね。知りませんでした」
あまり前髪部分を梳きすぎるとピンピンなるので、適度に調整する。そしてひろは普通のハサミに持ち替え、ぶつ切りにした髪の毛をギザギザにする作業に入る。
「僕最近まで結構引きこもってたのでこの世界の事をよく知らないんですけど、ほうき以外に乗り物ってあるんですか?」
ひろがそう聞くと、お客さんは少し得意げに話し始める。
「のりものですか? 基本的にほうきと浮遊車の二つですね。浮遊車は維持費が高いので、僕は乗ったことはないです。でも、子供が大きくなったら移動が楽になるので欲しいなとは思ってます」
「結構、あれですね。いいお父さんですね」
「!? え、そうですかね、へへ」
お客さんは照れ笑い。
ひろは鏡を見て、フォルムが最終的に求める物になっているかの確認に入る。その作業に入った途端、お客さんも口を紡ぎ、店内は静かになる。
「っし~」←よし
ひろの柔らかい手つきにやられ、お客さんは再び目をつむりそうになる。
ドライヤーの線を差し込み、風で細かい髪の毛を吹き飛ばす。耳の裏によくつく細かい髪の毛もきっちり取り、ドライヤーをしまう。
「今日はセットされますか?」
「? セット?」
「えっと、髪の毛にワックスっていうちょっと固めるやつをつけて、髪の形を整えることです。もしかして、今日ってホウキで来られました?」
「ええ、まあ。でも、ここまで丁寧にやって頂きましたから、最後までお任せします」
「! わかりました」
ユイカが気を利かしてワゴン台の上に置いてくれたワックスの蓋を開け、手に少量取る。それを手のひら全体にのばし、お客さんの頭をなで回すようにつけていく。
「・・・・・・」
全体についたら右の7,3でわけ、トップが一番高くなって横は張っていない形に手で作っていく。
「おお~」
お客さんは広野セットする姿を見て、感嘆の声を上げる。
ひろは最後の微調整をお客さんの目と同じ位置に腰を下ろして合わせていく。毛先の束がバランスの良くないところを見極め、裂いていく。最後にスプレーをかけ、再びバランスを見る。
「さあ、完成しましたよ」
☆☆☆☆☆
ひろが後ろを見せるための合わせ鏡を持ち、お客さんの後ろに持って行く。すると、お客さんは驚いた表情をする。
「え、これ、僕ですか?」
「はい、そうですよ」
「え、ほんとに?」
「はい、本当にです。ね、ユイカさん」
「はい♪ 凄くかっこいいですよ♪」
お客さんは頭の後ろに手を置き、ニヤニヤしていく。ツーブロックの7,3分けスタイル。男らしいその姿に何度も頭を眺めている。
「ほんっとに嬉しいです! こんなに美容室でよくしてもらったのは初めてです! ありがとうございました!」
少々前のめりで満面の笑みなお客さんに、若干動揺しつつ。
「こちらこそ、切らせて頂いてありがとうございました」
そういったその瞬間、お客さんの体が一瞬光ったように見えた。見間違いかと思ってもう一度見ると、何もなかった。
「お疲れ様でしたー」
「お疲れ様でしたー♪ フロントまでどうぞ♪」
ユイカの言葉に従うようにお客さんはフロントにるんるんで向かい、預けていた荷物や服をユイカから受け取る。
「さあ今日は、カットのみで4400円ですねー」
「? 4400円? とはどこのお金でしょうか? メルしか持っていないんですけど」
「4400メルで大丈夫ですよ♪ ひろさん。1円=1メルです。後で変換します」
「おk」
お客さんは素直にお金をフロントのお金を置くお皿に置いてくれる。形はアニメやマンガで見たことのある、金貨みたいに丸い物。500円玉を少し大きくしたような感じ。
「はい、5000メルお預かりいたしますので、600メルのおつりですね」
ユイカがレジにお金を入れると、おつりが勢いよく天井に届くかと思うくらいの勢いで飛び出した。それを難なく両手で器のようにしてユイカが手に受け取る。
「こちら、おつりですね♪」
「はい、ありがとうございます。また来ます! いろんな人にお勧めしますね!」
「はい、またお越しください。ありがとうございましたー」
「ありがとうございました♪」
ユイカがドアを開け、お客さんが出て行く。お見送りのために少しドアの先を覗くと、お客さんはホウキを右手に持っていた。
「あれ? 今日ホウキで来られたんですね。せっかく髪の毛セットしたけど、ヘルメット被らないと」
ひろがそう言うと、お客さんはこちらに向き直ってにっこりした。
「いや、空飛ぶタクシーを拾って帰ります。せっかくやって頂きましたし、嫁や子供にもかっこよくなった姿を見てもらいたいですからね。はは」
「! そうですか。わかりました。お気をつけて」
「またお待ちしてますね♪」
「はいー!」
そうしてひろは店内に入り、ユイカが優しくドアを閉めた。
☆☆☆☆☆
「・・・いやー記念すべき一人目でした、ユイカさん」
「そうですね、ひろさん。で、どうでしたか? 異世界人の髪の毛は」
ひろがフロントに一つ用意している丸椅子に座り、ユイカが首を少しかしげてキレイな黒髪ボブをなびかせながら対面に立つ。
「まあ、まだ一人しかやってないからわからないけど、結構こっちの人となんら変わらないなって言うのが第一印象やったな、はっきり言って」
「・・・そうですか」
「ん? なんすかユイカさんそのタメは。もしかして疲れてる?」
ユイカは少し天井を見上げ、うーんと考える。
「それもありますけど、結構異世界の人って種族がバラバラだったりするんですよ。そうするともしかしたら髪の毛もそれなりに違うのかなーとかおもったりして」
「! それ、本当なのユイカ!」
ひろはユイカの肩を強く掴んだ。
「え、やだ。ひろさんこんなところでだめですよ」
「違う! 違わないけど」
「え、違わないんですか」
「違う!」
「もう、どっちなんですか?」
少しむすっとするユイカから少し離れ、ひろは思考する。今日来てくれた人がたまたまこちらの人と同じような人種だったとする。でも、ユイカの話では他の種族も沢山居る。もしかしたら面白い髪質の人? もいるかもしれない。
「っふ。美容師としての血が騒ぐなぁほほほおほほ」
「え、ひろさんそんな笑い方するんですか?」
ユイカが若干引いているが、関係ない。これからどんな人が来店するんだろう。それを考えただけでわくわくする。
ひろは席を片付けた後、ユイカに心配されながらもずっとにやにやが止まらない一日を過ごした。
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