第45話

 シロと一心が闘う中、ドローン班からシロの弱点を聞いた太一は、再び戦線に復帰する。

 二対一の状況は有利なはずであるが、本気を出したシロから一方的に攻撃され、二人は所々装甲を削られ追い詰められていた。シロの余りの強さに思わずチッと舌打ちをする太一。

 一心の情報は確か。それは間違いない。しかし、隙のないシロの弱点をどう突くか。そこが問題であった。

「君達ごときの色には俺は染められない。それ程俺の白は強いから」

 そう言うとシロは青色のインクで自身を塗って、コピーを作る。今度は本体が一心にバレても太一に簡単に伝わらないように、六体のシロが複雑に入れ替わりながら太一に接近した。

『鬱陶しいんだよ‼︎』

 本体が分からない太一は、全てを薙ぎ払うために鎖を振るった――が、六体全てのシロが鎖に両断され、ドパッと青色のインクと変わった。つまり、六体のシロは全て偽物だということだ。

『全部……偽物だと⁉︎』

「目の前だ! 馬鹿者‼︎」

 ドガッ‼︎

『がっ……は⁉︎』

 全て偽物だったことに驚く太一は、腹部に強烈な衝撃を受けて吹き飛ばされ、ショッピングモールの壁を突き抜ける。その場から現れたのは緑色のインクを落としたシロであった。

 彼は青色のインクで六体のコピーを作り出し後、即座に緑色のインクを塗って自身を透明化していたのだ。緑色のインクを使用していたため、赤色のインクを併用できなかったのは不幸中の幸いではあるが、太一の負ったダメージは決して軽微ではなく、すぐに戦線に復帰出来るものではなかった。そして、殺意の矛先を一心へと向ける。

「鬱陶しくて弱い方から片付けようかな」

「黙れ! 社会のゴミが!」

 再び一対一となり、シロの猛攻を受けて、一心の装甲は見る見るうちに削られていき、次第に生身の部分が露わになっていく。自身の弱さを呪いながらも、彼は諦めていなかった。

(陽子……!)

 亡き妻、陽子の顔がよぎりながらも懸命に闘う。

「ふんぬらぁぁ‼︎」

 獣の雄叫びのような声をあげながら、遂に反撃の右の拳を繰り出した一心。

「捕まえた」

 しかし、その拳はパシッと赤いインクで染まった手の平に簡単に止められてしまった。シロは一心の義手である超硬合金製の右手を赤く塗り、そのまま止めた手で握り潰して破壊する――と、

 チャキッ!

 そこからは超硬合金製の仕込み刀が現れた。予想だにしない武装に思わずシロは驚き、挙動が止まる。

「死ね」

 虚をついた一瞬を狙い、仕込み刀で突く一心――であったが、ギリギリの所でシロの左手に仕込み刀を掴まれ、阻まれる。【咎】を使用する余裕は無かったのか、その手からは血が滴り、床にポタポタとこぼれ落ちた。

「惜しかったね。死ぬのは君だ」

 血とは別の赤、赤色のインクを左手を伝って仕込み刀を塗り、炭屑程度の脆さへと変えて、ボロボロと崩れさせていく。そして、赤色のインクに染まった右手が一心の胸に向けて放たれた。

 万事休す――。

「我ごと殺れ」

 そんな瞬間――。

 ジャララララ!

『おらああぁぁ‼︎』

 ズドォォン‼︎

「かっ……」

 太一が全力で振るった鎖がシロを襲った。漆黒の鎖はシロの背中を捉え、体を逆くの字に曲げさせる。その攻撃は一心をも巻き込み、二人を叩き飛ばした。

 二人はそのままショッピングモールから飛び出して、外のアスファルトを勢いよく転がり、近くの住宅へと突っ込んで、大量の砂埃を巻き上げて崩壊させる。

「ぐ……ぅ……」

 次第に砂埃は晴れていき、徐々に横たわったシロの姿が現れた。

 太一の不意の一撃によって、おそらく脊髄が損傷したのだろう。シロはヒュー、ヒューと荒い呼吸をし、起き上がれずにいる。そんな中、太一の一撃に巻き込まれてボロボロとなった一心が、シロの息の根を止めるために近付いていた。

「貴様の赤色のインクの弱点は、貴様の認識できない攻撃には通用しないということだ。誰もが気配なく背後から攻撃されたら防御できぬようにな。でなければ、貴様は我の蹴りも喰らわなかったであろうし、自分の攻撃の余波で頬にかすり傷を負うはずがないのでな」

 一心の仕込み刀を防いだ故に出来た安心感。それがシロの油断と繋がり、太一の存在を一瞬忘れさせたのだ。それ故に喰らった一撃。最強の【咎】を持つアウトローが敗れた瞬間であった。

「ゴホッ……コホッ……」

 未だ起き上がれず咳き込むシロに、左の拳を構える一心。左腕には装甲が残っており、その威力はシロの頭を叩き潰すのには十分だろう。

「貴様を討罰出来るのなら、総理大臣の座や犯罪者討罰法が無くなることも、一片の悔いなし‼︎ 死ねぃ‼︎」

 死した陽子を想い、放たれた正義の鉄拳。その鉄拳は、

 バシィ‼︎

「⁉︎」

 太一によって止められる。

『シロだけは、殺せ』

 ひなたが最期に太一に託した想い――太一はそれを守らずシロを庇った。

『……悪ぃな、ひなた。遺言を守らなくてよ』

 太一がシロの討罰を止めるとは思っていなかった一心は、困惑しつつも憤慨する。

「貴様……退け‼︎」

『俺の目的はシロを殺すことじゃねぇ』

「なら、何故この戦場に来た⁉︎ 白の犯罪者を生かして何の意味がある⁉︎ 犯罪者という悪など全て討罰すべきなのだ‼︎ 勿論貴様も含めてな‼︎ 何故それが分からんのだ‼︎」

 太一に受け止められた拳を押す一心。

『……分かってないのは、あんただ。クソ親父……』

 しかし、太一も負けじと手の平でグググ……と拳を押し返した。

「太一!」

 そんな中――彩葉とリンファ達がショッピングモールへと辿り着く。状況を掴めていない彩葉は、太一に向けて心配の声を上げる。

『シロは確かに間違ったことをした。それにこのアウトロー街には、罪を償わないといけない犯罪者は山ほどいる。だけど、その償いが生か死かなんて簡単に白黒分けられるもんじゃねぇ……』

 太一の視線にいるのは、シロではなかった。

 母親から育児放棄され、やむを得ない万引きで犯罪者認定され、人間に命を狙われ、アウトローとなって罪の軽い犯罪者が集う三番地を守り続けた【三番地の女盗】――彩葉がそこにはいたのだ。

『それを認めないためにここに来たんだ、俺は‼︎ シロを殺したきゃ、俺と勝負しろ‼︎ クソ親父‼︎』

「退かぬならば、貴様も討罰して白の犯罪者もこの手で討罰するだけだ‼︎」

 自身と彼女のために、父親に闘いを挑む太一。一心はそれに受けて立った。

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