第42話
シロと一心の決着が付く前に、轟音が響くショッピングモールへと太一は急ぐ。鎖を伸ばして建物に突き刺し、引く力を利用して宙を舞っていく。
『間に合え!』
太一にとっては懇願。シロと一心の決着が付けば社会は白黒ハッキリ分かれることを認めてしまう気がするからだ。それは闘うと決めた彼にとってありえないことであった。故に常人を、アウトローを超える速度で現地へと向かった。
ドローンが飛び交う巨大なショッピングモールに辿り着くと、そこはもはや廃墟と言えるような場所となっており、辺り一面瓦礫の山で、今なお鳴り続ける衝撃音は激戦の様相を呈している。太一は破壊されて屋根が吹き抜けている屋上から、一階で争う二人を発見した。
ドゴォン! ドゴォン!
しかし二人は拳を振るい合ってはおらず、シロが一方的に攻撃を繰り広げている。それはシロの【咎】、【
『親父!』
屋上から飛び降りた太一は、闘う二人の間に割って入るかのように、着地する。思わぬ介入に二人は驚き、足を止めた。
「貴様……!」
「やぁ、太一君。生きてたんだ?」
『生きてたら悪いかよ?』
太一は二人の状態を確認する。一心は装甲を所々破壊されており、シロは万全で余裕がある状態。やはり対人戦の近距離戦においてシロは人類最強なのだろう。
「で、俺に加勢に来てくれたのかな?」
「!」
シロにとっても、一心にとっても、太一は敵。しかし、シロと同じアウトローという意味では二人は仲間であり、そのことに気付いた一心は太一も警戒する。三者は三つ巴の状況となった。が、
『悪ぃな、期待には応えられなさそうだ』
ゴゥッ‼︎
太一は自身に巻き付く鎖をシロに向けて振るう。シロは赤いインクで染まった手で、高速で振るわれた黒い鎖を掴み取り、握り潰して灰へと変えた。
「やっぱり汚い色だ。どいつもこいつもこんなだから、この社会は汚らわしい」
一心に加勢することにした太一に、シロは真紅の瞳で睨んだ。
リンファが立つ後ろからは凛と蘭が現れ、数的不利となった糸田は少なからず動揺している。彼が戦闘以外の選択肢はあるのかを思案していると、リンファは
「死ネ」
強引に体を反った糸田の目の前を血塊の中国刀が通る。そのままバク転して距離を離した糸田は、ズレかけた丸眼鏡を直した。
「赤い花」「咲かす」
その隙に、凛と蘭が距離を詰めており、超硬合金製の金槌を振り回してきたため、躱すために更に後退する。
「……っ……! 少しお待ちして頂けないでしょうか」
糸田の手を掲げた制止に、リンファと凛と蘭は思わず動きを止めた。そのことに彼は内心ほくそ笑む。相手は聞く耳を持っており、交渉に成功すればこの戦闘は回避出来ると考えたからだ。
「何ネ?」
「貴女方との戦闘は好ましくありません。今すぐにとはいきませんが、明日にでも貴女が望む金額をキャッシュでお支払いしましょう。それでここは退いて頂けないでしょうか?」
シロが勝ち残って明日になってしまえば、日本はシロが統治するに等しくなるため、リンファ達の約束を簡単に叶えられるか、違えることが出来る。糸田は今この時、面倒な相手との戦闘を回避できればそれでいいのだ。
「オマエ、舐めてるカ?」
しかし、その考えをリンファは見抜いており、
「面倒なのワタシ嫌いヨ。わざわざ明日まで待つないネ」
「殺して」「全部奪う」
二つ目の目的である報復も兼ねて糸田に襲い掛かり、凛と蘭もその後に続く。
「まったく……女性の相手ばかりとは、困りますね」
悪態をつきながら戦闘態勢に入った糸田は、三人を切り裂く為に、指先から糸を伸ばした。糸を掻い潜りながら正面からはリンファ、左右からは凛と蘭が接近している。
「凛はN」「蘭はS」
【
凛と蘭の【咎】の磁力で引き寄せられた超高速の金槌での攻撃を、糸田は事前に張られていた白い糸を利用することで何とか躱す。糸田が今警戒しているのはリンファではなく、凛と蘭の双子。彼女達の一撃を喰らえば無事では済まないことを、その身で味わっているからだ。故に――。
「やはり、貴女からでしょう」
【
「蘭離れて」「凛こそ」
糸が絡まり拘束される双子を見て、糸田の思考を読んだリンファは迎え撃った。
「凛と蘭よリ、ワタシの方が低く見られたカ」
与し易しと捉えられたリンファは血塊の中国刀で、手早く仕留めたい糸田は生成した糸で、互いに打ち合いを始めた。互角の打ち合いのようには見えたが、徐々に傷つけられているのはリンファ。十本の糸対一本の中国刀、加えてここは糸田の庭である。凛と蘭が糸を解いて戦線に復帰し、数的有利を作るまでは、リンファが圧倒的不利と言える。
「威勢良く出てきましたが、以前と変わりはありませんね」
「言ってくれるネ。ここからヨ!」
リンファの闘争心は高いものの――。
「ここからではなく、ここまでです」
遂に十本の糸を捌ききれず、左腕がスパンッと切断されて宙を舞った。
それでも気が強いリンファは悲鳴の一つも上げなかったが、あまりの痛みにその場で蹲る。左腕と共に落ちた中国刀は血液となり、血だまりへと変わった。
白い糸を飛び交っていた糸田はふっと笑いながら地面へと着地し、刎ね飛ばしたリンファの左腕を虫を踏み潰すかのように踏みつける。
「リンファ」「ピンチ」
凛と蘭は未だに糸で拘束されており、窮地のリンファを助けられずにいた。そんな状況下の中、糸田はすかさず指先から出る十本の糸を自由自在に操る。
「さようなら」
そう言い放ち、跪いて
「そうだナ、じゃあネ」
【
ズブッ。
糸田が踏みつけているリンファの左腕から流れる血液が、固形化された槍に変わり、彼の心臓を貫いていた。
「かっ……は……?」
心臓を貫かれた糸田は信じられないような顔をして、自身の胸から生えた血の槍を見る。一方のリンファはさっきまで
「ククク……馬鹿ネ、オマエ」
この状況はリンファの予定通り。凛と蘭が捕えられて一対一になった時点で、何かを犠牲にしなければ糸田には敵わないと判断した彼女はあえて左腕を犠牲にし、刎ね飛ばされた左腕から流れる血液を利用して、油断する糸田の死角から一撃必殺の攻撃を繰り出したのだ。
「そん……な……」
うつ伏せに倒れる糸田。一瞬で立場が逆転する。
悠々と歩いて距離を詰めたリンファは、事前に戦闘前から切っていた右手首から中国刀を作り出して、振りかぶり――。
「シロ様……我が神よ……
「残念だたナ。この世に神ないネ。信じれるのは金と己だけヨ」
ズパンッ‼
糸田の首を刎ねた。
ようやく絡まる糸から脱出できた凛と蘭の足元へと彼の首はゴロゴロと転がり、リンファに駆け寄る二人に無造作に蹴られる。
「リンファ」「大丈夫?」
安心と貧血からゴロリと寝転んだリンファに、双子は心配そうに眉をハの字に曲げた。
「駄目ネ。血が足りないヨ」
失った左腕と血を取り戻す術はないため、リンファは仰向けに倒れたままであったが、糸田は仕留めた。正に肉を切らせて骨を断ったのである。
「あいつ」「どうしよう?」
凛と蘭の二人が指差す方を、リンファが寝転びながら首だけを動かして見ると、そこでは銀色の装甲を身に纏った剣崎が未だ気を失っていた。
「放っておくネ」
「うん」「分かった」
そう答えた二人は左腕を失った貧血気味のリンファを両側から抱え、一番地で音が鳴り響く所へと向かったのであった。
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