第39話

 ドローン班は一心達が出撃する前に、【アウトロー討罰隊】の隊員達の反応が消失した公園に向けて、ドローンを複数飛ばす。先行して状況の把握とシロ達の所在を掴むためだ。

 ドローンが公園に辿り着くと――否、公園だった場所に辿り着くと、荒地であった。人間の血と肉片があらゆる所に飛び散り、それなりに綺麗だったはずの外観は消し飛んでいて、さながら爆心地と言えた。そこにはシロと糸田と炎士が待ち受け、ドローンのカメラに向けてシロは微笑を見せている。

「先程【アウトロー討罰隊】の反応がロストした公園は、何かで爆破されており……アウトローが三人待ち受けています! 【一番地の白王】、【一番地の執事】、【四番地の獄炎】と思われます!」

「あの糸使い……生きていましたか」

 糸田を討罰し損ねていたことに驚く剣崎を尻目に、トラックの外でその情報を聞いた一心は、シロからの挑戦状と受け取った。

「剣崎、火野、行くぞ」

「「はっ!」」

 三人が駆け出したその速度は正に疾風。凄まじい速度で公園だった荒地へと向かう。最恐最悪の犯罪者にして、最強のアウトローであるシロが待ち受ける場所へと。

 数分もせずに目的地へと辿り着くと、周囲にはドローンが飛んでおりシロ達を包囲していたが、彼らは蠅が飛んでいるぐらいの感覚で、まったく気にも留めていなかった。

 向き合う日本政府の三人とアウトロー三人。互いの視線が激しく交錯し、今にも戦闘が始まりそうな気配だ。

「一対一がお望みなんでしょ? いいよ、それで闘ろう」

 シロがそう言うと、ドローンのカメラでは視認できない速度で動いたのか、六人全員が消える。示し合わせたかのように、一心とシロ、剣崎と糸田、火野と炎士の三組に分かれた。

 火野と炎士は睨み合いながら一番地を駆け、他の戦闘の邪魔にならない場所へと移動し、戦闘場所をビル群の中にある道路に選択して立ち止まる。

「獄寺炎士……お前の相手は私だ‼︎」

「ミイラ男みてぇになっちまって可哀想になぁ! その包帯燃やしてツラ拝んでやんよ!」

 二人の戦闘は間髪入れずに始まり、炎士は全身に炎を纏い、火野は巨大な超硬合金の手甲を握りしめて――衝突した。衝撃波が走り、周囲の小さいビルを瓦礫と化して吹き飛ばす。互いの力は五分だったのか、無傷で二人は距離を離した。

「舐めているのか……獄寺炎士‼︎」

 炎士の火力は本気を出せば超硬合金をも破壊する。しかし、今は以前のように手甲は破壊されなかった。そのことは全力を出していないことを意味する。

「舐めてねぇよ、燃えてんだよ!」

 余力を残す炎士は火を吹きながら笑った。

「てめぇみたいなリベンジ野郎をコケにして、灰にすることを考えっと、燃えてくんぜぇ‼︎」

 火野で遊んで、焼き殺した時を想像して。


 剣崎は糸田の後を追う。自身の信念に迷いが生じはしているものの、目の前の犯罪者は大量の人間を殺した極悪人。犯罪者討罰法が無くなる前に討罰したいという一心の判断は間違っていないはずだが、どこかフワフワとした感覚が身体を支配しており、戦いに集中出来ずにいた。

「未だ、未熟」

 そんな自身の状態を受け入れつつも、乗り越えようとする剣崎を止めるかのように、糸田は廃墟となった住宅街の道路で足を止めた。

「一つ、聞いておきたいのですが」

 犯罪者である糸田に聞きたいことがあった剣崎は問う。

「お答えできることであれば」

「何故アウトロー……いや、犯罪者となったのですか?」

 その問いは正に真理。何故犯罪者に人はなりうるのかの心理が分かれば、犯罪者討罰法が無くなった明日以降にも、犯罪者を新たに生み出さないという対策が出来るかもしれないからだ。

「私の一家は特殊な宗教で、神を崇めていました。両親が多額の献金をし、家は破産。私は何とか生活するために闇バイトに手を染め、犯罪者に認定されました」

 糸田は別に隠すことでもなかったのか、自身の過去を語り始める。

「何とかアウトロー街に逃げ仰せたものの、この世に神などはいない。私はそう考えました……が、いたのです。シロ様という神が!」

 両手を広げ、夜を照らす満月を見て、目を見開いて唾を飛ばす糸田。

「絵画より美しく、何よりも純白で、言った通りに事を運び、私を導いてくれる! まるで社会という地獄にたれ下がった、蜘蛛の糸のように! これを神と呼ばずして何と呼ぶのでしょうか⁉︎」

 やはり犯罪者は、異端。シロが関わる話で変貌した糸田を見て「はぁ……」と、溜息をついた剣崎は、明日以降の日本に期待が持てずに首を横に振り、

「狂信者ですか、救いようがありませんね」

 鞘に収まったままの刀を構えた。

「救いようがないのはこの国ですよ! 汚れた色に汚染されております! 神が正さねばならないのです!」

「それが白の犯罪者と?」

「そう、シロ様です‼︎」

 糸田が仰々しく答えた時――いつの間にか目の前には抜刀する直前の剣崎がおり、今正に彼の首を刎ねようとしていた。瞬時に気付いた糸田は、その一刀を後方に飛び退いて躱す。

「やはり犯罪者など、生きている価値がありませんね」

「貴女が信仰する総理大臣か、私が信仰する神か! どちらが正しいか、この決闘にて決めましょう‼︎」

 事前に住宅街に張り巡らせていた糸の上へと乗り、高らかに宣言した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る