第38話

 隠密性を高めるためにドローンを飛ばしていない【アウトロー討罰隊】は、ナノマシン管理部門の情報を元にした火野の指示を聞いて、犯罪者が集う一番地の木々が茂る公園に向けて、展開していく。慣れていない土地にも関わらず、その手際の良さはまるで熟練の狩人が狩りを始める時のようだ。

「火野隊長、敵の武装は何でしょうか?」

 班長がインカムを使って火野と連絡をとり、情報を取る。

『ナノマシン管理部門によると、犯罪者共は銃火器と中身が不明のリュックを装備している。一番地掃討はアウトロー街殲滅の皮切りに過ぎない。余力は残しておけよ』

「はっ!」

 犯罪者を一人たりとも逃さないため、大きな公園の周囲を囲むため円のように散開し、犯罪者を遠目から視認する隊員達。どんどん円の大きさを縮めて、【アウトロー討罰隊】の存在に気付かずシロの指示を待つ犯罪者達を包囲していく。そして、

「一斉掃射」

 班長の命令に従った【アウトロー討罰隊】は一方的にドパパパパ‼︎ とフルオートのアサルトライフルで一斉射撃し、犯罪者達を殲滅していった。

「ぎゃああぁぁ⁉︎」

「うわああぁぁ‼︎」

 広い公園に悲鳴が響き渡り、逃げ惑う犯罪者は血を撒き散らしながら次々と倒れていく。【アウトロー討罰隊】は動く者がいなくなるまで引き金を引くのを止めない。

 しばらく怒涛の如く銃声が鳴り続け、ようやく全ての犯罪者が倒れて動く者がいなくなり、銃火器の引き金を引くのを止めた。念の為生死を確認するために【アウトロー討罰隊】は犯罪者に近付き、足で死体を転がす。

「よし、生きてるゴミはいないな? 次の作戦に移行する」

 刹那――。

 カッ!

「⁉︎」

 ドゴオオォォン‼︎

 犯罪者達が背負っていた迷彩柄のリュックから閃光が放たれ、爆発する。

 一人一人が背負っていた爆弾は誘爆して広い公園を包むほどの大きな爆発を起こし、火柱を上げて生死の確認をしに来た【アウトロー討罰隊】を巻き込む。接近していなかった隊員も同様だ。巨大な爆発は地面を抉り、木々を薙ぎ倒し、犯罪者達の死体と【アウトロー討罰隊】を丸ごと消し炭に変える。

「うーん、総理とかはいなさそうだから及第点かなー」

 起爆スイッチを押したのは、遠くのマンションの屋上から様子を見ていたシロ。元々は犯罪者達を生きる爆弾として一心や火野に特攻させ、起爆するのが目的であったが、中身の爆発物を確認されて逃げられる前に【アウトロー討罰隊】を巻き込む形で爆発させたのだ。一心や火野を爆発に巻き込むことは出来なかったが、犯罪者に勝る【アウトロー討罰隊】を一瞬で壊滅させた。

『ガガ……ど……した……ピガ……応答……』

 四肢が弾け飛んだ班長のそばに落ちている壊れたインカムから、火野の声が聞こえてくる。そんなインカムをいつの間にか現れた炎士が、バキッと踏み潰した。

「ぶははっ! これで雑魚の相手はしなくて済みそうだな!」

 アウトローのシロ達は日付けが変わり、犯罪者討罰法が無くなるのを待ったりはしない。法的保護を求めたりなどしないからだ。あくまでも敵対的であり、討罰しに来る人間は全て殺すだけである。


「返事をしろ! 何があった⁉︎ ナノマシン管理部門‼︎ 隊員達はどうなった⁉︎」

 巨大な爆音と揺れと共に応答が取れなくなった隊員達を心配し、火野はすぐさまナノマシン管理部門に通信した。

『反応……ロストしました。一瞬のことで何があったかは調査中ですが……全滅です』

 数十人の隊員達が一瞬で殉職。その報告を聞いた一心達やドローン班に沈黙が流れる。隠密を優先してドローンを飛ばさなかったが故に、情報が得れず不気味さだけが残る。火野は自身の作戦で隊員達を全員死なせてしまったことに動揺するも、一心は冷静であった。

「残る戦力は我らだけだが、我らが生き残ったのは不幸中の幸いと言えるだろう」

 【アウトロー討罰隊】の隊員達の装備では、犯罪者を圧倒できてもアウトローは倒せない。オーダーメイドの装甲を纏う一心、剣崎、火野であれば、アウトローに対抗できるからだ。もし一心達が死んで【アウトロー討罰隊】が生き残っていた場合、アウトローに対抗できる手段は無く、結局は全滅に至っていた。

「我らに続いた者のためにも、奴等を討罰することが弔いとなろう」

「……総理……」

 一心の言うことは最もではあるが、シロを討ちたいがために犯罪者討罰法を作ったことを知っている剣崎の顔は、銀色の装甲内で複雑なモノとなる。そんなことを露とも知らない一心は先陣を切ってトラックから出て行った。

「行くぞ」

「……【四番地の獄炎】は私にお任せください! 総理!」

 火野もいきり立って出て行き、剣崎も「ふぅ……」と一つ溜息をついた後に付いて行く。その溜息は迷い。大義の旗の元で闘っていたと思いきや、一心の私怨に付き合わされていたことが分かり、何のために闘うのか分からなくなったためだ。しかし、一度抜いた刀を鞘に納める程の器用さがない彼女は、一心と火野と共に戦いに身を投じる。


 一番地を揺らした爆発は、アウトロー街全体まで響いていた。それは三番地や二番地も例外ではなく、各地の犯罪者達や太一達は空に上がる巨大な爆煙を見上げていた。

「やっぱり……始まった」

 予想した通りシロと一心の戦争が始まり、居ても立っても居られなくなりそわそわとしだした太一を、彩葉はスウェットの腕の部分を摘まんで制止する。

「行くんじゃないよ」

「……え?」

「あんたが行って何になるってのさ。後四時間もしない内に明日になる。明日になれば犯罪者討罰法は無くなるんだ。闘う意味なんてないじゃないかい」

 彩葉の言う通り、犯罪者討罰法が無くなることとなった今、太一がシロと一心の闘いに介入する意味は無いように思える。

「そうですよね……僕なんかが行ってもあの二人を止められるはずがありませんもんね」

 心配する彩葉を安心させるため、困ったような笑顔を見せる太一。そんな笑顔を向けられ彩葉は本当にこれでいいのかと胸を痛めていた。ただ太一に死んで欲しくないという、自分の気持ちだけで止めているからだ。

「闘う……意味……」

 明日を迎えれば、太一の願い通り白黒ハッキリ分かれる社会ではなくなる。彼はそれでも何故か、胸がモヤモヤするような気持ち悪さを感じており、その原因が何なのか分からないのであった。

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