第37話

 大晦日の午後八時――日本各地が賑わう中、アウトロー街も例外ではなかった。とは言っても、祭りのような賑わいではなく、戦争の前触れの賑わい。夜のアウトロー街一番地の周囲には二十台以上の七三式大型トラックが止まり、【アウトロー討罰隊】が出撃の準備をしていたのだ。

「義手と義足の調子はどうですか? 総理」

 金と銀の全身装甲を装備する一心と剣崎が乗るトラックの中で、傷の調子も兼ねて剣崎に問われた一心は、超硬合金の金色の右腕の義手と左足の義足の調子を確かめた。

「元から我のモノだったかのようだ。よくぞこの短期間で完成させたものだ」

 【アウトロー討罰隊】の超硬合金の装甲や、対象のナノマシンを識別するゴーグルなどを開発した技術部が急ピッチで作った義手と義足は、一心が今着ている全身装甲同様オーダーメイドであり、綺麗に彼の体にフィットしていた。

「総理。【アウトロー討罰隊】、出撃準備整いました」

 報告のためトラックの中に入って来たのは火野。その身はスーツや手足の巨大な装甲を装着しているものの、晒された肌は痛々しく包帯で包まれている。さながらミイラ男だ。

「ならば、出るぞ」

「はっ!」

 共に傷が癒えぬままの一心と火野。しかし二人の復讐の念は以前より色濃く激しさを増しており、一番地へと向かうためにトラックから出た。

「……はっ」

 激情に駆られる二人に一抹の不安を感じながらも、銀色の全身装甲を纏った剣崎も一心達に続くと、外では整列した数十人もの【アウトロー討罰隊】が出撃を今か今かと待ち侘びている。

「待たせたな皆の衆。本日をもって【アウトロー討罰隊】は解散となる」

 一心が喋り出すと、皆神妙な面持ちとなる。警察や特殊部隊の精鋭が集められ、一般人に討罰出来ない犯罪者を討罰するために結成された部隊、【アウトロー討罰隊】。彼らは自身の仕事に誇りを持っており、犯罪者討罰法が無くなることに当然思う所があった。

「――が、今日の任務を果たすことが出来たならば、貴様らを結成した意味はあろう」

 そう言われ、彼らは目に光を取り戻す。このまま犯罪者に屈して終わらすわけにはいかないのだ。

「これまでの失態を取り戻せ‼︎ 死力を尽くして全ての犯罪者を討罰せよ‼︎」

「「「はっ!」」」

 【アウトロー討罰隊】はその選ばれた誇りを賭けて、一番地へと向かった。

 一心、剣崎、火野は後続隊。【アウトロー討罰隊】が犯罪者を討罰していけば、いずれアウトローのシロ達が現れるはずであり、それを討罰するのが役目だ。

「白の犯罪者よ、誇りに思え。陽子以外におらんぞ、ここまで我が思い焦がれたのはな」

「獄寺炎士……必ず私の手で仕留める……‼︎」

 一心と火野はナノマシン管理部門とドローン班から情報を取りながら、アウトローを狩るために血をたぎらせて待つのであった。


 アウトロー街一番地の公園。東京都同時多発テロで一番地の犯罪者はほとんど【アウトロー討罰隊】に討罰されて失っていたため、シロは炎士に四番地の犯罪者達を数合わせとして集めさせていた。

「何で俺達が政府と闘わきゃいけねぇんだよ!」

「そうよ! 明日になれば犯罪者討罰法は無くなるのに!」

 しかし、四番地の犯罪者は一番地の犯罪者達ほど好戦的ではなく、犯罪者討罰法が無くなる明日の二〇六一年一月一日を待っていた。

「炎士、躾がなってないね」

「うっせーな! 俺様は勝手に【四番地の獄炎】とか呼ばれて会長にされただけで、猿山のボスになるつもりはなかったっつーの! 連れて来てやったんだから、後は勝手にしろ!」

 およそ百の犯罪者達が反抗的にざわつく中、シロは指をパチンッと鳴らした。

 シュパッ!

 すると、突如最前列にいた一人の犯罪者が小間切れとなり、命を散らす。それを見た四番地の犯罪者達は、何が起きたかも分からなかったため、「え?」と悲鳴も上げずに固まり、ボトボトと肉片が落ちる音だけが周囲に響き渡った。

「シロ様の命に従わない方は私が殺して差し上げます。逃げようとする方も同様です」

 糸田にそう言われてようやく正気を取り戻したのか、「きゃああぁぁ⁉︎」と悲鳴が上がり、動揺が広がる。それを黙らすかのようにシロは両手をパンっと叩いた。

「さ、背水の陣で頑張ろーっ」

 シロは楽しそうに言っているが、四番地の犯罪者達は顔面を蒼白とさせて、冷や汗をかく。糸田から次々と銃火器と迷彩柄のリュックを渡され武装していく四番地の犯罪者達。

「ん?」

 そんな中から、シロは興味深い存在を見つける。

 薄汚れた服を着て、汚れた熊のぬいぐるみを持った、五歳児程の女児。これから何が起きるのかという不安で怯えて震えていたが、近づいて来るシロを見て目を見開いた。

「お兄さん……天使?」

「そう見えるかい? だとしたらそうかもね」

 まるで生まれて初めて美しい絵画を目にしたかのように目を輝かせた少女の頭を、シロは屈んで同じ目線となって優しく撫でる。

「すみません! この子が何か失礼を……⁉︎」

 二人の夫婦と思わしき犯罪者が焦りながら、少女の頭を撫でるシロへと近づいて来た。

「この子は?」

「私達が犯罪者になって、アウトロー街で産んだ子です……」

 そう聞いたシロは立ち上がり、真紅の瞳で母親を見据える。

「ふーん……産まなきゃ良かったとか思ってる?」

「そんな……何故⁉︎ 私達の大切な子です!」

 その答えを聞き、本当の天使のように優しく笑う。

「君達は今から戦争をするんだ。純粋無垢なこの子は避難させてあげなよ。この子の色は汚しちゃいけない」

「は……? はい……ありがとうございます……」

 彼はほとんどの人間にとっては残虐非道であるが、まだ何色にも染まっていない白色の純粋無垢な子供には優しかった。両親二人は戦争に駆り出すが、少女は巻き込まない。

「そのままの色でいられるか、はたまた別の色に染まるかは、その子次第だね」

 そう言ってシロは少女の両親に銃火器と迷彩柄のリュックを渡した。

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