第34話
放送センターの周囲にドローンが飛び交う中、一〇二スタジオ内にいる一心とシロの闘いは激しさを増していく。互いに殺意を込めた一撃一撃を放つ戦闘の余波はスタジオのほとんどを崩壊させており、地震が起きたかのように放送センター全体を揺らしていた。
「ふんぬらああぁぁ‼︎」
復讐心をぶつけるために蹴撃を振るい続ける一心。そんな激しい蹴りの乱打を躱しながらも、不適な笑みを浮かべるシロは【咎】を発動する。
【
選んだインクの色は赤。太一を重傷まで追い込んだ、塗ったモノの強度を変える色だ。赤色のインクで両手を染めたシロは、一心の蹴りをその手で受け止めた。
「!」
シロの赤く染まった手に気付き違和感を抱いた一心は、冷静さを取り戻し、すぐさま跳躍して後退する。その反動で、炭屑程の強度に変えられた右足の
「一体いくつの異能を持っておる……貴様」
「あはは、そんなに期待されても困るなー。残念だけど俺の【
一心の問いに正直に答えたのは、自身の【咎】の強力さと応用力への自信の表れだろう。実際シロの【咎】、【
「ど? 勝ち目ありそ?」
赤いインクにまみれた両手を執刀前の手術医のように掲げて見せる。そんなシロの真紅の目は妖艶かつ不気味、かつ余裕気もあった。さながら白い悪魔だ。
「社会のゴミ如きが、我を舐めるなぁ‼︎」
頑張って楽しませてくれよと言われたかのように感じた一心は、当然激昂する。妻を殺され、十二年もの間憎んでいた相手に日本のトップである自身が下に見られ、舐められたのだ。当然のことだろう。
右足の足甲の残る部分を崩れさせながらも、シロへと疾走し、全力で拳を振りかぶった。それに呼応するかのように、シロも一心へと駆ける。
「死ねぇ、ゴミがああぁぁ‼︎」
一心の怒りの叫びと共に、二人は交差した――。
「残念だけど、その願いは叶わないよ」
瞬間、一心の右腕と左足が爆ぜた。
シロの【
「ぐああぁぁ⁉︎」
右腕の肘から先と、左足の膝から先が地面へと落ち、その激痛から悲鳴を上げ、血を撒き散らしながら地面をのたうち回る一心。そんな彼を見て、シロは【咎】を解除して赤いインクを手から落とし、両手を広げて天真爛漫に笑った。
「あはは、それじゃあもう闘えないねーっ」
一心はしばらくのたうち回った後、「ぬぐううぅぅ……‼︎」と唸りながら、悔しさと痛みからギリっと歯を食いしばり、シロの元へと這いずっていく。右腕と左足を失ってなお、闘う気力は微塵も失っていない。その原動力は、凄まじいまでの復讐心だ。
「貴様だけは……! 貴様だけはああぁぁ‼︎」
血で地面をなぞってシロの元へと辿り着き、這いつくばりながらも何とか放った左の拳は、
「何、それ?」
当然シロの足元で空を切る。
一撃。この戦闘で一心はただの一撃も、シロに入れることが出来なかった。最早闘うことは出来ないため、討罰するどころか一撃を入れることすら叶わない。
「まるで羽根をもがれた虫だね」
シロがクスッと笑ってそう言うのも無理はない。今足元にいる一心に出来ることは、情けなく地べたを這いずり回ることくらいなのだから。
「それじゃ、バイバイ」
一心の首を装甲越しに刎ねるため、シロは手刀を赤いインクで染める。そして、手刀を振りかぶった時――。
「戸鎖総理ぃ‼︎」
「!」
突如として剣崎がスタジオへと入り込み、シロへと向けて刀を振りかぶっていた。空気を斬りながら振り下ろされた超硬合金の刀は、即座に反応したシロの赤い手刀とぶつかり合い、炭屑のようにボロっと崩れ去り、破壊される。
「なっ⁉︎」
続けざまにシロは左足を赤いインクに染めて、驚く剣崎の腹部へと蹴りを放った。
「……っ……⁉︎」
超硬合金製の刀を一瞬で破壊され、シロの攻撃に悪寒を感じた剣崎は、即座に壊された刀を捨てて一心を片手で抱えて後ろに飛び退く。その際、シロが放った蹴りはギリギリ掠り、削りとるように銀色の腹部の装甲を破壊する。
「撤退します! ドローン班、援護して下さい!」
着地し、自身の装甲の被害を確認した剣崎は、すぐさまシロとの力量差を測り、逃げることを選択した。一心を抱えたまま一〇二スタジオの空いた穴から脱出する。
「逃がさないよ」
当然一心を殺すことが目的のシロが逃がすはずもなく、追いかける。深手の一心を抱える剣崎と万全のシロ。追いつかれるのは時間の問題であったが、周囲には【アウトロー討罰隊】のドローン班のドローンが飛び交っていた。
「今です!」
「ん?」
ドゴォン‼︎
剣崎の合図と同時、シロの周囲に飛んでいたドローンは、彼に突撃して爆発する。
今シロの周囲を飛んでいるドローンは、一心が一番地を攻めようと事前に用意していた物――爆弾を積んだ攻撃ドローンだ。可能な限り静音で速く飛ぶため軽量化されており、アウトローにも有効であると一心が判断した兵器である。
ドゴォン‼︎ ドオォン‼︎
攻撃ドローンは次々とシロに突撃し、爆発していく。無人の神風特攻隊とも言える凄まじい特攻は、彼の足を止めさせた。
残された爆煙が晴れて無傷で現れたシロは、自身の白い服の汚れをはたき、残念そうに「ちぇっ」と、舌打ちをする。
「ま、十分かな。社会を変える種火には」
しかし、今後のことを考えると楽しくなったのか、微笑みながら遠く離れていく一心達の方を見つめるのであった。
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