第33話

「社会のゴミがああぁぁ‼︎」

「ひゃっはああぁぁ‼︎」

 熱量が増していく火野と炎士の闘いは、まるで災害であり、逃げ惑う人々や【アウトロー討罰隊】をも巻き込んでいる。火野の使命は国民を守ることであるが、そのことを忘れて炎士との闘いに躍起になっていた。

「火野隊長⁉︎」「このままじゃ被害が……‼︎」

 正気に戻そうとする部下の声も一切届かず、笑う炎士を執拗に追いかけ被害を拡大させていき、新宿駅前は死体と重症人だらけで悲惨な状況だ。

「お前みたいなリベンジ野郎は大好きだぜぇ‼︎」

 そんなことを微塵も気にしない炎士は、口をぷくッと膨らませて火炎放射器の如く火を吹いたが、【アウトロー討罰隊】が纏う黒のスーツは防火、防刃性に優れているため、交差させた腕を盾にして真っ直ぐに突き進む。

「獄寺炎士ぃぃ‼︎」

 放射された火炎を上半身のスーツを燃やしながらも搔い潜った火野は、炎士に向けて殺意の拳を振りかぶった。

「頭に血ぃ上りすぎだぜ」

 怒りから放たれた巨大な鉄拳はあまりにも愚直で、炎士に容易に躱され、

「ハゲ野郎が‼︎」

 炎を纏った前蹴りでの反撃を喰らう。

 蹴り飛ばされた火野は、燃えながらファーストフード店に突っ込み、テーブルや椅子を吹き飛ばして、店内に火を引火させた。

「さぁ、来いや! こんな熱さか⁉︎ 家族を燃やされた復讐心ってのはよぉ⁉︎」

「黙れええぇぇ‼︎」

 足甲の裏からロケットのようにゴゥッ! と火を噴き出して、燃える店内から現れた火野は、そのまま再び炎士に向けて飛び掛かり、炎によって熱量を帯びた手甲で再度殴りかかる。上着のスーツと防弾チョッキはほぼ燃え尽きており、火野の体に密着するカッターシャツも燃やされていた。

「死ねええぇぇ‼︎」

 心と体が燃やされようとも火野は止まらない。止まれない理由が彼にはあるからだ。

「ひゃっはああぁぁ‼︎」

 炎士も足裏からボゥッ! と炎を噴出して空を飛び、みるみる内に加速していき、飛んでくる火野を迎え討った。

 ボゴオオォォン‼︎

 炎を纏う炎士の拳と火野の手甲がぶつかり合い、その余波は周囲に衝撃を伝え、アスファルトを砕いて浮き上がらせる。

「火野隊長ぉ!」

 【アウトロー討罰隊】の隊員達は、余りの余波に吹き飛ばされるのを堪えながら、火野の勝利を願って二人の闘いの結末を見守った――が。

 バキィィン‼︎

 割れるような金属音が周囲に響き渡り、火野の超硬合金の右の手甲は砕け散る。簡単に壊れるはずがない超硬合金の手甲が破壊されたことに火野は動揺し、目を見開いた。炎士は彼の手甲を壊した勢いそのまま、火野の巨体を抱きしめるように両腕を回して拘束する。そして自身の全身を燃え上がらせ――。

迸る焔バースト・フレイム

 火野を燃やした。

「火野隊長‼︎」

 周囲にも熱量が伝わる程の獄炎は、【四番地の獄炎】の名に相応しく、火柱となって彼の皮膚を、肉を、復讐心をも燃やし尽くす。

「がああぁぁ‼︎」

 悲痛の叫びは熱と共に新宿中に響き渡り、新宿にいる民衆は競うかのように、逃げて行った。【アウトロー討罰隊】の面々も、余りの熱にその場からたじろぐことしか出来ない。

 しばらくして火柱が収まると、煙が覆う火元からは、上半身の服を燃やし尽くした二人の半裸の男が現れる。うつ伏せで倒れる火野と、お気に入りのスカジャンが燃え尽きてしまった炎士だ。

「良い感じに焼けて、また男前になったなぁ。火野さんよぉ」

 消炭とならなかったのが奇跡と言える火傷を負った火野の皮膚と肉は爛れており、真っ黒となっていた。その体と穴という穴から煙を上げ、異臭を放っている。

 そんな彼を見て、炎士はギザ歯をギラつかせて大きく笑い、捨て台詞を吐いてその場から去った。

「生きてたら俺様の顔二度と忘れんなよぉ……忘れるわきゃねぇか! ぶはははは‼︎」

 気を失った火野には、その笑い声は聞こえなかったのであった。

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