第31話

『現在、池袋、上野、秋葉原、品川、新宿が討罰されずに逃げていた犯罪者達に襲われています! 現場は騒然としており、多数の死傷者が出ていると思われます! 現在【アウトロー討罰隊】と警察が連携して対処しておりますが――』

 公共放送は機能しておらず、民間放送ではヘリが東京各地の惨状を撮影しており、夜のビル群の明かりと燃えて煙が溢れる街を全国民に観せている。彩葉、リンファ、凛と蘭も当然その生放送を観ていた。

「シロ……!」

「随分楽しそうネ」

「赤い花」「いっぱい?」

 煙管キセルをふかすリンファと、ソファでくつろぐ凛と蘭とは対照的に、部屋のテレビ越しに彩葉は動揺していた――と同時に、アウトロー量産化が叶っていれば、被害はこんなモノではなかったと想像を働かせる。

「国はジジイに感謝ネ。アウトロー量産化してたラ、国は滅んでたヨ」

「でも……これじゃあ……アウトロー街は……」

 【アウトロー討罰隊】が動けば、アウトローのシロ達以外の犯罪者はほとんど討罰され、同時多発テロを起こした一番地だけでなく、アウトロー街全体が今以上に危険視されるはずである。事態が鎮静化すれば国は本気となって、生きている犯罪者を討罰しにくるだろう。

「……ぅ……彩葉さん……ここは……?」

「太一⁉︎」

 彩葉が最悪の事態を想定していると、太一の目が覚めた。生死の境という山場を越えて生き残ったのだ。

「ここはあたいらの家だよ」

「シロ……さんは……?」

 胸を貫かれてからの意識がなかったのか、シロがどうしたのかというより、あの後どうなったのか太一は尋ねたかったのだろう。

「ひなたは死んで……あたいらは負けたよ」

「そう……ですか……」

 彩葉は太一に余計な心労を与えないために、隠すようにテレビを消した。

「大丈夫かい? 痛まないかい?」

「はは……彩葉さんって……こんなに優しかったでしたっけ……?」

「うるさいね。怪我人はバカ言ってないで寝てな」

 太一の目を閉じさせるように顔を撫でる彩葉。彼は安心したのか、そのまま再びスゥ……と、寝息を立て始める。

「コイツ、アウトロー違うかったら死んでたネ」

「不服だけど、止血してくれたあんたにも感謝しないとね」

「なら、とっとと五千万寄越すヨ」

 リンファが差し出した手を、パンっとはたく彩葉。

「バーカ。それとこれとは別の話さ。あんたの意思で勝手に治したんじゃないかい」

「あんな情けない【三番地の女盗】見たラ、やむなしヨ」

「なっ……うっさいね! あんたってヤツはさ!」

 恥ずかしさから顔を赤くしながら、呆れるリンファの顔面に向けて蹴りを放つも、リンファは首を傾けるだけで、あっさりと躱した。そしてテーブルの上のリモコンを手に取り、再びテレビをつける。

「で、どうするつもりカ? コレ」

「どうするも何も……どうしようもないじゃないかい。シロを止めるために人間に協力すんのかい? それともシロに協力してテロに参加すんのかい? どっちもごめんだね」

「ま、そりゃそうネ」

 今後の成り行きに身を任せるざるを得ない二人は――いや、アウトロー街全体の犯罪者達は、固唾を飲んで民間放送を見守るしかないのであった。


 一触即発。

 一心、剣崎、シロ、糸田の四人の間では言葉が交わされなくとも、険悪な空気が流れている。ジリジリと全員が横歩きをし、示し合わせたかのように、自身が闘う相手と対面した。

 一心とシロ。剣崎と糸田。互いの闘いの邪魔にならない距離まで離れた時――。

「剣崎。邪魔者を連れて行け」

「はっ!」

 戦いの火蓋が切られる。全員が同時に高速で動いたため、傍目から見れば四人は消えたようにも見えただろう。

「ふうんぬらあぁぁ‼︎」

 一心の怒号が響き渡ると、一心とシロが交錯する。ズガガガガ! と、拳や蹴りによる乱打音が鳴り続ける中、剣崎は糸田をこのスタジオから引き剥がすために刀を抜いた。

「ふっ‼︎」

 銀色の超硬合金の装甲を纏い、身体能力が強化された剣崎の剣は、その技術もあってか尋常ではない速度と威力を誇り、糸田の背後の壁を細切れに切り裂き、大穴を開ける。

「総理、ご武運を」

 そして、糸田に飛び蹴りを決めて大穴へと突き飛ばし、剣崎も続いて放送センターの東館の外へと駆け出て行った。スタジオに二人だけ残された形となった一心とシロは一度距離を置く。

「白の犯罪者、貴様に問う」

 一心はシロを討罰する前に、どうしても彼に聞きたいことがあった。

「なーに?」

「十二年前、我の命を狙った目的は何だ⁉︎」

 太一の母、自身の妻である陽子が死ななければならなかった要因、その思想を知りたかったのだ。何故、何故、と後悔の念に悩まされた一心にとって、目の前のシロは唯一答えを持ち合わせているのだから。

「ブランドが欲しかったのさ」

「ブランド……?」

「総理大臣を殺した、又は殺し得るというブランド。そういうモノを手に入れれば、同じ思想を持った人間は勝手に集まる。でしょ?」

 シロが言っているのは目的でなく手段であり、一心にとってはふざけた答えだ。

「だからその目的は何だと言っておる⁉︎」

「言ったじゃん。この社会を白に染め直すためだって」

 相変わらず煙に巻くように、訳の分からないことを言うシロに、

「ふざけるな‼︎」

 怒り心頭に発した一心は突撃する。

 黄金の装甲から繰り出される連撃は一方的に繰り出され、シロは防御に専念した。が、遂に顔面を捉えられる。

光の三原色プライマリー・カラーズ

「‼︎」

 渾身の一撃はシロに命中したはずであったが、彼は青いインクへと変わり地面へとドバっと撒き散り、本体は何処かへと消えた。

 不可解な現象に一心は、即座に頭の装甲の耳の辺りを指でノックし、装甲からスイッチを出して操作し、自身が装甲内から見る視界を赤外線カメラに切り替えた。

 辺りを見渡すと、背後から貫手を振りかぶっているシロが目に映り、その貫手をすんでの所で左腕で弾く。すると、緑色のインクが流れ落ちシロが現れた。

「俺の【咎】を見破るなんて、科学ってのは実に厄介だね」

「黙れ、ゴミが喋るな‼︎」

 人間と犯罪者。総理大臣とアウトローの王。白と黒の闘いは、激しさを増していく。

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